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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
34章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都防衛戦線。
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王都の守護者、その海路を往く

「セルネくん確保! ヨル爺、速度あげて大丈夫」



「おうよ! おい騎士ども、せっせと働け!」



 俺とヨル爺……ウロトロス=マイザー、それと途中で爺さんが無理矢理拾ってきた騎士たちを船に乗せ、俺たちは街道をまるで海を進むように爆走している。

 これが聖剣だというのだから、世の中は広い。



「カン坊、砲撃来るぞい!」



「あーもう! 『我が盾を抱き壊す(ブレイクンエクスコア)』」



 俺は体に巻き付けられた縄をキュッと握り、セルネくんをそっと床に寝かせると、そのまま船から飛び出した。

 俺に集まる信仰、つまり俺に掛かっている加護にによる盾が発光する。

 これはそう言うスキルだ、盾を破壊し、爆発を起こす聖騎士ほぼ唯一の攻撃手段――そう、俺の盾は街を覆っている。つまりここにはない。ないが、俺は守護神様の加護によって俺自身は盾を持っている(・・・・・)ことになっているらしい。



「わぁぁぁぁ!」



 砲弾の雨に飛び出した俺は爆発を起こし、降ってくる砲弾を弾き飛ばすと腹部で縛られた縄がきゅっと締まり、呼吸が止まりそうになるのを我慢しつつ、そのまま引っ張られるように船へと引き戻される。

 ビターンと船に叩きつけられ、俺は今日何度目かになる後頭部を押さえて船中を転がり回る。

 痛い。



「人の心ぉ……」



 ミリオンテンス騎士団長が俺をひどく心配しているように見てくれ、そのまま手を差し出してくれる。

 俺は涙目で立ち上がると、つい勢いで街を指差してしまう。



「俺の盾街の中じゃないと効果ない!」



「じゃろうなぁ、立派な門番じゃ」



「帰して、俺を街に帰して! もうビターン! ってなりたくない!」



「カン坊、船乗りは一度海に出たのなら最後まで海に生きるのが掟じゃ」



「さっき門番って言ったじゃん! この会話の間いつの間に職業替えしたの」



 ヨル――ウロ爺さんがケラケラと笑いながら酒を呷っている。本当にこの爺さんはいつもいつも、俺を一体何だと思っているんだ。



 そんなヨル爺さんが目つきを鋭くして、別の場所を見ていた。俺も彼の視線を追うのだけれど、そこには1人、眼鏡をかけた少女がいた。

 あれは確かソフィアちゃんって言ったかな。ミーシャちゃんとリョカちゃんと一緒にいて、とても強いらしい。



「あの娘――」



「ソフィア=カルタス、随分囲まれているな」



 ミリオテンス騎士団長がため息をついた。

 いや待て、カルタス? カルタスってあのカルタスだろうか。ということはベルギンド様のところの。



「リョカ周りの子たちは本当に愉快じゃのう。あの娘、1人でも大丈夫だろう」



「え、本当にいいの? だってカルタスだよ、普通は護衛つく家柄の子だよ」



「……その護衛より強いんだから仕方ねぇだろ。あいつ、あの聖女の拳を涼しい顔で受け止めるんだぞ。確かにここに来た学生――ランファもルーデルの坊ちゃんも強くなったが、あの3人は別格だ」



