魔王ちゃんと開催決定女神さまライブ
「やっっっっっと一息つける」
「お疲れ様です。今回も見事な働きでしたよね、わたくし鼻高々です」
陛下への報告を終え、エレノーラの様子を見に行くというロイさんと、カンドルクさんとミリオンテンスさんを扱くと言ったウロ爺と別れ、僕は復旧作業中の街を歩いていた。
そして誇らしそうに胸を張るルナちゃんを抱き上げて撫でているのだけれど、僕はつい盛大に肩を落とし、深いため息をついた。
「……ねえルナちゃん、僕、何で戦ったんだろう。今回一切可愛さも振り撒けなかったし、なんか最近やっていることがほぼ勇者」
するとポカンとした顔をしたルナちゃんが、弾けるように口を覆って笑いだした。
「そうですね、やっていることだけ見ればほぼ勇者ですね。不満ですか?」
「う~ん、そういうわけじゃないんだけれど、どうにもガラじゃないというか、王都に来てから今日まで、ずっと流されている感があったから、ちゃんと自分主導で動きたいなって」
「リョカさんはどういう時に動きたいですか?」
「そりゃあ可愛いが絡んでいる時……まあ今回は放っておいたらランファちゃんが潰れる可能性もあったから、動けて良かったんだけれど、どうもこう人助けばかりしていると魔王としての誇りが」
「誇りとかあったんですか?」
「いやないけれど。なんというかこう、もっとこう、愛されることをしたいというか、可愛いんだぞって周知したいというか」
なんだか今回は怖がられてばかりで、陛下なんて絶対僕のこと可愛いとは思ってくれていないだろう。
ああいう魔王面を前面に押し出すのは魔王としていかがなものかと。
「それなら丁度良い催しがあるじゃないですか。今のリョカさんなら陛下も首を縦に振ってくれるはずですよ」
「……」
確かに、生誕祭でライブしたらそれはもう大盛り上がりなのではないか?
そもそもの話、私の時分知名度のない人間のライブなど白けるだけだったが、この世界は歌が上手ければ、パフォーマンスが優れていれば案外受け入れてくれる。アイドルとしては大分チョロイ世界である。
それならこの復旧中という現状で、盛大に歌えばさらに可愛いって言ってもらえるのではないだろうか。
前の世界でこんなことしたら、偽善だ、苦しんでいる人たちに付け入っている。などと炎上しそうなものだが、こちらの世界であるならそうはならないだろう。
しかも僕は魔王で、さらに後ろ盾に陛下もいる。それにジブリッドの名も今回の騒動でさらに人々に浸透した。
いけるのではないか?
「すっごい考え込んでいますね?」
「……うん、行けるかもしれない。ところでルナちゃん、お歌はお好きですか?」
「――はいっ、これでも女神間でも評判良いのですよ。ちなみにフィリアムもいけるはずです。あとはテルネ……は駄目ですね、声が小さいので」
さすがの月神様だ。僕がやりたいことを一瞬で理解してくれた。
「声の小ささはどうにでも出来ますが、お腹から声が出ないと歌も張りが出ないですからね。それじゃあテルネちゃんはバックダンサーという感じでどうでしょう?」
「クオンも呼びましょうか。テッド、は厳しそうですね。ヒナリア……は喧しいですね」
「それじゃあ歌い手は僕とルナちゃんとフィムちゃんで、アヤメちゃん、テルネちゃん、クオンさん、ラムダ様には後ろで踊ってもらいますか」
「はい! クオンは快諾してくれました。テルネは逃げようとしたところをラムダに捕まりました」
「それなら――」
僕はそっとルナちゃんに耳打ちをした。
この間ついに作れるようになった人形を引き合いに出してはどうかと打診する。
「ついにテルネにまで……でもそれなら多分言うこと聞いてくれますよ。あの子はソフィアさんとまだまだ一緒にいたいようですし、最近では仕事も多くなっていますから」
「それは僥倖、すぐに衣装と歌と振付を考えてきますね! 数日でものに出来ますか?」
「ふふ~ん、わたくし女神ですよ。そのくらい簡単です」
僕はルナちゃんを抱き上げたまま、クルクルとその場で回ってみせる。
うちの月神様、本当に優秀で可愛すぎる。
これから忙しくなるぞ。と、僕は街を駆けだすのだった。