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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
35章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都でしばしの休息。
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魔王ちゃんと宣言、黄衣との戦争受諾

「いやぁ終わった終わった」



 無価値の破壊者(バルバトロス)が落ち、兵士や騎士、王宮のお偉いさんたちが復旧に東奔西走している中、僕とロイさん、お母様とルナちゃんラムダ様、ウロ爺で王宮の陛下の下に訪れていた。



 昨夜ミーシャたちがジンギくんのバイクで戻ってくるや否や、ミーシャ、ランファちゃん、ジンギくんが倒れるように眠りについてしまい、翌日の今も話が聞けていない。

 そしてミーシャに抱き枕にされているアヤメちゃんを残し、陛下に昨日の出来事を報告するためにここ、彼の自室に来ており、ロイさんの口からはコアのこと、ラムダ様の口からはイシュルミについての話を聞いた。



 もっとも、イシュルミさんに関しては僕の魔剣から映像を流していたからある程度知ってはいたが、やはり人の口から聞きたかった。



「……そうか、イシュルミは逝ったか」



「うん、あたしじゃあれを止められなかった。ごめんなさい」



「いや、あいつももう疲れ果てたのだろう。休ませてくれて、本当に感謝します」



「それは、あたしじゃなくてミーシャちゃんとランファちゃんに」



「……ランファには辛いことばかり押し付けてしまったな」



 顔を伏せる陛下に、ロイさんが首を振った。



「ランファ嬢は大丈夫ですよ。心強い方々が傍にいますから」



「そうだな。しっかし」



 すると陛下が肩を落とし、盛大にため息をついた。



「もう俺の誕生日とかやってる場合じゃないだろ。何で誕生日になるとこう、大事が起きるかね」



 まあ言わんとすることはわかるけれど、今だからこそぜひ誕生会は開いてほしい。

 人々はまだ騒動の爪痕に不安を持っているだろうし、こう言う時だからこそ何か気の紛れる行事はしてほしい。



「陛下、復旧という名目で、うちから無償で食料と飲み物、菓子などを出しますよ。だから民のためにどうか生誕祭ではそのような不抜けた顔を晒さないでくださいね」



「リョカちゃん本当に厳しいね。しかしジブリッドが無償で食料を提供してくれるのは本当に助かる。民を代表して礼を言おう……リーンお前娘にばかりやらせていないで何かしたらどうだ?」



「失礼な。ちゃんとジークに連絡したり、従業員に発破かけたりしています」



「それもリョカちゃんだけで足りるのでは? 本当にジブリッドは安泰で羨ましいよ」



 恐縮ですと僕が陛下に頭を下げると、ニヤケ面のウロ爺が瓢箪型の水筒から何か……酒を呷り、その視線をロイさんに向けた。



「しっかし血冠魔王とはの。リョカもとんでもない奴と友好を結んでおるわい」



「これは海星の勇者、いつぶりでしたか? あれはまだ私が魔王になりたての頃でしたかね」



「いくら挑発しても海に出てこんかったからな。未だに引きこもっているとおもっとったわい」



「海であなたと戦うのは自殺行為ですよ。しかしあなたともあろう方が黄衣の若造に後れをとるとは――年を取りましたね」



「言いよるわい。一矢報いたからいいんじゃよ」



 この2人知り合いだったのか。

 しかも話を聞く限りやり合ったな。



 けれど僕も彼には言いたいことがあり、ロイさん側に立ってニヤリと笑みを浮かべる。



「カンドルクさんがいなかったらどうなっていたことか。ギルドマスターも返上したらどう?」



「リョカまでお前」



「散々心配かけておいて何の説明もないジジイなんて知らないよ」



「むっ」



「だそうだウロトロス。俺もそれに関しての説明が何もない。リョカちゃんに嫌われる前に説明したらどうだ?」



 陛下が間に入ってくれ、ついにはウロ爺が肩を竦ませた。



「わかったわかった、別に特別なことをしたわけではないからの。ただわしはイルミーゼの家に妙な気配を覚え、急いで駆けつけたのじゃがすでに遅くてな。ランファだけは助けられたが、あの性悪、妙な術を使ってきてわしの記憶、いや意識か? それを操作してきたんじゃ」



