魔王ちゃんと騒がし食事会2
「結局オルタは帰ってこなかったね」
「なんか、うちのお母様がごめんね」
夕食をみんな食べ終えたから、僕は幾つかのデザートの盛り合わせをそれぞれに出している。ソフィアとロイさんがお茶を淹れてくれたことに礼を言うと、クレインくんがしみじみと言った。
「オルタさん、どうかしたのですか?」
「え~っと――」
「ソフィア、オルタくんとマナさんはお母様に連れていかれたんだよ」
「それはまたどうして?」
「なんかオルタを気に入ったみたいでこき使ってやるって。リーンさんの前で才能やらなにやら言ったのがなぁ」
「おや、私も彼に色々教えようと思っていたのですが、出遅れましたかね」
「……ロイ殿と夜王に稽古をつけてもらうですか。化け物になるのでは?」
人のお母様とお客さんを指して化け物とは些か失礼……いや、さもありなん。
僕が頭を抱えるとアヤメちゃんが口の周りにクリームをつけて口を開いたのが見えた。
「そういやぁリョカ、ちょっと気になってゼプテンの冒険者ギルド見ていたんだけれど、ガイルが氷漬け、アルマリアが禿げるんじゃないかってくらい撫でられ、連れてかれたマナがお前に怨嗟の言葉を発しながら連れていかれる光景を視たわよ」
「僕関係なくない!」
というかあの金色炎の勇者なに負けているんだ。アルマリアに関しては……まあわからなくもない。
「つまりもう王都には戻ってきているのですね……ジンギくん、暫くエレノーラの面倒を頼んでも良いでしょうか?」
「え、ああはい、大丈夫っすよ」
「明日はリーン殿を捜すとしますか」
「面白そうだしあたしもついていこ」
「あっ」
ラムダ様がロイさんについて行くと言ったから、なんとなくこれからの展開が読めてしまった。僕だけではなく、タクセもそうなのか、顔を引きつらせている。
「そ、そう言えばリョカさ、生誕祭まで時間あんまりないけれど、リョカはともかく他の皆さんは大丈夫なの?」
「そりゃあもう付っきりで猛特訓よ! ルナちゃんフィムちゃんはともかく、アヤメちゃんとテルネちゃんは寝かせな~いぜっ」
「ヤダ、寝る」
「……リョカさん、何度も言っていますが、私はそう言う行事は――」
僕はそっと手にぬいぐるみを出した。
きりっとした目で黒い長髪、その丸い手には本を持っていた。
「卑怯ですよ!」
「ハッハッハ、魔王ですから」
「……ああ、テルネ様人形ついに出来たんだ」
「いやぁ、あたしもついに可愛い服が着られるんだねぇ」
「ラムダ様はずっと可愛いですよっ」
「エレノーラありがと~」
ラムダ様がエレノーラを撫でる姿に和みながらも、僕はソフィアとランファちゃんに目を向ける。
「2人もこの機会に歌と踊り覚えておく?」
「遠慮しておきますわ」
「私も、そう言うのはちょっと」
僕はチラとクレインくんに意識をやる。
すると彼は少し顔を赤らめて僕から顔を逸らしており、ピヨちゃんに腕をハムハムされていた。
「似合うと思うんだけれどなぁ。まあそれはいつかスピカもいる時に無理矢理引きずり込むとして」
「とんでもなく極悪な計画が聞こえましたわ」
「私は逃げますね」
「……なまじわたくしより逃げられそうなのが腹立ちますわね」
ソフィアを捕まえるのはどうしたらいいのか。まあそれはベルギンド様を捕まえて計画するとしよう。それよりも今はこっちだな。
「というわけでテルネちゃん、これが欲しかったら……わかってますね?」
「くっ」
なんかエロゲ―やってる気分になってきたな。テルネちゃんクッころ枠だったか。
「そういえばクオンさんって」
「ああ、クオンは明日にでも来るんじゃないでしょうか? 今必死こいてお仕事中なので、それが終わればという感じのようです」
「そんなに忙しいんですか?」
「あ~いえ、なんでかルーファがこっちに降りてきたみたいなんですよね。その代わりを務めていて、すぐに降りてこられないようです」
「しゅごし……ルーファ様が? そういえばカンドルクさんに会いに来るとかなんとか」
「カンドルクさんの元にもいないのですよね。どこへ行ったのやら」
ルナちゃんと2人で首を傾げると、デザートを食べ終えたミーシャが僕の袖を引っ張ってきた。
「ん~、もう眠い?」
「ううん、今の話だけれど、今日1日親父を見なかったのよね」
「え?」
僕とルナちゃん、そしてアヤメちゃんで顔を見合わせ思案顔を浮かべる。
あのおっさんまさか――。
「ちょっと全力で探しますね」
「お願いします。ま~た妙なことするんじゃないだろうなぁ」
「いる、拳?」
「まだ抑えておいてね。見つけたら開放して良し」
頷くミーシャに満足し、今夜決めることはこのくらいだろうか。
あとは生誕祭までのんびり過ごして、そのあとでテッカに連絡してカナデの捜索……ゆっくりしててよいのだろうか。
いやしかし、正直魔王だって聞いたから慎重に行きたいんだよなぁ。
あの子は弱くないし、然う然う手遅れになるってことはないだろうけれど――というかなんでカナデを連れて行ったのかもよくわかっていない。
う~ん、情報が足りなさ過ぎる。
やっぱりテッカの報告待ちだな。
そんなことを考えつつ、僕は夕食の片づけに入るのだった。




