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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
34章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都防衛戦線。

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聖女ちゃんと異世界ライダー

「困ったわね」



「ですね、どうしましょうか?」



「……いえ、あなた方もう少し焦ったらどうですの? というか囲まれていますわ!」



 ランファのキンキン響く声を無視し、あたしは辺りを見渡す。

 どこを見てもマネキン、マネキン――あの一切表情の動かない人形を見ていると、精神がおかしくなるくらいには苛立つ。



 このバルバトロスを沈めるためには適当にあちこち殴っても効率が悪いらしい。

 アンデルセンが言うにはこの船には核……リョカ曰くコアがあるらしく、それがこの大きな船を動かしている動力源で、それを壊せば沈むとのことだった。

 あたしたちは無王に思い出させながら書かせた見取り図を参考に足を進めていたのだけれど、暫く進んだ先でマネキンたちに囲まれてしまった。



「けど本当に鬱陶しいわね。どれだけ湧いて出てくるのかしら?」



「ミーシャさん、無王が言っていたではありませんか、人形は無限に近い有限に湧くぞ。と」



「本当に余計なことしかしないわねあのおっさん」



 あたしの言葉にロイが苦笑いを浮かべると、リョカから持たされていたカメラで辺りを撮り始めた。あの子は無王が何か隠しているかもしれないと危惧していたみたいだけれど、あんなすっとぼけのおっさんが隠すことなんて高が知れているのではないだろうか。



「あの、ロイさん? そんなことをしている場合ではないのではないですか?」



「ん? ああそうですね――」



 するとロイが少し屈み、あたしに顔を寄せてきて、カメラを持った腕を伸ばして空いた手でピースサインをした。



「お前がボケに回ったら収集つかなくなるでしょうが!」



「それもそうですね。では」



 そう言ってロイが腕を振ってクマたちを生成したのだけれど、数が少ない。数体しか生成できておらず、あたしは首を傾げて彼を見る。



「ミーシャさん、失念していました。ここに大地はありません」



 あたしがその言葉の意味を考えていると、アヤメが呆然とした顔を浮かべた後、ラムダに目をやった。



「……おいラムダ」



「あっちゃぁ、ここあたしの加護が全く届いていないね。命の芽吹きなんてあったもんじゃない。人は土の上で生きなきゃ」



「まったくですね。ここでは小麦も育ちません」



「だねぇ、特権も使えないかも――」



「この役立たずー!」



「いったぁ! アヤメがぶったぁ!」



 アヤメに引っ叩かれ、ラムダが涙目でロイの背中に隠れた。

 別に女神を戦力として数えていたわけでもないし、ラムダが使えないのはまったく問題ないんだけれど、ロイが使えないのは問題ね。



「下がってる?」



「いいえ――」



 そう言ってロイが手にロッドを生成し、それを振り回してマネキンの頭を潰すと、勝気に笑った。



「大地の力がなくともこの程度敵にもなり得ませんので」



「そう、それじゃあやるわよ。ランファ、精一杯働きなさい」



「言われなくとも! まったく、ロイさんまで一緒になって、緊張感が足りませんわ」



「雰囲気を和ませようとしたのですけれどね」



「……あなたそんなにお茶目でしたっけ?」



「このような私は、お嫌いですか?」



 ロイからキラキラとした笑顔を向けられ、ランファがたじろいでいる。

 あの魔王の浮ついた言葉にあんな顔を浮かべるなんて、星の勇者はまだまだなのだろう。



 そしてランファがロイの言葉を払拭するように頭を振り、すぐに聖剣を構えたのだけれど、突然彼女の体が傾く。



「え――?」



 ロイがすぐにランファを支えるのだけれど、足に力が入っていないのか、立っていることが出来ないようだった。



「体に、力が」



「――! 忘れてた、これはアトロシリアか」



 聞き覚えのない名前にあたしはアヤメを見るのだけれど、ふと妙な感覚を覚えて神獣を抱き上げて飛び上がる。



「ミーシャ気を付けろ、千手彩画のアトロシリア、A級冒険者で音もなく鞭を振ってくる。そして何より、ギフト・『魂を喰らう者』所謂ソウルイーター、生命力を食われるぞ。お前は絶対に喰らうな」



