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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
34章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都防衛戦線。

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聖女ちゃんと運命のライダーくん

「――」



 アトロシリアの鞭だけでなく、迫るマネキンの猛攻すらも最小の動きで躱していくジンギに、あたしは違和感を覚えた。

 確かにあの子はテッカやガイル、セルネやランファ、オタクたちに鍛えられているというのは知っていた。しかしこれほどの、しかも人間(・・)の戦い方をする子だっただろうか。

 いや、確かに人間の戦い方だ。でも違う。まるで攻撃がどこから来るのかわかっているかのような動き方。

 そんな戦い方、この短時間で得られる物だろうか。

 ロイやアルフォース、さらにリョカやガイル、テッカが出来るのなら納得出来る。でもそれをしているのはあたしと同い年で、最近までろくに鍛えていなかった人間だ。



 あたしが訝しんでいると、アヤメが顔を引きつらせていた。



「こりゃあ、ヴィヴィラの加護か?」



「間違いなくそうだろうね。ジンギくんには運命が視えている(・・・・・)



「未来視――ヴィヴィラが加護渡すのなんて初めてじゃねぇか?」



「というか無理矢理引き出されているというか、あの格好、女神特権と変わらないよ。女神を装備している(・・・・・・)



「ジンギめ、ここにきて馬鹿みたいに破格の性能を手に入れやがった」



 アヤメとラムダの話からジンギが面白いほど強くなったというのがわかった。やはり一度戦っておくべきだろう。

 そんな彼をランファが肩を竦ませ、目を細めて見ていた。思うところがあるのだろう、でもそれ以上にジンギ=セブンスターが戦う理由を、自分の知らない彼を見ているのだろう。



 こうやって想いを馳せている間もジンギはマネキンからの銃弾を躱し、アトロシリアの鞭を寸でのところで躱してはそれを掴み、持ち上げている。



 アトロシリアを再度引っ張り上げて宙に浮かせ、マネキンたちの頭を殴り潰しながら脚を進めて魂を喰らうA級冒険者に拳を伸ばした。



 上品とは言い難いが、その鋼鉄の拳は敵を穿っていく。



「うがぁ!」



 アトロシリアが吹っ飛び壁に激突したと同時に、ロイがセルネの盾から飛び出して、マネキンを攻撃し始めたから、あたしもアヤメとランファ、ラムダを連れてアトロシリアから距離をとった。



 やっと敵を分断できたことにラムダが安堵の息を吐いており、ランファをアヤメとラムダに任せて、あたしはロイと並ぶ。



 すると横目にはアトロシリアが口から血をペッと吐き出し、忌々し気にジンギを見ているのが見えた。



「……あんた、一体何者だ? 突然湧いて出てきて、俺っちに何の怨みがあるんだよ」



「お前散々俺のこと殴ってくれただろうが、それにエレまで殴りやがって」



「あの小さい子か? カリンがあの子は危険だって言ったんでね、こっちにとって都合が悪かったから消す。当然だろうが」



「おお良かったじゃねえか、俺の怨みを自覚してる。というかお前もなんだよ、こんなことする奴らに手を貸して、挙句に小さい子にまで手を上げて」



「おいおい俺っちは冒険者だ、そこに金と名誉がある。それ以上の理由がいるのか」



「……ああそうだったな、冒険者の矜持ってやつがあったな」



 ジンギは一度目を閉じると拳を強く握り、そして大きく息を吸うとそのまま眼を開いた。



「俺も冒険者だ、だからお前の宗教にケチはつけない。だが俺とは相いれない。だからお前は敵だ! お前も冒険者なら、負ける覚悟は出来てるんだろうな」



 ジンギの啖呵に、アトロシリアが額に青筋を浮かべ顔を引きつらせると同時に、自身の胸に爪を立てた。



「お前如きに負けるわけないだろうが! 『神装・魂剥(こんぱく)』」



 突如アトロシリアの体を生命力が包んだ。

 テッドの『大地の魂の極光(プラネテスフェイト)』やタクトの『魔と歩む者(チェイサーノート)』のような自己強化というよりは体に被せ物をして強化する方法。

 アヤメがアトロシリアを見て口を開いた。



「吸い取った生命力で体を作る『魂を喰らう者』の最終スキルよ。しっかし、随分と趣味が悪いというか、気持ち悪い」



 アヤメの言う通り、アトロシリアが形作った体からは数十本の触手が生え、奴はクリーム色のぶよぶよとしていそうな体に身を包んでいた。触手生やした芋虫みたいである。



 しかしあの見た目はともかく、それなりに脅威になっているのか、触手が次々とジンギに伸びていき、さっきまで余裕を持って躱していたのに、数と速度によってジンギに攻撃が当たりかけている。