「黄衣の魔王の力だね。そのせいでだいぶこっちも引っ掻き回されたよ。でもウロ爺、どうしてカンドルクさんの傍にずっといたのさ?」



「あやつがカギになっとると確信したからじゃよ。リョカ、わしはの、あの時カンドルクに盾を張られて、黄衣の魔王の呪縛が解けたんじゃよ」



「というと?」



「あの時は黄衣の魔王に逃げられた。しかも誰も彼もがそれを忘れておった。その時点で記憶をどうにかする奴だというのはわかったからの、来るべき日に備え、わしはドッペルゲンガーでもう1人を作り出した。奴の力は少なくとも個人に向くからの、だから奴の目を逃れるためにヨルムカンズという道具屋を作った」



「ちょい待ち。ウロ爺もしかして記憶操作受けてなかった?」



「カンドルクの盾の加護じゃよ。あの盾はこの街に住む者に加護を与えるからの、一度掛けられたわしは街を出るまでは加護を有しておった。そのおかげか黄衣の魔王の力は届かなかったんじゃよ」



「……そういうことは王宮に報告してくれないか?」



「誰が誰の記憶を消されているかもわからなかったからの、表立っては動けなかったんじゃよ。そして案の定ギルドが襲撃されて、死を偽装し、わしはヨル爺として改めて機会をうかがっておったんじゃよ」



 つまりカンドルクさんの盾がどれだけ強力かわかっていたから、それに賭けていたわけか。僕に相談してくれていればそんな遠回りなことをしなくても済んだだろうに。いや、まさか効かない人間がいるとは思っていなかったのか。



「いやはやしかし、カン坊は思った以上に勇敢な兵士だったの」



「そうだね、本人はとても嫌がっていたみたいだけれどね」



「今までサボっていたんじゃ、これから忙しくなるのもわけないじゃろう」



 というのもカンドルクさん、ミリオテンスさんに大分気に入られてしまい、騎士見習いとして見回り兵をやりながら騎士の訓練まで受けなければいけなくなり、今日の早朝も騎士団長から逃げ回っていた。