「喰らうなって言われても」



 あたしが飛び上がると確かに足元を何かが過ぎっていった。

 どこから攻撃されているのかもわからない。しかも生命力を吸いとるらしい。

 面倒ね、ここで仕留めておくか。



 あたしが拳を握るとどこからか声が聞こえた。



「ったく、こっちに来たのは聖女かよ。しかもなんで俺っちが魂を喰らう者だって知ってんだ? 誰にも話したことないぞ」



「この子鼻が良いのよ」



「うんなもので納得出来るかよ。ああクソ、出来れば聖女と血冠魔王とは戦いを避けたかったんだけどな」



「おや、私を知っている?」



「カリンに聞いた。しかしまさか本当にいやがるとはな。お前を倒せば俺の名ももっと世界にとどろくかね」



「それは自惚れですか? 生憎、あなた程度にやられるほど弱いつもりはありませんよ」



「そうかよ――」



 一瞬、どこかで風を切るような音が鳴った。

 鞭を振られた? でもどこから――。



 あたしが警戒すると、足元に植物が広がり鞭の動きを止めた。



「なに――」



「本当に面倒ですね。辺りは人形の軍団、あなたは死角から生命力を奪う。さらにこちらは1人動けない」



「ごめんなさいですわ……」



「いいえ、警戒していなかった私にも落ち度はあります。今はとにかく、体力回復に努めてください」



 植物がアトロシリアの鞭を弾いたのだけれど、その植物がロイの体から生えており、彼の血を吸って育っているのがわかる。



「ロイ」



「ええ、ここでは植物が育たないので、私の体を苗にしました。ですがこれだと」



 思う通りには動けない。しかもこれは足元しか守れておらず、不意打ちを少しだけ逸らせるという程度のものだろう。

 ならばとあたしが口に信仰を込めるのだけれど、アトロシリアが舌打ちをしたのが聞こえた。



「おいバカバカバカ、こんなところでお前の高威力なんてぶっ放してみろ、諸共真っ逆さまだぞ!」



「知ったこっちゃないわ。どうせ壊すんだもの、あたしたちが落ちようが関係ないわ」



「覚悟ガンぎまりかよ。聖女なの自覚してほしいもんだな!」



 足元に攻撃できないと見るや、アトロシリアはおよそ走り回りながら鞭を振り始めた。

 あちこちから鳴る足音とあたしたちに向けられる鞭――さっきよりは視界に入るから躱しやすいけれど、マネキンたちが妙な行動をとり始めた。



 奴らが腰に掛かっていたリョカの言っていた銃という武器をこちらに向けてきた瞬間、セルネが置いていった盾があたしを守るように壁を作った。



 けれどこれでは――。



「動けないですね。せめてどちらかを誰かが引き受けてくれればいいのですが」



「いいわ、あたしが出る」



「待て待て。いい、俺が出るわ。こんな奴ら女神特権で――」



「いやアヤメ、君の特権はここでは危ないでしょ。あたしたちはバルバトロスに対して特権の使用は認められているんだ、アトロシリアに当たったら罰せられちゃうよ」



「うんなこと言っている場合か。ミーシャたちを失う方が世界にとっての損失だ。俺が叱られるだけで済むならそれでいいでしょう」



 腕の中でアヤメが吠えているけれど、こんなところでアヤメたちを危険な目に遭わせるようなことはしない。リョカに怒られるだろうし、何よりあたしもこんなところで女神の力は借りたくない。



