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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
34章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都防衛戦線。
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聖女ちゃんと憐れな騎士

「――リョカ?」



「……何ですのこのうすら寒さ。下で何か起こったのでしょうか」



 ランファとラムダの2人とイシュルミがいるだろう場所に足を進ませていると、突然覚えのある気配が流れ込んできた。

 リョカが心底怒っているらしく、何者かが瞬殺されたみたいだけれど……そいつ、ルナたちを貶したか傷つけたのね。リョカを前によくやる。



「A級の百花千輪がルナたちに色気がないだの、金になるだの、差し出せとか言った結果、千単位の現闇の影法師が極星に超進化したところだね」



「……最もその類のことは言ってはいけない相手になんてことを。しかしあの魔王様やりたい放題ですわね。フィリアム様驚いたでしょうに」



「言いたいことはあるみたいだけれど、リョカちゃん完全にへそ曲げて歌に没頭しちゃっているからね。しかも百花に神官のギフトがあったことが尚更許せないらしい」



「そりゃあ今リョカの神官の基準ってロイだもの、ロイがいつも女神に向けるような信仰を標準装備にしていないと怒るわよ」



「一応ロイくんって高位の神官だからね。あれ神官でも大分優秀なんだよ」



 なんにせよリョカの方はもう片付いたみたいね。

 あとはこっちが終わらせるだけなのでしょうけれど――大分近くなってきた。

 イシュルミの匂いがどんどん濃くなってくる。



 しかしあの男も大分哀れだと思う。

 あいつは自分自身に打った誓いを果たそうとした。そのためなら悪魔にだって魂を売るつもりだったのだろう。

 けれど売った相手は最も忌むべき者で、誓いを果たすべき相手――これは理不尽なのだろうか。結果的に対抗しうる力は手に入れた。目的だけなら果たした。でも――。



 あたしはそっとランファの横顔を見る。



 この子も、ああなっていた可能性がある。

 力だけを得るのならやり様はあったから、ランファもジンギも辿り着けていたかもしれない。

 でもこの子たちは寸でのところで食いしばった。運が良かったと言えばその通りだけれど、今こうしているからこそ思えるけれど、あの時殴っておいて正解だった。



「……ミーシャさん? わたくしの顔を見ながら殺気漏らすの止めてくださいません?」



「そんなんじゃないけれど」



 あたしはランファを撫でる。

 するとラムダが可笑しそうに笑っており、あたしは顔を逸らす。



 イシュルミがいつかのランファたちだと思うと、本当に黄衣の魔王には腹が立つ。何よりもあの女、カリン――あいつは絶対に殺す。

 あいつは人の尊厳を、意思を、イシュルミの騎士としての魂を踏みにじった。



 踏みとどまる機会を完全に潰した。手を伸ばしていたのに、その手を掴むことが出来なかった。

 あたしは聖女だ、あの手を取るべきだった。



 脚を進ませると、だだっ広い空間に出た。

 そこには男が剣を床に突き刺し、どっしりと椅子に腰を下ろしていた。



「イシュルミ……」



「ランファ、あんたはあっちをやりなさい」



「でも――」



「ランファ、あんたじゃ無理よ」



 実力、に関してもそうだけれど、何よりあの子にこの戦いは辛すぎる。

 同じ志の者をわざわざ討つ必要なんてない。



「……」



「大丈夫よ」



「え?」



「あのバカ一発殴ったら目を覚ますかもしれないわ。その時は、お願いね」



 頷くランファに、あたしは一度目を向け、そしてラムダに下がっているように言うと、あたしたちの戦いが始まったのだった。

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