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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
35章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都でしばしの休息。
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聖女ちゃんとお墓参り

「エレもジンギも、いきなり連れ出して悪いわね」



「ううん、お母様のお墓参りだもん。ミーシャお姉ちゃん、本当にありがとうございます」



 あたしは今、アヤメとロイ、ラムダとエレノーラ、ジンギを連れて以前から約束していたウェンチェスター親子の母親、アンジェリカ=ウェンチェスターのお墓が出来上がり、2人にその場所に案内をしているところだ。



「しかしミーシャさん、こんな上等な衣装まで用意してもらって何だか申し訳ないです」



「ああ良いのよ。それは少し前にリョカが用意していたものだから、あたしじゃなくて礼ならリョカに」



 ロイの言うように、あたしたちは全身をほぼ黒にした所謂喪服というものに身を包んでいる。

 服自体も上等で、おじさんが以前中々の売り上げになっていると話していた。

 この喪服というのはリョカが考案した物で、何だかんだと理由をつけ、死者への手向けの一環として高価だが厳粛に見送りたいという意思を貴族たちに売りつけ、あたしたちが10になる前に爆発的に流行り、そして現在は新たな文化として平民にも他国にも浸透しつつある。

 以前は死者への見送りなど、ただその亡くなった人間が好きなものを捧げるだけのもっと軽いものだったけれど、ジブリッドが作った流行により、死者との対話はもっと静かなものに変わった。



 ロイの生きていた時代には当然なかったから初めは驚いていたが、リョカが貴族連中に吹聴していた尤もらしい理由に、彼も神官としてひどく感銘を受けていた。



「商人は流行りを作り、それがいずれ文化になる。か。人々の暮らしっつうのはやはり欲まみれだな」



「獣もそれなりに欲深じゃなかった? でもこういう風に誰かを慈しむ文化ならあたしたちも大歓迎じゃない」



「それを作ったのがあの魔王っつうのが問題なのよ」



「アヤメも大分その魔王様が作った文化に恩恵を受けているんじゃなかった? おやついつも美味しそうに食べているもんね」



 顔を逸らすアヤメをあたしが撫でていると、ジンギが居心地悪そうにしているのが見えた。



「いや、何で俺もいるんだ?」



「ランファはともかく、あんたが籠っている理由はないでしょう。部屋の中ばかりにいないで少しは体でも動かしなさい」



「昨日散々動かしたんだがなぁ」



「あぅ、ジンギお兄ちゃん嫌だったですか?」



「いや、誘ってもらって俺も嬉しかったぞ。ただ、せっかくの親子水入らずでの墓前り、俺が邪魔になっていないか?」



「そんなことないよ」



「ええ、エレノーラの言う通りですよ」



 ロイもエレもジンギにも来てほしいと話すのだけれど、当のジンギはまだ遠慮している感じだった。するとロイが肩を落とし、言葉を詰まらせるようにして口を開いた。



「……正直な話、私はまだ、1人で妻に、アンジェに会う自信がないのです」



「そうなんっすか?」



「ええ、どの面下げて――という話になるのですが、私は魔王ですからね」



「……ああ。でも、ロイさんは――」



「ありがとうございます。だからこそ、そう思ってくれる(・・・・・・)ジンギくんにも一緒に来てもらいたいのですよ。私が私自身を認められないから、私以外の人に妻への弁明をしてもらいたい。ズルい大人ですね、私は」



「――」



 ロイの言葉を聞いたジンギが、頭を荒々しく掻き、盛大にため息をつくと脚を動かしてエレを抱き上げて肩に乗せた。



「エレ、途中で花買っていくぞ。母ちゃんの好きな花思い出しておけよ」



「は~い」



 駆け出していくジンギとその彼の肩に乗っているエレの背中をロイと一緒に眺めていると、欠陥とは程遠い魔王がクスりと声を漏らした。



「今日は良い日ですね」



「そうね。天気も良いし、空気も穏やかだわ。でもロイ、あんなこと言ったらジンギがついて来ないわけないでしょう? リョカみたいなズルさだけれど、確かにズルくなったわね」



「はて、元々こういう性格なのですよ。それにジンギくんについて来てほしかったのは本当ですよ、エレノーラが喜びますからね」



「お前の本音は重いんだよ。若者困らせて楽しいかぁ?」



「いやいや、若い頃のロイくんはもっとエグイ困らせ方をしていたからね。あれはね――」



「ハハハ、ラムダ様」



 ロイにがっちりと口を塞がれたラムダを横目に映していると、エレとジンギがあたしたちを呼んでいた。



「それじゃあさっさと行くわよ」



「ええ」



 王宮の裏側の貴族でも一部の家しか使用していない霊園、そこのさらに奥にあるグリムガントのお墓――その隣にウェンチェスターのお墓を立てた。

 あたしたちはそこに向かって歩みを進めるのだった。

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