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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
34章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都防衛戦線。
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運命のライダーくん、方針を決める

「ふ~ん、じゃあここにはイシュルミさんがいるのか」



「あなた何も知らないで乗り込んできたのですの?」



「仕方ねぇだろ、来て早々お前には来るなって言われるし、いきなり襲われるしで、情報を纏める時間もなかったんだよ」



 ランファが顔を伏せたが、俺は別に責めているつもりもないし、こんな顔させたいわけでもない。

 俺はすぐに彼女の頭を引っ叩く、もう俺は従者ではない。だから容赦なく引っ叩く。



「いったぁ」



「アホみたいな顔してんな。もう俺はクビなんだろ、ならもう甘やかしてやらねぇからな」



「……甘やかしていたんですの?」



「甘えられる相手がいたことは確かだったろ?」



 ランファが拗ねたように頬を膨らませており、相変わらず図星をつかれると口を閉ざすのはどうにかしてほしいが。と、俺が肩を竦ませると、ロイさんが微笑んでいるのが見えた。



「リョカさんがお2人には仲直りしてほしいと言っていましたので、それが叶ってよかったです」



「ランファが勝手にやったことなんですけれどね」



「それでも、すれ違いというのは特には何よりもこじれますからね。なまじ理由がある分、とっかかりが掴みにくいのですよ」



「さすが年長者ね。でもお前ら、もう少し緊張感もとうな? ここ敵の本拠地の真っただ中だぜ」



 アヤメに指摘されてしまい、俺もロイさんも苦笑いを浮かべる。しかしロイさんが歩みを止めると、俺に頭を下げた。何事かと驚くのだが、彼は構わず口を開いた。



「では1つだけ――エレノーラを守ってくれてありがとう。ジンギくんには本当に感謝しかありません。この間のダンジョンの時もそうでしたが、もし困ったことがあればぜひ私に相談してください。何が何でも力になりますから」



 俺は頷いて笑みを返した。リョカが言っていた通り、ここで断ろうとしてもきっと話が進まない。俺自身、好きでやったことだし、礼を言われることでもないのだけれどな。



『……自分意思だろうが何だろうが、こう言う無茶はこれっきりにしてもらいたいねぇ』



 呆れたような声色で言われたが、こいつは――。



「いやヴィヴィラ、何しれっと混ざってるのよ」



『……』



 こいつも都合が悪くなるとだんまりを決め込む。ランファと同じで素直な子じゃないのだろう。俺はため息をつくと、何となくそこにいそうな気配を読み、そこに手を伸ばして撫でる。



「ヴィヴィラっつうのか? それならヴィだな。よろしくな相棒」



『――っ! は、はぁ! 思ったんだけれどさあ、き、君ちょっと馴れ馴れしすぎるんじゃあないか』



「はいはいそうだな。これからもよろしく頼むよ」



『――』



 およそ真っ赤になっているだろうことに確信を持ちつつ、俺は神妙な顔をしているアヤメに目をやった。



「……こいつまったく俺らの手に負えなかったのに、こんな様になる辺りこの世代の奴らは相変わらずチョロイわね」



「可愛くていいじゃない。あたし的にはヴィヴィラもこうして元気でいてくれるのなら、それで満足だよ」



「お前はもっと怒って良いと思うがな」



『――』



 アヤメの言葉に、ヴィの体が跳ねたような気がした。きっとなにかしたのだろう。でもアヤメのこともラムダさんのことも嫌っているわけではなさそうだ。



「ヴィヴィラ、今君は幸せかい?」



『……なわけ、い』



「ん?」



『……』



 俺はため息をつき、ヴィを掴んで金属を纏わせて、そのまま胸に抱く。



「だから泣くくらいな胸張ってろっつってんだろうが」



『な、泣いてな――うぅバカぁ』



 そんなヴィにアヤメが頭を掻き、そっと俺が持っており金属ヴィに触れた。



「ったく、アリシアもそうだが、お前も素直じゃないし面倒臭いんだよ。少しは姉を信用して頼れ」



「だね。ヴィヴィラ、別に今すぐにとは言わない。でももしあたしたちで力になれることならすぐに頼るんだよ」



 なんとなくヴィが震えている気配がする。

 何を抱え込んでいるのかは知らんが、少なくとも味方になってくれる人がいる。それを飲み込むまでもう少し時間はかかるかもだが、肩の荷は少し降りただろう。



「ジンギくん、こちらの勝手で申し訳ないけれど、ヴィヴィラのこと、本当にお願いします。素直じゃないし、泣き虫だし、変に背伸びするから大変だろうけれど、君なら任せられよ」



