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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
35章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都でしばしの休息。
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魔王ちゃんと飲み込んで溢れた期待

「……」



 あちゃあ、いいタイミング何だか悪いタイミングだかでここに来てしまった。

 僕は腕に抱いているルナちゃんに目をやるのだけれど、彼女は当然知っていたのか、僕の胸に頭を預けて安らいでいる。



 無王がヘリオス先生との関係について言及していたからまさかとは思っていたけれど、まさか王族だったとは。

 今の陛下の数代前の妹の子がヘリオス先生、当然王の血筋だ。

 でも時の番人……お母様は初めてこの国に時を管理した人の家系と言っていたけれど、つまり国で時縁人を基準に時間を設定した人だろうか? その家系にヘリオス先生が生まれたと言うことなのだろう。

 つまりとても偉い人なのでは?



 というかそんな人がどうして無王と戦うことになったのか、それについても――。



「ところでセルネ=ルーデル、ランファ=イルミーゼは大丈夫か? 今の話を聞く限り、彼女は」



「え? ええ、大丈夫……とは言い切れないですね。ジンギとエレとフィリアム様が一緒にいるみたいですけれど、俺じゃあどう声をかけたらいいのかわからなくて」



「……そうですか。それは、歯がゆいですね」



 顔を伏せるヘリオス先生の表情は、やはり僕たちの知る先生の顔で、その顔を見たらもうアンデルセンとの関係とかもどうでもよくなってしまった。



「良い先生です」



「……ですね。秘密の1つや2つ、誰にでもあるものですし、僕に関していえば僕もお母様も秘密だらけだしなぁ」



 僕は肩を竦ませると、そのままルナちゃんを抱っこしたままセルネくんたちに手を挙げながら近づく。



「やあやあみんなお揃いで。丁度人手が欲しかったんだよ」



「……」



 ヘリオス先生が僕をジッと見つめており、その視線に微笑みを返す。



「先生も良かったらランファちゃんに会ってあげてくださいな。あの子に今必要なのは誰かが傍にいるっていう事実だと思いますから」



「リョカ=ジブリッド、私は――」



「バルバトロス、僕が回収したので、あとでどう処理したらいいか一緒に考えてくださいな。ね、先生(・・)



「……ああ、わかった」



 普段通りのどこか済ました表情で頷く先生に僕も頷き返すのだけれど、陛下が体をプルプルと震わせており、僕はため息をつく。



「陛下、飲み込んで」



「……リョカちゃんは本当にあれだよね、俺たちの想定なんて軽く超えていくんだもんな」



「トラブルメーカーなのは自覚しています。でも最近はそれも悪くないなって」



「とらぶるめーかー、意味はわからないがなんとなく君に合っている気がするよ」



 恐縮ですと軽く会釈して、僕はルナちゃんを下ろすとオルタくんとタクトくん、クレインくんに目をやる。



「オタクたちもいらっしゃい。今日泊まるところはまだ決まっていないよね? うちの家に来てくれればいいから、あとで案内するね」



「はいでござる。しかしリョカ様、戦いは昨日終わったばかりでござるよね? 休んでいなくていいでござるか?」



「ああうん、僕がやったことなんて大したことないから」



「A級瞬殺って聞いたけど?」



「君らより圧倒的に弱かった。それとしょうもないことグチグチ言っていたから黙らせただけだよ」



「それについてだがジブリッドの魔王、いい加減トドメを刺してくれ。街道の景観が悪いと兵士たちから苦情が入った」



「え~僕わかんにゃ~い」



 両手を後頭部にもって行き、獣の耳のように指を振ってラスターさんに言うと、彼は盛大にため息をついて頭を抱えた。

 そんな僕を見てオタクたちが首を傾げると、陛下が彼らに耳打ちをしたのが見える。



「敵側に付いたA級冒険者がリョカちゃんの前で女神様を貶してな」



「なんて命知らずなことを」



「そいつ塵も残らなかったんじゃねえですかい?」



「塵どころか魂諸共消滅していそうでござるな」



 言いたい放題言ってくれる家臣たちだ。

 僕はすまし顔でクレインくんに引っ付いているピヨちゃんを彼から剥がし、そのふわふわの翼に顔を埋める。



「いや、今も生きて断末魔を上げているよ。千の剣閃を放つ冒険者に、おっかない魔王様は千の極星を模した影法師で冒険者を切り刻んでは、腕すら生える回復の奇跡で生かし続けている」