「騎士団長が情けない、わしが城に戻って鍛え直してやろうかの。まあリョカもミーシャもあの子も、護衛ついた先に撒かれるじゃろうがな」



 俺はその別格の3人の内の1人に何度かボコボコにされているのだけれど、強さより先に思いやりを学んでほしい。



「さて、こっちもそろそろ大物を刈るぞい。ミリオが役に立たんからな」



「魔眼効かねえんだよあいつら!」



 大物って。と、俺がそっと正面を見据えると眼前に山が見えた。砲弾の砂煙で視界が霞んでいるけれど、確かに大きな山が幾つか見える。

 はて、あんなところに山なんてあっただろうか。



 しかしその山が動いたように見え、俺は目を擦る。だって山は動かない。そんなものが動くのならそれはグランドバスラーか何かだ。こんなところにはいないはずだ。

 俺はそう何度も心の中で言い聞かせる。



 けれどウロ爺さんが歯をむき出しにして嗤っているから、俺はとりあえずセルネくんを抱き上げ、縄を外そうとする。



「カン坊、良い景色じゃのぅ!」



「降りる、俺降りるから!」



「諦めろカンドルク、このジジイもイカレてやがる」



 一直線に船が進む先には巨大な人形が三体おり、それぞれが船に何か大きな筒を向けている。

 あれって上の砲台と同じような物じゃ――。



「全速全開ヨーソロー! あのでか物どもの狩るぞ! 騎士ども配置につけ、ここからは命をかけろよ!」



「いやぁ! お家帰してぇ!」



 セルネくんを抱きしめながら鳴き声を上げてしまう俺だけれど、こんな状況で泣き言が出ない方が異常だ。つまり俺は正常、こんな大きな敵を前にしたら普通は逃げ出すんだ。

 人形が持つ筒が光り始めた。



「え、光って、なんで――」



 その瞬間、筒から眩いまでの光――俺がその光を頭で処理している間に、それは船をかすめるように通り過ぎた。



「え?」



 その光線は俺たちを通り過ぎ、その通った道を焦土へと変えた。



「……」



「よう言ったカン坊! あんなのを野放しにしとったら王都が危険じゃ! 門番としていい面になったわい!」



「何も言っていないけど!」



 船がさらに速度を上げて巨大人形に近づいて行く。

 そろそろ女神様に祈ってもいいだろうか。さっきあんなことを言った手前、とてつもなく祈りづらい。



「おいジジイ、言ってもあんなでか物、どうやって倒す気だよ!」



 本当にその通りだ、グランドバスラーより大きく、しかも持っている筒からは光線撃ってくるし、正直逃げた方がいい。

 でもウロ爺さんが言っていた通り、こいつらを放っておくと王都まで危険にさらされる。俺の盾だって絶対ではない。

 ならここで倒さなければならない。



 ウロ爺さんはなにも言わない。けれど眼前を見据えて嗤っており、その視線は動かない。



 すると人形の一体がその大きな拳を振り上げたのが見えた。

 あんな大きな拳、当たったら潰れるとかじゃなくてすりつぶされてしまう。



 けれど進路は変わらず、腕を組んでいるウロ爺さん。

 俺は大きく息を吸うと、震える手に目を落とした。そしてそこで気を失っているセルネくんが目に入った。



「……」



 この子は最後まで守り通した。

 まだこんな幼い体で、やり通して見せた。

 情けない大人を晒してどうする。



 人形の拳が届く直前、俺はセルネくんを床に寝かせ、再度船から飛び出した。



「『運命を分かつ盾の有無(フェイタルインパクト)』」



 怖い、怖いけれど――伸びてきた拳に、俺は体を潜り込ませた。

 そして拳が通り過ぎる直前、俺は腕を振り上げて人形の拳を弾く。



 拳が船をかすめていくと同時に、ぴょんぴょん飛び跳ねていたミリオテンス騎士団長が剣を抜いた。



「よくやったカンドルク! お前やっぱ騎士になれ、俺が貰ってやる! 『飛び跳ね超加速(ラビットアクセル)』」



「超遠慮します!」



 騎士団長の姿が消え、瞬時に人形の腕を駆けあがっていく。その際剣を人形の腕に引きずっており、火花が散っている。



「その腕貰うぜ。『受け流し超加速(インパクトアクセル)』」



 途端、人形の腕に剣戟が繰り出され、あちこちヒビが入ったような亀裂が奔る。



「ついでにもってけ、今まで受けた力、のしつけて返すぜ――『勢い余って超反転(ラストモーメント)』」



 腕の亀裂がさらに深くなり、そのまま砕けていく。

 あの風斬りにも劣らない速度を持つと言われている現騎士団長、ミリオンテンス=ソルニティ――その剣技に俺はドン引きしていた。



 人形の腕が落ちると、ついに笑い声を上げたウロ爺さんがさらに速度を上げて、人形の足元にまで帆を進ませた。



「よーやった2人とも! そいじゃあわしも――アンカー射出! デカいの行くぞい『聖剣発輝・海星跋扈』」



 船から放たれたアンカーが大きくなり、それを人形の脚に巻き付けた。

 そしてウロ爺さんはそのまま船を大きく旋回させ、隣にいる人形の脚を巻き込むように人形2体の足元をグルグルと回っていく。



 腕を壊していない方の人形が筒を俺たちに向けてくるけれど、それを見計らいウロ爺さんがアンカーの鎖を取り外し、体勢を崩した人形がそのまま尻餅をつき、上に向けられた筒から光線が放たれた。