「ルナとテルネに関しては俺から上手く言っておくわ。ジンギ、お前は凄い奴よ。俺たちの扱いに関してはリョカとミーシャに並ぶほどだぜ。まあ実力に関してもヴィヴィラありきだが面白いことになっているし、注目度も高い。これからも精進なさい」



「お、おう? 任せとけ」



「わたくしの元従者がおかしな立ち位置になっておりますわ」



「ああいう方がいても良いと思いますよ。私たちではああいった喜ばせ方は出来ないですから」



 ランファが複雑な表情をしており、ロイさんが子を見るような生暖かい視線をくれている。そんなに変な状況だろうかと首を傾げていると、俺は一切会話に交じって来ない聖女様の顔を横目に映した。



「お前は静かな時はとことん静かだよな」



「――」



 何かを口に放り込んでおり、一心不乱に咀嚼している我らが聖女様。もう少し聖女としての心象を大事にしてほしい。



「リョカからもらった非常食よ。食べる?」



「いや食わねぇよ。ちゃんと腹いっぱいにしておけ」



「ん」



 するとミーシャが最後の菓子なのか、それを口に放り込むと、ジッと金属ヴィを見ていた。



「どうした?」



 ミーシャが金属ヴィに触れると、そっと撫で始める。



「あんたが何を恐れて、なにに後悔しているのか、それにそこまで自分を卑下しているのかはわからないけれど、大丈夫よ」



『――っ! 大丈夫って、何も知らないのに』



「大丈夫」



 ジッとヴィを見つめる聖女。その瞳は一切揺るがず、ただ全てを見透かすように見つめる。

 ミーシャにはこれがある。根拠も何もないくせに、ただその絶対的な自信が外れたことはない。



 それに――。



「お前の隣だと、まったく悪い運命も感じないからな。あながち間違ってねえんだろうな」



『そんなバカな――は? なにこれ』



 するとミーシャは俺たちに背を向けて進みだした。

 圧倒的強者の背中、あれが聖女の背中なのだ。



『……アヤメ姉さん、姉さんの信者、本当に人間?』



「獣だぞ」



「ケダモノだよねぇ」



『……運命が読み切れない。一挙手一投足で未来が変わっている』



「ミーシャに関しては考えるだけ無駄だぞ。起こったままを受け入れろ」



 ヴィが釈然としていなさそうな空気を纏っているが、これはアヤメが正しい。考えるだけ無駄なのだ、どうせあいつの行きたい未来になる。



「うしっ、そんじゃあそろそろ方針決めっか」



「方針ですの?」



「いや、全員でゾロゾロ動いていても効率悪いだろ。俺は移動手段があるし、そのコアって言うのを壊しに行くぞ。ミーシャはどうする」



「イシュルミをブッ飛ばす」



「そうか。ならランファも行け。丁度良いところで止めて来い」



「無茶ぶりですわ!」



「ロイさんは――」



「私もジンギくんについて行きましょう。リョカさんから一応このバルバトロスを探ってほしいとお願いされたので、コアを見ておきたいです」



「それなら俺も行くわ。コアをぶっ壊すのなら役に立つはずだし。ラムダはミーシャたちといろ、多分そっちの方が安全よ」



「じゃあそうさせてもらおうかな。ロイくん、アヤメたちのことお願いね」



 そして俺はバイクと呼ばれるそれを生成し、アヤメをおぶってロープで縛る。そしてその後ろにロイさんを乗っけた。



「俺の扱いよ!」



「我慢しろよ。基本的には2人までなんだからさ」



「お~、これがあの」



「そんじゃあいってくるな。お前らもあんまり無茶するなよ」



 ミーシャとランファに手を振り、俺たちはバルバトロスを爆走するのだった。

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