「そういえばここに来る途中何か絶叫のような悲鳴が聞こえたような気がしたでござるが、それでござったか」



「あ~そういやぁ助ける気が起きないほどの悲鳴が聞こえたような気がするですぜい」



「死すら許してもらえなかったかぁ」



 オタクと陛下が僕に含んだような生温い眼差しを向けてくるが、僕だって悪いと思っている。だから今日ラスターさんに会ったらちゃんと対策を渡そうとしていた。



「……ラスターさん、これをどうぞ」



「これは?」



 僕はラスターさんに4つある杭を手渡す。僕だってあんな不快な声を聞いていたいわけではない。だからこそ今日起きてすぐに作っておいた。



「使用用途は任せますが、四隅に突き刺すとその空間の音が消えます」



「一択じゃないか! そもそもこんな解決方法を提案した訳ではない。リーン、お前一体娘にどんな教育を施した」



「あたしの教育の賜物ではないとだけ言っておくわ」



 声とは振動が空気に伝わり耳に届くメカニズムだ。本当ならその空気を失くしてやろうとも考えたけれど、誤って誰かが入ってしまったら大事だ。だから僕は()()()()()()()()()()()()()を使用して、声帯の振動で発生した音波を本人に還す(・・・・・)空間を生成する道具を作った。

 これならその声は本人にしか(・・・・・)聞こえない。



 ラスターさんがもうずっと頭を抱えているけれど、この話はこれくらいで良いだろう。

 僕は陛下にお願いがあることを伝える。



「ん? リョカちゃんたちはこの国の恩人だ、俺で出来ることならそれなりに融通しよう」



「実は生誕祭の日にライブをしたくて」



「ライブ……ああ、歌だったかな? それくらいなら構わないよ。つまりそれが出来る場所の確保と宣伝の許可だろう?」



「話が早くて助かります。ちなみになんですが、歌をうたうのは僕とルナちゃんとフィムちゃん、後ろで踊るのはアヤメちゃんとテルネちゃん、ラムダ様と竜神様のクオンさん――」



「待て待て待て待て――」



「テル姉踊るんです? すっごい見たい!」



「ピヨちゃんも踊る?」



「革命を起こしていいのなら!」



「あっ、今回は不参加と言うことで」



 ピヨちゃんの触り心地の良い肌を撫でながら、僕は改めて陛下に目をやる。



「いや、俺の誕生日情緒不安定すぎるだろう。無王に襲われた災いの日なのか、女神様が歌って踊ってくれる祝福の日なのか」



「細かいことですしいいじゃないですか」



「細かくないけど!」



 陛下がその場で蹲り、地面を叩いているのを横目に映していると、オタクたちにカンドルクさんとミリオンテンスさんを紹介していたセルネくんがルナちゃんに声をかけていた。



「ルナさん歌をうたうんですね」



「はい、結構自信ありなんですよ」



「綺麗な歌になるんだろうなぁ。けどリョカの歌って変わっていますよね?」



「そうですね、でも一緒に生活しているので、わたくしも覚えてしまいました。ライブ、期待してもらっても良いですよ」



 自信満々に胸を張るルナちゃんを抱きしめに行きたいけれど、陛下が国のトップとは思えないような状態なために、それも叶わない。

 しかし僕の代わりにミリオンテンスさんがルナちゃんを褒めていた。



「いやぁ、こりゃあ凄い祭りになるな。って、別に正体は明かさないのですよね?」



「そうですね。宣言したところで信じてもらえないと思いますし、今この国の人々には女神よりも、辛さを忘れさせるほどの熱狂させる何か(・・)が必要ですし、わざわざ女神であることを伝える必要はないです」



「わぁ……俺、ここ数日で人生観がガラッと変わったなぁ」



「そりゃあ俺もだよ。学園の子たちが力をつけるのも頷けるな。こりゃあ毎日飽きないだろうな」



「誰かしら問題を起こしますからね。俺は止める方です!」



「……教員としてはもう少し大人しくしていてほしいのですけど、学園を楽しいと思わせているのは彼女彼らの、そういう飽きない事件ですからね」



 先生まで交じってまったく、僕たちのことをなんだと思っているやら。

 僕は改めて陛下にお願いした。



「はいはい、もうどうにでもしてくれ。好きにやってくれていいから、その代わり盛大にやってくれ」



 僕は陛下に感謝の言葉を告げると、セルネくんとオタクたちにも協力してもらうことを頼み、お母様とも一緒にライブ会場の建設を急ぐのだった。

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