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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
35章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都でしばしの休息。
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星神様と傷心の雷星の勇者ちゃん

「……ランファ、リョカお姉さまたちがご飯持ってきてくれたよ」



「……」



 戦いの後、ランファはお布団を頭からかぶったまま出てこなくなっていた。

 さっきリョカお姉さまが食事を持ってきてくれたけれど、それでも彼女が出てくることはなく、ルナお姉様もリョカお姉さまも、ランファに待っているよ。と話しかけて戻っていった。

 ジンギお兄様もミーシャお姉さまに連れていかれてしまい、今は私だけがこうして一緒についている。



 バルバトロス内で起きたことはあらかた把握している。

 イシュルミ=テンダー、彼の最後の言葉、そして最後の顔、まだ勇者になって間もない成人を迎えたばかりの少女には荷が重いだろう。



 ジンギお兄様が少し軽くしてくれたみたいだけれど、それでも彼女の歩みを進ませるにはまだ重いようだ。



「ランファ――」



 私がお布団の上から彼女の体を撫でると、突然部屋の扉が開け放たれ、誰かが入ってきた。



「まったく、星は夜に沈むものではないのに」



「あ~ちゃん!」



「お節介の1つや2つ、大した差がないから邪魔しに来たわ」



 あ~ちゃんはズカズカとランファのベッドに近づくと、無理矢理そのお布団を剥いだ。

 中で丸まる雷星の勇者は顔を涙でぐちゃぐちゃにしており、歯を食いしばってあ~ちゃんを、夜神を見上げた。



「フィムもルナ姉さまもそうだけれど、基本的に人には深く触れないのよ。まあ女神だから一個人にばかりかまけるわけにはいかないからね、それでもこうやって女神が傍についている現状をあなたは自覚するべきなのよ」



「あ、あ~ちゃん、それは――」



「女神の前よ、背筋を伸ばしなさい」



 あ~ちゃんの言葉に、ランファはゆっくりだけれど体を起こし、鼻を鳴らしながら背筋を伸ばした。まだ立ち上がるには足りないみたいだけれど、それでもベッドに座ってくれた。



「うん、よく出来ました」



 あ~ちゃんがランファを撫でると、リョカお姉さまが持ってきてくれたサンドウィッチなる具材をパンに挟んだ昼食を彼女の元まで持って行き、それをベッドの上に置いた。



「せっかくリョカちゃんが作ってくれたんだからご飯はちゃんと食べなさい」



「……」



 言われるがままに、ランファはサンドウィッチを手に取って、少しずつ口に運び始めた。

 あ~ちゃんはそんな彼女の隣に腰を下ろし、頭を撫でながらため息をついた。



「ウチはただ、伝言伝えに来ただけだからね」



「伝言? あ~ちゃん、誰の?」



 あーちゃんは微笑むと私の頭にも手を置き、ルナお姉さまがやるような記憶の共有――そこには4つの灯火。その火が今にも消えそうな佇まいで闇に、夜に融けようとしていた。



 その灯火には覚えがあった。気配が、匂いが……きっとランファにも何なのかがわかったのだろう。目を見開き、さらに涙を流した。



「せっかくの質の良い魂だから全部まとめて貰ってやろうと思ったんだけれどね」



 あ~ちゃんが目を細め、柔らかな空気でそう言うと、その4つの灯火の正面に、眩い輝きを放つ扉と2つの灯火。



「残してきた宝はきっと大丈夫だから、どうにもならない馬鹿4人を連れていくって」



「――」



「あ~ちゃん、それって」



 消えかかっていた4つの灯火に光が灯る。消えそうな気配は失せ、目の前の2つの灯火に吸い込まれるようにして歩みを進めていた。



「魂って言うのは()に行っちゃったらウチでもどうにも出来なくなる。ラムダの力で巡り巡って命かギフトになる。だけれどこっちに残ることはそんなに難しいことじゃない。やりたいこと、見守りたいこと、頑張ってしがみ付けばいくらでも残っていられる、劣化はするけれどね」



 ランファがポロポロと涙を流しながらもサンドウィッチを口に運び、無理矢理にも口の中に押し込み、口の中をいっぱいにしながらも頑張って噛んでいた。



「もう見守る必要もなくなったんだろうね、それなのにいつまで沈んでいるのよ」



「――」



 あ~ちゃんに頭を撫でられながら頷くランファに、私もつい涙を流してしまう。

 そして私は大事なことを思い出し、涙目であ~ちゃんに伝える。



「あ~ちゃん」



「ついでだから、フィムが気にすることでもない――」



「下にテルネ姉さまいるけど大丈夫?」



 サンドウィッチを一つ食べていたあ~ちゃんが噴き出し、駆け出し、それを持ったまま部屋の窓に足をかけた。



「アリシアぁ!」



 テルネ姉さまが扉を開け放った時にはあ~ちゃんは屋敷を飛び出しており、姉さまは肩を竦ませた。



「まったくあの子は……女神らしい仕事はするのですよね」



 テルネ姉さまは私とランファを撫で、そのまま部屋から出ていった。

 わざわざ来なくても良かったのではないだろうかと、私は訝しみながらも未だに昼食を口に運んでいるランファを撫でる。



 すると、テッドからの連絡がきたことで私はそれに応える。



「はいはいテッド――」



『フィリアム様いつまでほっつき歩いているんですか!』



「ひゃぁスピリカぁ!」



 まさかのスピリカに、私は体を震わせる。

 テッド酷い、スピリカからの連絡と知っていたら出なかったのに。



『筒抜けですからねフィリアム様』



「……はい」



『全部見ていましたからそれは良いです。それよりもランファです』



 見ていたのならあんなに怒鳴らなくてもいいのに、スピリカは最近さらに小うるさくなった。



『聞こえていますからね? それよりもフィリアム様、大体の事情は把握しています。今のアリシア様のおかげでだいぶ良くなっているでしょうけれど、良かったらランファをグエングリッターに連れてきてはどうですか?』



「――!」



 スピリカ、何と賢い私の信者でしょうか。



『ランファと、あとリョカとミーシャにも相談してからですけれど、少なくとも違う環境で過ごすというのは大事かと思いまして』



 私はすぐにこの会話を聞いていたランファに目を向ける。

 彼女は食べる手を止め、思案していたけれど、すぐに口の中のものを飲み物と一緒に飲み込み、大きく息を吸うと私とやっと目を合わせてくれた。



「……お世話になっても、いいのでしょうか?」



『当然でしょう。というかリョカたちと一緒だと面倒ごとに巻き込まれるんだから、無理矢理でも離れなきゃ駄目よ』



「……ありがとうスピカ」



『どういたしまして。リョカとミーシャは――まあルナとアヤメが伝えてくれているわよね。こっちはいつでも受け入れ歓迎だから、生誕祭が終わった折にでもフィリアム様と一緒に来なさいな』



「私許されました!」



『フィリアム様は帰ってきたらお説教ですよ』



「み~……」



 そんな風に表情を沈める私に、ランファがやっと笑顔を向けてくれた。

 どんな理由であれ、彼女の魂に星が戻ったのなら良かった。



 そうして私はスピカとの神託を切り、ランファと一緒にグエングリッターへ行く準備を始めるのだった。

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