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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
35章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都でしばしの休息。
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魔王ちゃんと騒がし食事会1

「そう、スピカたちのところに行くんだね」



「はい、違う環境で頭を冷やそうかと思いまして」



 ライブ会場設営をそれなりに終えると夕食時になり、僕はセルネくんとソフィアを含め、お母様とオルタくんを除いた面々へと夕食を作り、みんなで揃っていただきますとしたところで、ランファちゃんがグエングリッターにお世話になると言うことを聞いた。

 一応ルナちゃんから夕方ごろに聞いていたけれど、ランファちゃんの口から聞きたかったから丁度良かった。



「おうおう行け行け、うんでバイツロンドの爺さんにでも扱いてもらえ」



「むぅ、それだけですの?」



「俺は行かねぇぞ。お前のせいで将来就くはずだった仕事がなくなったからな、出来ること探さなきゃなんねぇんだよ」



「……」



「俺のことで顔伏せんなバカたれ。やったことに後悔すんな、後悔するんならやるな。いい加減お前はお前の言葉と行動に責任を持つことを覚えろ」



 意地悪そうに笑いながら言うジンギくんに、ランファちゃんが頬を膨らませて睨んでいた。

 この2人は良いところに着地した。甘やかさないなんて宣言したジンギくんだけれど、厳しい言葉もきっと彼女を想ってのことだろう。



「……それなら責任をとるついでに。ジンギ、あなた誰かに構っていないと生きていけないくらいには寂しがりなんですから、良い人(・・・)でも見つけたらどうですの? そのチンピラ顔を気に入ってくれる人がいるならですけれど」



「うっせぇ、そっちは問題ねぇよ。お前が離れた途端、また厄介なのが引っ付いたからな」



 ジンギくんが自身の肩辺りを撫で始めた。そこにヴィヴィラ様がいるのだろう。

 しかし次の瞬間、彼の頭上に拳大の鉄球が降ってきた。



「あったぁ! てめぇヴィお前か!」



『厄介なのは君だ君。世話をしているなんて、君は勘違いしているんじゃあないか?』



「あっジンギさん、ヴィーラは小さい頃、右に行くのも左に行くのも選べずに泣いてしまった挙句、ヒナが引っ張らなくちゃ一歩も踏み出せなかったくらいには臆病な子なので大事にするですよ」