「カンドルクさん、ルーファが大分気に入ったようで、近々顔を出すと言っていましたよ。陛下、良かったらその時にでもレッヘンバッハ共々罰を与えてやってくださいね」



「あ、レッヘンバッハだけで十分ですよ。女神様に罰など恐れを多すぎてそんな大役俺では務まりませんので」



「あの愉悦主義には一度人から引っ叩いてもらった方がいいのです。わたくしの分ということで、ぜひ頭ぶん殴っちゃってください」



「……リョカちゃん、ミーシャちゃん借りて良いかな?」



「せめてうちのお母様で手を打ってください」



「任されたわ。ルーファを氷漬けにして叩きつければいいのね」



「あっ、やっぱ僕がどうにかするので連絡ください」



 僕と陛下、揃ってうな垂れると、ふとその陛下が首を傾げだした。



「そう言えばリョカちゃん、どうしてこんな然う然うたる面々でここに? 報告だけならリョカちゃん1人で良さそうな物なのに」



「ああそれは……それより陛下、ちょっとこっちに来てもらっていいですか? 出来ればロイさんとウロ爺から離れないようにしてください」



「え、いいけど――」



 僕は陛下にニコと笑みを向けると彼が移動してくれ、僕は満足して頷くと、部屋の一角、窓の傍に思い切り殺気をぶつけた。



 その瞬間、睨みつけた箇所がユラと動き、まるで陽炎のように空間が歪んでいた。



「こんにちは。そろそろ来るんじゃないかと思って張っていたんだけれど、調子はどう? 確か、カリンさん、だっけ?」



「……」



 僕を中心に、ロイさん、お母様、ウロ爺がそれぞれ戦闘態勢に移行しており、ただ1人のシラヌイを囲んでいた。



「……これはこれは、本当に嫌な人ですねぇあなたは」



「お互い様でしょう。よくもまあこれだけ引っ掻き回してくれて、僕も大分頭に来ているんだよね」



「あら、魔王が高が1人の死を嘆くというんですかぁ?」



「それに関してはどうでも良い。人の死なんて言うのはいつか訪れるものだ、それが早くなったり遅くなったり、そこに文句はない。尤もやり方に関しては口じゃなくていつか手を出すけれど、僕が君たちに敵意を向ける理由はそれじゃない」



 僕は努めて笑顔で彼女と接する。

 押さえつけなければならない。この感情はそうやって無理矢理コントロールしなければ爆発しそうだし、正直今すぐにでもこの女を八つ裂きにしたい。でもしない。



「ミーシャが宣言していたからあなたを殺そうとは思わないよ」



「それは助かりますぅ。この面々を相手にして、生き残れるとは驕っていないのでぇ」



「そう……」



 ルナちゃんとラムダ様が肩を跳ね上げ、そっと陛下の傍によって彼の手を掴んだ。

 ロイさんはそっと頭を下げ、胸に手を置いて小さく祈りをささげるようなポーズを取り、お母様は肩を竦め、ウロ爺は歯を剥いて嗤っている。



「ああ、その四肢切り落としたとしても元に戻せる。殺してほしいと懇願されるまで殺し尽くし(・・・・・)、その上で帰ってもらおうかな」



「やる気満々じゃないですかぁ。でもこれでも逃げ足には自信が――」



 カリンが窓から飛び出して逃げようとする。

 けれどすでに世界を描き替えた(・・・・・・・・)。風景に割れるようなヒビが入り、逃げ出そうとした窓もない。彼女が手を添えたのはただの壁だった。



 僕は全力全開の殺気を撒き散らし、彼女に近づいた。



 そしてカリンが追い込まれた壁に手を叩きつけ、壁を少し砕くと彼女に顔を寄せる。



「よくもうちのランファを泣かせたな。ずっとずっと可愛くない涙を流させやがって、今も部屋から出てこねえんだよ。それとカナデ、お前よくも私の可愛い友人に手を出したな。あの子が今どんな状況かはわからない。でもあの子は寂しがりなんだ、確実に泣いている」



「――」



 顔を引きつらせるカリンの頭を鷲掴みにし、そのまま彼女に命の鐘の魔王オーラを流し込む。



「安心しろ、殺しはしない。お前にはお前の無能な上司への報告をしてもらうからな、この場で殺すなんてことはしない。でも――」



 無能な上司と言ったことでカリンの額に青筋が浮かんだ。

 どんな関係かは知らないし興味もない。そこに容赦も情けもない。



 彼女の腕が腰に隠されていた暗器に伸びた。



「話も聞けなくなる前に言っておく。お前のクソ上司、黄ばんだ雑魚(・・・・・・)に伝えておけ。その戦争買ってやる、せいぜい私が行くまで体中の体液垂れ流しておけ。私が現れた時、恐怖で粗相されてはたまらん。塵も残さず消し飛ばしてやる」



「口に気を付けなさい。あなたが相手にするのは黄衣を継いだ魔王――え?」



 カリンが暗器に手を伸ばし、私に斬りかかろうとしたが、その腕は私ではなく、カリンの空いた手に向けられ、自分自身で腕を切り落とした。



 痛みと理解出来ない現象に声を上げかかるカリンだったが、私は彼女の口を塞ぐように顔を握り、そのままスキルを使用する。



「『生めよ増えよ満ちよ(リリーペレシート)』」



 落ちた腕から新しい腕が生え、カリンがまるで化け物でも見るかのような顔を私に向けてきた。



「ああ、大いに殺してくれ。自分自身をな」



「――」



 刃を次々と自身の体に奔らせていく彼女を横目に、私は薬巻に火を点し、煙を天井に吐いた。

 


