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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
35章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都でしばしの休息。
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勇者くんと時の番人

「ところでセルネ、もしかして忙しかった? それなら時間を改めるけれど?」



「ううん、ちょうどみんなの話をしていたんだよ。あっちの岩みたいな顔をしているのが俺の父さん――」



「おいセルネ」



 頭を鷲掴みにされ、声を上げて頭を押さえていると、父様がオルタ、タクト、クレインに目をやった。



「えっと、セルネ様にはいつもお世話になっています。まだまだ未熟な私たちを、彼はいつも引っ張ってくれて――」



「いい、いつも通りで構わんよ。どうせ貴族の振る舞いなど普段からしていないのだろう?」



 するとクレインたちが顔を見合わせており、父上が首を傾げた。



「あれ? お父さんは厳しくて言葉遣いが悪いと縄で縛られて吊るされるってセルネが言ってなかったっけ?」



 俺は諦めたように肩を竦めると、父様に頭を掴まれ、スキルで出来た縄に縛られ、そのまま街灯に縄をかけて吊るされる。



「……ああ、躾的な意味だったんですね」



「うちの阿呆が本当に迷惑をかける」



「い、いえ、聞いていたより優しそうな人で安心しました。ところで――」



 実はさっきからクレインたちがある一定の距離より先に足を進ませないようにしていた。

 理由はわかっている。けれど3人は聞かずにはいられないだろう。そういえば俺たちはリョカのダンジョンが終わってすぐに帰ってしまったから、顔をよく知らなかったんだったか。



 俺は宙ぶらりんの状態のまま、視線を向けてきたクレインに視線を返す。



「セルネ、その、えっと」



「……ヤバいですぜい、バイツロンドの爺さんと殴り合った時みたいなビリビリ感がしますぜぃ」



「正直、尻尾撒いて逃げたいでござるね」



 リーン=ジブリッド、俺の剣たちが魂からの拒絶を覚えている。

 どういう存在なのかは未だに計れない。けれどその実力は明らかに俺たちより上で、正直戦いたくない度合いで言うならリョカとミーシャにも並ぶ。



「おお、リーンに気が付くのか」



「大分抑えてはいるのですけれどね。ああ、この子たちがリョカの言っていた」



 首を傾げるクレインたちに、俺は彼女を紹介する。




「リーン=ジブリッド殿、リョカのお母さんだよ」



「――っ」



「――」



「――」



 するとオルタ、タクト、クレインが瞳を輝かせてリーンさんに目をやった。

 まあそりゃあそうだろう、3人にとっては特に礼を言いたい人だろうし。



「我らリョカ様から承ったっ!」



「オタク3連星っ!」



「リョカ様に仇なす敵を討つ!」



「元気な子たちですね」



「……いやリョカちゃん、本当に求心力があるな。うちの娘にもぜひ学んでもらいたい力だ」



 3人がリーンさんの傍に寄り、口々に彼女への感謝を述べており、それを受けているリーンさんもどこか誇らし気だ。



 しかしそんな彼らをヘリオス先生が微笑んで見つめており、やはり良い先生なのだと改めて認識する。

 だけれど――。



「セルネ=ルーデル、少しお願いがあるのだが良いだろうか?」



「……はい、大丈夫ですよ」



「もしよかったらでいいのだが、王宮に入れるようにとりなしてもらえないだろうか? 王都で何かあったと聞いて、確認したいことがあってね」



 多分、あれのことだろう。俺は陛下に目をやると、彼が頷いてくれたからそれと同時に縄を切り、陛下の方に手を向ける。



「ヘリオス先生、こちらエルファングリード・アイゼン=ブッシュガーラ様――国王陛下です」



「――? エルファングリード? リヴォルグリードでは」



「それはお爺様だな」



 ヘリオス先生が頭を抱えているのが見えた。

 そしてそんな先生にリーンさんが顔を見せた。



時の番人(・・・・)が時を忘れるなんて、相当今が心地よいのですね」



「何故それを――? あなたはリョカ=ジブリッドの……いや、夜王か?」



「その名は捨てました。やっと思い出してくれましたね、娘と夫がお世話になっています」



 やっぱりヘリオス先生は名の通った人なんだ。

 クレインたちが話について来られていないが、今はちょっと我慢してもらう。



「先生、王宮に入りたいと言うことでしたが、多分もう何もないですよ」



「……どういう意味ですか?」



「王宮を通っていた迷宮はリョカとロイさんが壊しました」



「――ッ! ではまさか『無価値の破壊者(バルバトロス)』が」



「それはミーシャたちが壊しました」



「……セルネ=ルーデル、王都で何が起きたのか話してもらってもいいだろうか?」



「はい、それじゃあ順を追って――」



 そうして俺はオルタとタクト、クレインとヘリオス先生に王都で起きたことを話していく。

 けれど話を聞いていた先生は怒り顔に代わっていき、体を震わせていた。



「あのはた迷惑自己中心的無配慮研究第一腐れマルティエーターめ。私の生徒に危険なことをさせるとはどういう了見だ。壊すのなら1人で壊せ!」



「あ、あの、先生?」



「むっ、すまない」



「やっぱり、無王アンデルセン=クリストファーと知り合いなんですね」



 顔を伏せる先生に、リーンさんが陛下に口を開いた。



「エルファン、あなたが国を挙げて感謝するべき人間よ」



「え、俺?」



「ヘリオス――いいえ、ヘイルオーズ・クロス=ヴェルフェンドライ、この国の何代も前の国王、その妹君が嫁いだこの国で初めて時を管理した時の番人の家系であり、その妹から産まれ、そしてあなたの誕生日の日にちに王都を無王から救った大英雄よ」



「……はぁ?」



 俺もオルタもタクトもクレインも、ミリオンテンスさんも父様も口をあんぐりとしている。

 やっぱりリョカを連れてくるんだったと後悔しながら、俺たちは顔を見合わすのだった。

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