『……ヒナ、その口閉じてくれないかな?』



「ヒナにお姉ちゃんぶられている時点で、未だに治っていない癖があるってことだろ。まっ、姉ちゃんの言葉は大事にしろよヴィ」



 明らかにヴィヴィラ様が膨れている気配を感じながら、僕はふとソフィアの隣で訝しんでいるテルネちゃんに目をやった。



「……」



「テルネ、もう決まったことだよ。君もそれに納得しただろう?」



「わかっています。ヴィヴィラにはもう手を出さない。あの子が何か起こしたらリョカさんたちが率先して解決に向かう。でしたね」



「ロイくんも手を貸してくれるから、大船に乗った気でいなよ」



『……知らないところで妙な盟約が結ばれているのだけれど?』



「あなたが面倒な立場にいるからですよ。まったくアリシアにまで説教されて、三女である自覚を持ちなさい」



『……月の魔王、随分と協力的だね。見返りは何?』



「あっ馬鹿――」



 ジンギくんの止める声もむなしく、僕はヴィヴィラ様に向かって前のめりで立ち上がり、息を荒げる。



「え? 体がある時に一日中好き放題していいんですか!」



『は?』



「リョカさん、この間言ったですがヴィーラは泣き虫なのでヒナにやったように服を引きちぎっちゃ駄目ですよぅ」



『服を引きちぎる?』



「ヴィ撤回しておけ~、リョカにそんなこと言うと本気で拘束されて、アヤメみたいに目から光が消えるぞ」



『……理由を聞いただけで何故こんなことに』



 僕が鼻息を荒げて手をワキワキと動かしていると、突然脳天に奔る衝撃――足が床をぶち抜き、腰まで埋まってしまった。



「食事中に立つな、埃が舞う」



「……はい」



 床から脚を出し、座り直した僕は穴が開いた床を現闇で補修し、食事を再開するのだけれど、その前に疑問に答えておこうとヴィヴィラ様に意識を向ける。



「あなたは可愛い子だ。確信がある」



『それ、理由になっていないんじゃあないかい?』



「いや理由になってるだろ」



『……君彼女に毒され過ぎでは?』



「こうなったリョカさんは止められませんよ。不確定(・・・)を信じるのなら彼女を頼った方がいいですよ」



 ジンギくんとテルネちゃんの発言に呆れたような雰囲気のヴィヴィラ様だったけれど、すぐに諦めたようなため息をついた。



『まあ良いよ。気が向いたら力を借りてあげるよ』



 と、言った。

 つまりその隠している何かは誰かの力を借りなくちゃいけないようなことで、尚且つ今はまだ誰にも知られたくないと言うことか。

 この運命神様、神獣様よりも迂闊なところがある。

 多分元々嘘をつくことに慣れていないのではないだろうか。だから隠れる、誰かと一緒にいると声にしてしまうのをわかっているんだ。



 その発言でアヤメちゃんとテルネちゃん、ラムダ様、そしてピヨちゃんが眉をひそめた。



 何かを隠していることは確定した。しかもそれを解決したいと考えているのも確定した。

 やっぱり女神様は意味もなく何かを起こさない。その確信が得られただけでも今は十分か。



 そうして考え込んでいるとジンギくんと目が合った。彼は肩を竦ませると、途端に言葉を失くした僕たちを警戒しているのか『う~ん?』と唸っているヴィヴィラ様を撫でた。



「ほれヴィ、リョカより先に俺に頼めなぁ。お前もなんかちっこい奴の気配がするんだよなぁ」



『調子に乗るな』



 ジンギくんの手を払っているのだろう、そのおかげで彼女の警戒心は解けたようだ。

 本当に気の利く男になったものだ。しかし彼の言うちっこい奴の気配ってもしかしなくても女神様の気配ではないだろうか。



 そんな彼女にランファちゃんが目をやっていた。



「ヴィヴィラさ――ヴィさん、ジンギが面倒をかけると思いますが、良かったらこれからも良くしてあげてくださいですわ」



『……まああたしも必要だからくっ付いているからね、君に言われなくともよろしくやるさ。だから君は君の心を休ませてやると良い。ジンギにはあたしが付いているから、安心してフィムの厄介になると良いよ』



「ありがとうございますわ」



 ジンギくんは絶対に必要なファクターか。そしてやはり女神様らしく人に優しい。うん、やっぱり可愛い子だ。



『ところで、さっきからルナ姉の顔が死んでいるんだけれど、どうかしたの?』



「ああそうだ。ルナ、さっきお前の妹に会ったぜ、いい子だな」



 フィムちゃんとピヨちゃん、ヴィヴィラ様以外の女神様が息を飲んだ。

 この男は空気が読めるのか読めないのか計れないな。ここでもさらに地雷を踏み抜くか。



「ジンギさ~ん……お望みのようなのであとで踏みつけてあげますね~」



「なんで!」



 顔を伏せていたルナちゃんがゆら~と顔を上げ、怪しく光る瞳でジンギくんに言い放った。

 その行動にソフィアとランファちゃんが首を傾げるけれど、近くにいたセルネくんが2人に耳打ちをした。



「ジンギがアリシア様に余計なことを言ったのと、本来なら自分が率先してやるべきランファの慰めを妹に先を越されて不貞腐れているらしい」



「あ~……」



「ランファさん、そういえばアリシア様に助言を頂いたとか」



「ええ、とても優しく喝を入れられましたわ。もっと恐ろしい方かと思っていたのですが、ルナさんに似ていて、やはり姉妹なのだと」



「あ~ちゃん優しいでしょ? 私にもいっつも優しくしてくれるんですよ」



「アリシア様って実はリョカに似ているところあるよね」



「それは盲点でした! 確かに言われてみればそうです。甘やかし方が一緒です」



『まあ確かにあの子しっかりしているけれど、フィムやテッド、ラムダ姉とか一部の子たちに極端に甘いところがあるから、案外慕われているんだよね。銀の魔王みたいにか弱い子には特に弱いし』



「え? ヒナはアリシアに甘やかされたことないですよ? こんなに愛情振り撒くか弱いヒナなのに」



『ヒナに甘やかされる要素はない』



 そんなことを話している面々をルナちゃんが体を震わせて涙目で見ていた。

 しかしアヤメちゃんが食事を終えたのか、席を立ちフィムちゃんとピヨちゃんの近くに寄り、頭を撫でた。



「ほれお前らもさっさと食べちゃえ」



「は~い」



「ぴよぅ」



「ヴィヴィラ飯は?」



『食べられると思っているのかい?』



「信仰くらい食っておけ」



 アヤメちゃんがビー玉ほどの信仰の塊を作ると、ジンギくんの肩目掛けて弾いた。

 ヴィヴィラ様がモゴモゴとした音を出し始めたことから、きっと食事をしているのだろう。信仰って食事になるんだ。



 そしてアヤメちゃんがチラと僕に目線をくれたから、席を移動してルナちゃんを持ち上げて椅子に僕が座り、月神様を膝に乗っけた。



「ルナちゃんが素敵な女神様だってことはみんなわかっていますから」



「……本当ですか? アリシアの方がいいとか思わないですか?」



「アリシアちゃんが素敵なことはルナちゃんが一番よく知っているのでは?」



「むぅ……そうですね。あの子は賢いですし、わたくしが見られなかった箇所をよく見ていました」



「アリシアちゃんも、ルナちゃんの新たな一面を知られて嬉しかったと思いますよ」



「そう、なのでしょうか?」



「きっとそうですよ。アリシアちゃん、お姉ちゃんから奪うって言っておきながら、お姉ちゃん大好きオーラいつも出していますもん。あとはルナちゃん自身があの子とちゃんと会話をすればいい。そうすればきっと――」



 ルナちゃんが頷き、やっと笑顔が戻ったのを確認して月神様を再度あやすように撫でるのだった。

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