 考えることは多い。ランファちゃんのこと、それにカナデのこと。

 ランファちゃんに関してはどこかでしばらく休んでいてもらおうと思っている。どこか安全な場所で保養してくれればいいんだけれど。

 それにカナデ、ベルギルマにいるのはわかっている。

 でもどうやって迎えに行こうか、それにどうやってシラヌイを見つけ出すか。

 とりあえずテッカの報告待ちだろうか。



 そしてカリンが心臓を、首を斬り落としたところで、それを治し、僕は彼女に蹴りを放つ。



 壁と世界を割ってカリンは王宮から文字通り蹴り落とされていった。

 この高さから落ちても死にはしないだろうと、僕はため息をついて振り返った。



 すると陛下が震えており、僕は首を傾げた。

 まあ確かに普通の人にとってシラヌイは正体不明だから、恐ろしいのもわかる気がする。



「こっわ!」



「あなたがルナたちに手を出しても同じようなことになるから気を付けなさい」



「出さないよぅ。出すとしてもジブリッドの支払い負けてもらうくらいだし」



「それをしたらあたしが王宮氷漬けにするわよ」



「ジブリッド怖いよぅ」



 陛下とお母様が戯れている見ていると、ロイさんが頷いていた。



「これであの若造も街には手を出さないでしょう。さすがの采配です」



「昔はもうちっと可愛げがあったんじゃがのぅ。一体誰がこんな惨いやり方を教えたのか」



「今も可愛いですぅ~。というかなに? もしかして僕のこと怖がっているの?」



「え、自覚ないの! 俺、君周りの子に絶対に手を出さないようにって王宮で通達するつもりだよ」



「そんな大げさな」



「普通の人は自害に追い込むほど人を操れないし、死に直結する傷は治せないからね?」



 僕は陛下から顔を逸らした。

 だって仕方ないだろう。彼女はミーシャに譲るとして、黄衣の魔王もランファちゃんの仇だ。僕が手を出せる機会なんて多分もうない。

 なら今のうちに出来るのはあのくらいだろう。



「しかしリーン、リョカはお前の夜王時代(・・・・)に似てきおったの。武勇伝でも子守歌代わりにしたか」



「するわけないでしょう。その話は墓場まで持って行くことにしているのだから、余計なこと言わないでくれない?」



「闇に生きる者の王でしたからね、魔王でもないのにあの時代の混沌を一挙に引き受けていたやり手、誇れるような話ばかりでしょうに」



「ロイ、あなたまで」



 何の話だ? というかミーシャ助けに行った時、相手の冒険者も妙なことを言っていたな。夜王リーンフォース――それがお母様の別名義か。

 しかし何故ロイさんも知っているんだ? お母様一体幾つだ?



「リョカ、余計なことは考えなくても良い。あたしはあなたの母親で、それ以上でも以下でもありません」



「あ~はい、別に詮索するつもりはないですけれど、お母様のことをもっとよく知りたいと思うのは娘として当然では?」



 しかしお母様は苦い顔で顔を逸らした。

 そんなに話したくないのだろうか。



「リーンはジークに見初められるまでやりたい放題だったからな。親として恥ずかしいんだろう、リョカちゃん察してあげな。この女は長い期間チンピラみたいな――あががががっ!」



「エルファン、あたしに喧嘩を売っているのね? いいわ買いましょう。とりあえず王宮は氷漬けにするわ」



「止めて止めてごめんなさい!」



 そんな陛下の泣き言を聞きながら、とりあえず今回の騒動は終息したと僕は胸をなでおろした。

 今日はもう帰ってゆっくりすることを決め、僕はお母様と陛下を放置して、ルナちゃんとラムダ様、ロイさんとウロ爺を連れて部屋から出ていくのだった。



「待ってリョカちゃんこいつも連れて行って!」



「エルファン、どうやら話し合いが必要なようですね」



「あっ――」

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