 あたしはアヤメを撫でると、彼女を下ろして拳を構える。別に当たらなければ良い、それなら速攻でカタを付けてやればそれで終わる。



 体中の戦闘圧を半身に集めて形作る。

 圧を別の形に作り替え、それは一本一本が本物の体毛(・・・・・)ように繊細に――と、あたしが飛び出す準備をしていると、どこからか爆音が聞こえてくる。

 それにこの匂い。



 あたしが視線を上げると同時に、あたしたちがいる空間の壁の一部が爆破し、そこから誰かが飛び込んできた。

 聞きなれない音を鳴らしながらそれはマネキンたちを蹴散らし、あたしたちの前に降り立った。



「ったく、やっと見つけた」



 その乗ってきた乗り物を手をかざして消し、そいつがヘリオス先生作の薬巻に火を点して、煙を吐き出しながらあたしたちに振り返った。



「なんだよミーシャ、苦戦してるのか?」



「……そうでもないわ。あんたが来たんだもの、負けるわけないでしょ」



 ジンギ=セブンスターが喉を鳴らして笑った。ランファをちらと見ると彼女は顔を伏せ、そんな彼にアヤメが驚いた顔で口を開く。



「お前怪我は」



「治った。相変わらず気にしいだなアヤメは。心配してくれてありがとうな」



「別にそう言うわけじゃ。ってジンギ! 今ここにいる奴は生命力を――」



 アヤメの忠告の直後、確かに聞こえる風斬り音、ジンギの下に鞭が迫っている。

 あたしが動き出そうとすると、そのジンギが床を思い切り踏み抜いた。



「この鞭は……」



 伸びてきた鞭を脚を上げただけで躱し、さらに踏みつけて動きを止め、その鞭をジンギが手に取った。

 そしてジンギが鞭を引っ張ると、アトロシリアが同じように引っ張られてきて宙に浮いた。



「てめぇよくもやってくれやがったな。よくも――」



 持ち上げたアトロシリアにジンギが拳を握りしめて鋼鉄化させた。そしてその拳を飛んできた敵に向けて放つ。



「よくもエレをぶん殴ってくれたなお前!」



「がっ!」



 ぶん殴られたアトロシリアにジンギが嗤いかけると、アトロシリアが口から血を吐き出し、ジンギに敵意を向けたのがわかる。



「お前はあんときの。クッソ面倒臭いな」



 ジンギがアトロシリアに対峙しながらこちらに意識を向けてくる。



「おい、ランファはどうした?」



「そいつに生命力吸われたのよ」



「何やってんだお前は」



「わたくしは――それよりジンギ、どうして」



「うるせぇ、もう聞いてやらねぇよ」



「は?」



「お前が言ったんだろうが。もう、()()()()()()()()()からな」



「……」



「だから、好きにやらせてもらう」



 少年のようなニヤケ顔で言うジンギに、息を飲んだランファが肩を竦めた。



「……ええ、勝手になさい。もうあなたは解雇よジンギ。好きに生きなさいな」



「ああ、好きに生きてやるよ」



 そんなジンギの背中をランファが真っ直ぐと見ていた。

 ロイが2人を見て微笑み、ジンギの背に向かって声をかけた。



「ジンギくん、お願いしますね」



「うっす、父親の役割をとって申し訳ないですが、こいつは俺がブッ飛ばします」



 頷くロイにジンギが頷き返すと、アヤメとラムダが首を傾げていた。



「ヴィヴィラお前」



「あ、やっぱこれヴィヴィラか」



「お? この泣き虫のこと知ってるのか?」



『な、泣いてない! 君はさっきから私を勘違いしているんじゃあないか』



 こうやって話をしながらもジンギは最小の動きでアトロシリアの鞭を躱していた。

 あいつあんな風に戦闘できたかしらと、指に顎を乗せて考えていると、そのジンギが突然自分の肩辺りに手を伸ばし、何かを……見えないはずの女神を捕まえた。



「うし捕まえた」



『ちょ、ちょっと!』



「付き合え相棒」



『あ、あいぼ――』



 上ずった声で女神……運命神ヴィヴィラと言ったか、奴がジンギに捕まえられると同時に、その手の中のヴィヴィラが光り輝く。



「行くぜ」



『ああもう! 君といると調子が狂う』



 いつの間にかジンギの腰に巻きつけられた何かと、不可視のはずの女神に金属が生えてき形作っている。

 その女神に生えた金属の板を、腰に巻きつけられたバックルを開いて挿入した。



変身(・・)――『厳神割衝(がんじんかっしょう)』」



『ああもう、これも持って行きな』



「あんがとよ相棒。『過去を歩み先を抱く者モード・ギアラケシウス』」



 ジンギの体が見たこともない意匠の鎧で覆われ、顔には全体を覆うような兜と眼だと思われる虫のような複眼らしきもの。

 一体何だと訝しんでいるとアヤメとロイが目を輝かせていたのだった。



「来いよ三下、俺が相手になってやる」

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