 2体の人形が倒れている。

 攻撃の機会だ。でもあんなものを倒すなんて――俺は振り返り、王都を守る俺の盾。巨大なヒト型に目をやった。

 あれは俺の盾だ、きっと王都だけしか守れない。

 でも、でも――もう少し頑張れないだろうか。



 なにもどこでもあの盾が使えるようになってほしいとは言わない。

 だから少しだけ、ほんの少しだけで良い。



 ここまで――。



 俺は目を閉じ、息を吸う。

 大丈夫だ、ちょっと手を伸ばすだけだ。



 俺は目を開け、両腕を前にかざし、目の前にいる人形を掴むように見る。



「『我が盾を抱き壊す(ブレイクンエクスコア)』」



 途端、王都にいる俺の盾が腕を伸ばし、人形をその両手でつかんだ。

 いや、確かに手で握れたらとは考えたけれど、まさか王都から腕を伸ばしてくるとは思わなかった。ちょっと気持ち悪い。腕が何か伸びている。



 しかし俺の盾に捕まれた巨大人形がその手の中で信仰を爆発させ、人形を粉々に破壊した。



「よし一体――」



 でも3体目をまったく見ていなかったために、その3体目の人形が筒をこちらに向けているのに反応できなかった。

 マズい光線が来る。

 この船の速度では躱しきれない。ウロ爺さんが何かしようとしているけれど、それよりも先に筒が光る。

 終わったかな――。



「『聖剣顕現・ケダモノに身捧ぐ盟約セラフィックヴァンイージス』」



 光線は船から逸れ、街道を破壊していく。

 それと同時に、船から何かが飛び出した。



 銀色の獣、口に剣を咥えた彼が人形に飛び乗り、そのまま人形の腕を駆けていく。



「『聖剣顕現・銀姫と交わす約束(ヴァナルガンド)』」



 銀色の勇者――俺が見てきた勇者の中で最も輝いている勇者。



「我が抱く約束、銀色の風は我に吹く。誓いの上に成り立つ我の道。魔王(つきひめ)に捧げる金色の剣。これが全力全開――『神気一魂・災厄を斬る月の黄金剣ルナティックアポカリプス』」



 人形を覆うほどの光の粒子、そのすべてがキラキラと輝いており、だからと言って目が痛くなるほどの眩さではなく、月を彷彿とさせる光に俺は息を飲んだ。



 光の粒子の中でその()が振るわれた。



 いくつもの剣を鳴らす音に、俺が呆けた顔を浮かべていると、ウロ爺さんが愉快そうに笑った。



「見事」



 爺さんの言葉が放たれると、人形がバラバラに切り裂かれて崩れ落ちた。

 俺はつい、その勇者を感極まって呼んでしまう。



「セ゛ル゛ネ゛ぐ~ん!」



 セルネくんが船に降り立つと、そのまま変身を解き、肩を上下させながら大きく息を吐いた。



「間に合った」



「わ~ん!」



「え? ぐぇ!」



 俺はセルネくんに飛びついてしまい、体を震わせてしまう。



「か、カンドルクさん? 大丈夫ですか?」



「よかったぁ! 助かったぁ!」



「あ、あの、まだもう一体――」



「良い勇者じゃ」



「え? えっと、どちら様ですか? あ、その、ありがとうございます?」



「わしも血が滾るわい。若い勇者、わしも海星の勇者などと言われておったからな、ちと格好つけたくなったわい」



「海星の勇者……ウロトロス=マイザー!」



 ウロ爺さんがニッとセルネくんに笑みを浮かべ、そして残った巨大人形に腰に掛かっていた短剣を抜いて向ける。



「おひいさまの前じゃ。無様は晒せんのう」



「ちょ! ウロ爺さん、前、前!」



 明らかに人形にぶつかりに行くような進路に、俺は焦った声を上げる。しかしウロ爺さんはその顔に一切焦りも見せずに、短剣を振り上げた。

 すると同時に、突然大地が――否、海が湧き上がる。



「『集いし星の魂の極光(アストラルフェイト)五つ星唯一の海路フィフスヨルムンガント』」



 人形ほどの高さまで持ち上げられた俺たち、そっと船底を覗くとそこには人形に負けないほど大きな蛇――俺もセルネくんも、そして騎士団長も引き気味にウロ爺を、海星の勇者ウロトロス=マイザーに目をやった。



 大蛇が人形に撒きつき、そのまま力任せに砕くと俺たちはそのまま落下していく。

 落下の衝撃よりも何より、こんなものを隠し持っていたジジイに衝撃を受けており、それどころではない。



「カン坊、今回の海路も、良い道だったのぅ」



 懐っこい顔で笑う爺さんに、俺は恐怖しか覚えず、次からはウロ爺の機嫌を損ねることはしないと誓うのだった。

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