「マズいですね」



「……ジンギじゃ厳しそう?」



「いえ、それは彼の実力が未知数なので何とも言えないですが、少なくともその未来視なるものがあってもあの数を捌ききれるだけの戦闘技能をジンギくんは持っていません」



 ロイの言う通り、ジンギに触手が当たり始めた。奴から伸びた鞭にも似た触手が次々とジンギに当たって火花が散っており、あのままでは生命力を持っていかれるのではと、助力に向かおうとするのだけれど、アトロシリアが舌打ちをしたのが見えた。



「クソッ何だってんだあの鎧。生命力が吸い取りづらい」



 一応女神の力が通っているということなのだろう。

 しかしジンギは相変わらず火力面が課題だ。今も決定打がないままアトロシリアを殴っているけれど、このままではじり貧だ。



「……ったく、勇んで出てきたつもりだたんだがな」



『だから言ったんじゃあないか――まあ良いよ、私も力を貸してあげる。ここで死なれても困るからね』



「頼りにしてるよ相棒」



『あいぼっ――ああもう! いいかいよく聞け。今君には私の力の一部が使用できるようになっている。いいか、未来はいくらでも観測できるけれど過去はそうもいかない。過去は過ぎ去った世界だ』



「……難しい話か?」



『簡単な話だ。過去とは不明瞭だ、誰も過去を証明なんてできやしない。だからこそ過去はなんだっていいんだ(・・・・・・・・・)



「なんでも、ね。どんな過去でも良いのか?」



『自分が責任をとれる(・・・・・・)過去ならね』



 そんな話をしながらジンギが笑みを浮かべた。

 そして一度腰に巻かれたベルトに装着されたヴィヴィラを撫でると、ジンギ=セブンスターは前を向き、そしてアトロシリアに向かって飛び出した。



「行くぜ相棒!」



『もうどうにでもしてあげるよ!』



「『厳剛拳王(がんごうけんおう)』」



「いまさらそんなものが――」



 ジンギが腕全体をさらに金属で覆うと同時に、アトロシリアの触手が再度彼を襲った。

 しかしジンギの拳が空間に消える(・・・)と、それは突如現れた。



「は――?」



 アトロシリアの間の抜けた声、ジンギの巨大になった(・・・・・・)拳が触手を巻き込んで放たれ、触手芋虫の顔面――その体全てに放たれた。



『なんだ知らなかったのかい? 数秒前にジンギ=セブンスターは巨人だと承認されているんだよ』



「俺も初めて知ったよ」



 半笑いのジンギだったが、彼にくっ付いている運命神の姿は見えないけれど、人を小ばかにしたように鼻を鳴らし、吹っ飛んでいったアトロシリアに挑発するような空気感が漂った。



『今と未来にしか生きられない三流冒険者にはお似合いの末路さ』



「何……ッだとコラぁ!」



『さっさと決めちゃいな』



「おう――」



 アトロシリアの触手がさらに増え、まるで雨のようにジンギに狙いをつけてその触手を伸ばした。

 けれどジンギは落ち着き払った顔で自身の脚に手を添えた。



「『厳々脚王(がんがんきゃくおう)』」



 ジンギは飛び上がると同時に、その鼻を鳴らしあたし好みの戦闘圧が流れた。きっと嗤っている。



「やっぱ蹴りだよな」



 隙だらけの飛翔――触手が伸びてきているにも関わらず、ジンギは空中で脚をアトロシリアに向ける。

 そしてアトロシリアの放つ触手に突っ込むように空中から飛び込んでいった。しかし彼が飛び込むと空間に消えた脚がさらに空間を突き破り巨大な脚となって飛び出てきて触手諸共アトロシリアに伸びていく。



 A級冒険者、千手彩画のアトロシリア――その千をも超える触手諸共ジンギの脚が押し潰し、足を引っ込めると同時に、アトロシリアを通り越して床を滑り背中を向き合わせた後、あたしたちの方に体を向けた。



『ああ、君に一個過去が増えたようだ。喜びたまえ、君は爆発する』



 ジンギがこちらに歩んでくると同時に、彼の背後にいたアトロシリアが突然大きな爆発を起こした。

 どうなっているのかと考え込むけれど、アヤメとロイがさっきよりも瞳を輝かせていることから、きっとリョカが見せた物の形式美というものなのだろうと納得し、あたしたちは一度マネキンを殴るのを止めるのだった。

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