聖女ちゃんと金色獣
イシュルミ=テンダー、こいつは一体、どれほどの鍛錬を積み、修羅場をくぐりここに立っているのか。
ランファと同じく復讐に燃え、ただ前だけ向いて剣を振ってきたのだろう。
だからこそ、あたしは奴の剣が獣じみた物になると考えていた。激しく、苛烈で、それでいて殺すことしか考えていないような剣――でも違った。
こいつの剣は、このイシュルミ=テンダーという男は最後まで、騎士であることを捨てていなかった。
それは人間の戦い方だ。
あたしから一切目を逸らさずに、あたしから放たれる拳からその瞳を逸らすことなく見続ける。
だからこそ、拳が届かない。
どれだけ殴ってもまるで風を相手に……否、風であるのなら、光であるのならあたしは殴れる。
しかしイシュルミはあたしの拳に剣を合わせ、的確なタイミングで弾き、そのすべてを届かせない。
しかも奴の剣はあたしに届くばかりで、この間振りの苦戦を強いられていた。
まさに人間の戦い方、やり辛さで言うのならアルフォース以上の相手だ。
どのような鍛錬を積んだのか、ここまでくる道すがら、どれだけ剣を振ってきたのか、あたしには覚えがないから想像することも出来ない。
これだけの技、スキルも使わずにこれだ。
あたしはまだ、こいつからスキルすら引き出せていない。
攻めあぐねていた、届かない拳に苛立ちも覚えた。
でも、そんな時にどこからかとんでもない圧が流れ込んできた。
その圧にイシュルミもあたしから飛び退いて警戒したが、あの圧は確かにアヤメのものだった。
その圧からすっトロいことをやってんなととでも言われているような感覚がし、あたしも負けじと殺気を込めに込めた。
そして響いてくる咆哮――獣の咆哮にあたしも声を上げた。
あの子が頑張っている。ならこんなところで足止めなんて喰らっている場合じゃない。
なに人間の戦い方を倣おうとしているのか、あたしは獣だ。人の戦い方なんてできるわけがない。
戦闘圧を内に込める。やり方は竜でやった。
あとはジンギがやっていたようにそれを体に反映させるだけ。
「『獣王顕現』」
使用するのはアヤメの核。
あの子の核と信仰を、この間やったように内側に浸透させるだけ。
「ん――」
体に妙な感覚がする。
頭と尾骨辺りがもぞもぞとする。
あたしの中からあふれ出たアヤメ――神獣の核が体を侵していく。
頭からアヤメと同じような耳が頭から生え、尻というよりその上にあるズボンの真上からふわふわの尻尾が生えた。
そして極めつけは、アヤメと同じような金色の髪の毛――あたしの姿をランファもラムダも、口を開けっ放しにして見つめている。
「待たせたわね。もう退屈な戦いはしないわよ、覚悟なさい」
空気がバチバチと鳴る戦場で、あたしはケダモノの如く嗤って見せるのだった。