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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
34章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都防衛戦線。

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魔王ちゃんと女神と進む道

「うし、準備は整ったね。僕はどうしようかな、とはいえ――」



 僕はチラリと背後でご機嫌に手を振る陛下と申し訳なさそうに頭を何度も下げるベルギンド様に目をやる。兵士を連れて街に戻ったラスターさんを見習ってほしい。

 ソフィアにも迎撃を任せちゃったし、ミリオンテンスさんと騎士たちもウロ爺に負けないようにと血気盛んに陛下を放って行っちゃったし、僕がここを動くと陛下たちを守れなくなってしまう。



「いや悪いねリョカちゃん」



「悪いと思っているのなら大人しくしていてくださいね」



「わかっているって。ところでリョカちゃん、あれ1つ余っているけれど誰も乗らないなら乗っていいかい?」



 陛下がラムダ様の乗るはずだったPED.(プラテネスエクシードブースト)を指差しており、僕はニコリと笑みを浮かべ、失礼を承知で陛下の頭を引っ叩いた。



「リョカさん、本当にすみません」



「……ベルギンド様、良かったらジブリッド商会に務めてはどうですか? 胃が荒れる職場よりやりがいがありますよ」



「おいおいリョカちゃん、うちの腹心を引き抜かないでくれよ」



「少しは身近な人の気苦労も考えてあげてくださいね」



 人懐っこい顔でベルギンド様の背中を叩く陛下に僕はため息をつき、僕は改めて辺りを見渡す。

 ウロ爺とカンドルクさんは砲撃を回避しつつあちこちを船で進んでおり、ミリオンテンスさんの騎士団はマネキンと接敵し、剣を振っていた。

 そしてソフィア、彼女を警戒しているのか、大きく仕掛けてはいないが、その時間でソフィアの周囲にはすでに数百の獣たちが控えており、彼女の一声で今すぐにでも戦いを始められるだろう。

 随分と鋭い殺気を放てるようになって、あの弱々しかった可愛いソフィアはどこに行ったのやら。



 僕が思案顔を浮かべていると、街の方から何か大きな音が聞こえる。

 しかし聞き覚えのある音だ、けれどこの世界で聞いた音ではない。

 これは――。



「バイク?」



 僕がその懐かしい音に哀愁を覚えていると、それは門から飛び出してきた。

 どうしてどいつもこいつも門から飛び出てくるんだ、お笑い芸人の舞台じゃないんだぞ。



「リョカぁ! こいつ借りてくぞ」



「ってジンギくん? 怪我は――」



「治った!」



「治るか!」



 PEDをバイクに装着し、ジンギくんがアクセルを吹かせた。

 というかあのバイクなんだ? いやなにかはわかっている。あれは僕の福音だ。この間あげたお土産をあの形にしたんだ。



 しかもそれだけじゃない。あのバイク、どうにも女神様の――。



「ヴィヴィラ?」



 ルナちゃんの呟きに、僕は意識をバイクに向けるのだけれど。



『ちょっと! だから止まれって――』



「断るっつってんだろうが!」



『君は戦うんじゃあない! 死んじゃうかもしれない!』



「上等だ! 俺を殺したいのなら運命の女神様でも連れてくんだな!」



『だからここに――あぁぁぁっ!』



 知らん女神様の声が聞こえたかと思うと、ジンギくんが空に道を作り(・・・・・・)、そのままスイッチを押して飛び出して行ってしまった。



「……意外と愉快な女神様なんですね?」



「いえ、ジンギさんに主導権を完全に握られていますね。しかしあの子」



「肉体がないようですね。人の世に核だけで降りてくるとは何を考えているのでしょう」



 うん? 僕は首を傾げる。

 確かフィムちゃんと戦ったのではなかっただろうか。それに肉体がないとはどういうことなのだろうか。

 テルネちゃんが陛下たちをちらと見ていた。

 しかしルナちゃんが首を横に振る。



「この場にいる人なら聞かれても大丈夫ですよ」



「……そうですね。リョカさん、以前私たちの体について少し話をしましたよね?」



「ああはい、こちらの世界に順応し始めるという――」



「テルネが太った理由です」



「テルネ姉さま太ったんですか? 私今までで一度も太ったことなんてないので、ちょっと感覚知りたいです」



「ちょ、ちょっとやめてあげてね。男の人もいるから」



 顔を逸らして2人で会話を始めた紳士たちに、僕は心の中で礼を言いながら、顔を赤らめて頬を膨らませるテルネちゃんを撫でて続きを促す。



「……順応するのは私たちの核を守るためです。女神の核は別に破壊されることもないので私たちが死ぬことはありませんが、それでも力の塊です。何かあったら周囲に被害が出ますし、そもそも死にはしませんが、核を傷つけられると普通に痛いです」



「だからミーシャお姉さまが核を引っ張りだしたのを見た時はヒヤヒヤしました」



「……あ~ごめんね、止めるように言っておくよ」



「そうしてください。だからこそ女神は人の世で肉体を作るのです。どのような状況になっても核を傷つけられないようにするためにです」



「とはいえ、肉体そのものも危ないのですけれどね」



「危ない?」



「神核はわたくしたちの信仰を司ります。けれど肉体は力――つまり女神特権を扱うエネルギーやギフトの力そのものをため込んでいますから、所謂爆弾みたいなもので、仮にわたくしたちの制御が利かなくなった場合、速やかに処理する必要が出てきます。まあそんなことはあり得ませんが」



「……どうして?」



「ミーシャさんのように神核を奪ったとしても、わたくしたちは存在できます。テッドがいい例です。あの子の主人格はなくなりません。けれど魔王ミルド=エルバーズのように女神の魂そのものを弾かれるとちょっと困ってしまいますが、少なくともああいうことが出来るのはミルドと……リョカさんくらいですから」



「つまり可能ではあるんだね?」



 そういうのを対策出来るように女神さまたちに防衛装置でも持ってもらうべきだろうか。テッドちゃんのようなことは二度と起こしたくないし、そもそもこの後にそういう奴らが出ないとも限らない。



「……こういう風に、リョカさんはすぐにわたくしたちのために考えてくれるから大好きなんです」



「ですね、リョカお姉さまはいつも女神に優しいです。あーちゃんにも優しいです」



「あっはい」



「フィム、所々でルナを傷つけないように。でもそうですね、私たちも完全ではありませんから、こうやって想ってもらえるのは嬉しいものですね」



 僕は順番に女神さまたちを撫で、とりあえずこの騒動が終わったら色々対策を考えるとして、テルネちゃんに結論を促す。



「つまり、女神は肉体を作ってこちらに来るのが常識なのですよ。でもあの子はそうしていない。本当に何を考えているのやら」



「昔から気難しいところはありましたからね」



「やったことに関して罰は受けるべきなのですが、そもそもアリシアと同じで理由がわからない。昔は何でも相談してくれたのですけれどね」



「あーちゃんはテル姉さまじゃなくてアヤメ姉さまとラムダ様に相談して――むぐぐ」



 フィムちゃんの口を塞ぎ、ルナちゃんとテルネちゃんが体を震わせたのを横目に、僕はジンギくんが飛んでいった方に目を向ける。

 運命神ヴィヴィラ様に関して僕はほとんど知らないけれど、まあジンギくんなら上手くやるのではないか確信している。

 あの子は異様に幼女の扱いが上手い。

 あの女神様が何を考えているにせよ彼の前ではどうにかなるのではないだろうか。



 そんな予感を抱きつつ、僕は防衛戦の情報収集に戻るのだった。

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