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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
34章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都防衛戦線。
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運命を切り裂く執事くんと怯える声

『もう君は起き上がらなくても良い。だってそうだろう、君はそれほど強くない』



 背後から聞こえる声、俺の耳元で甘く囁くように言いやがる。

 余計なお世話だ、自分が弱いことなんて俺が一番自覚している。



 セルネは本当に強くなった、自分のなりたい勇者を掲げて魔王と聖女に食らいついている。

 ランファは見違えるほど強くなった。元々の才能が成せる業か、もうとっくに俺なんて必要としていないのかもしれない。



『どんどん力をつける友人、でも君はどうだい? 尖った才能もなく、だからと言って何かに秀でているわけでもない。君は凡人だ、そこいらの履いて捨てるほどの英雄にもなれないただの人だ』



 その言葉に俺はひどく納得してしまう。

 最近やっと一歩踏み出せるようになっただけの俺が何かを成せるわけもない。

 英雄になんてなれないし、ましてや勇者など遠く高い。



 なら俺は何者か、この声の言う通り凡人なんだろう。

 そんな俺が守れるものなんて――。



『そう、そうさ、君が守れるものなんて高が知れている。そうさね、せいぜいみなを裏切り、居場所すらない憐れな少女の止まり木になる程度さ』



 随分具体的な例えに首を傾げる。誰のことだ、とその声に返事してみるも、声の主は咳払いを1つし、何事もなかったように話を続けた。



『とにかく君は大人しくしているべきだ。まだ死にたくはないだろう』



 死ぬ……ああ確かに死にたくはない。親父やお袋のようにそれが務めなんてクソくらえだ。俺はそんな風にはなってやらん。と、今はもう見えない両親に悪態をつき、ため息をつく。



『ああそうだ、今はゆっくり眠りに――』



『あれぇヴィーラ、こんなところでなにしてるです? 良かったらヒナのお菓子いります――いったぁ!』



 誰かが殴られるような音がした。

 さっきから聞こえてくるこの声、俺の自問自答かと思っていたが、明らかにそうではない。

 というか俺の頭の中で喧嘩するな。



『もぅ! せっかく美味しいお菓子あげようと思ったのに! べ~っだヴィーラなんてアヤメ姉にガブガブされちゃえばいいんですよぅ!』



『今大事な話してるから!』



『そんなに言うならヴィーラの分のお菓子食べちゃうですよ。あ、ジンギさんお菓子隣に置いといたですよ――』



『もういいから早く出てけ!』



 荒く吐き出される息遣いが数回聞こえ、片方の気配がなくなった。

 どういう反応したらいいのだろうか。



『……そう、君は今は眠るべきなんだ――』



「いや無理だよ。耳元でごちゃごちゃしやがって。何だ今の母ちゃんと小僧みたいなやり取りは」



『君は死の運命から免れている。それを喜ぶべきじゃあないか。だから君が戦う必要なんてないんだ』



 何が何でも会話の空気を戻すつもりか。

 一体何だってんだこいつ。そう言えばさっきの声、どこかで聞いたような気がする。



『ああそうだ、こんな話をしたくはなかったんだけれどね。君の隣で今、エレノーラだったかな、彼女も寝ている。君が守れなかった女の子だ』



「……」



『ほら、結果としてそこにあるんだよ』



 およそニヤケているだろう顔がありありと想像できる。こいつさては性格悪いな。それと1つ間違っている。



「ああそうだった」



『わかってくれたかい。なら君はやはり大人しくこの事件を見守れば良い。銀の魔王やらケダモノの聖女が何か頑張っているが、君には関係ない。こんなのは天才と怪物たちがどうにかすることだ』



 俺の目の前に、知らない景色が現れた。リョカたち……カンドルクですら声を上げていた。

 そしてミーシャ、よくわからんリョカ作の武器で飛び上がり――というよりセルネ、あいつもまた食らいついて自身の成すべきことをしている。

 ランファの姿も見える。どういう事件なのか未だに把握しきれていないが、あそこまで追い込まれていたお嬢様すらああして両の脚で立っている。剣を握っている。



 ああそうだ、そういうこと(・・・・・・)じゃないんだったな。



「わかってねえなお前」



『……なに?』



「俺が守る守らなくてもどうせ傷ついて帰ってくるんだよあいつらは。なら俺がちょっとでもあいつらの盾になれたのなら、それは誇らしいことだ」



『馬鹿な! 君1人混ざったところで――』



「変わらねぇかもな。でも少なくとも、俺は俺の守りたいものだけは守るよ」



 いつまで寝ているんだジンギ=セブンスター、あの馬鹿ども、まっすぐ進むことだけは得意になりやがって、少しは危機感というものを持ってほしい。

 それと思い出してきたが、多分あそこにはエレを殴った奴もいるだろう。散々殴り付けやがって、ムカムカしてきた。



『そう、そうだよ! あそこには君たちを追い込んだA級冒険者たちがいる。君たちを襲ったのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。君なんかに勝てるわけ――』



「だからなんだ、倒せなかったらミーシャとロイさんに任せる」



 俺はもう一歩を恐れないと決めた。負ける時のこと、死ぬ時のことなぞ考えて前に進めるものか。



『待て、待って、起きるな。君はもう、戦いに身を置くな!』



「心配してくれてんのか、案外いい奴だなお前」



『ちがう、違う! 私は、私は……自分のことだけを――』



 何となく、感覚があった。だから手を伸ばした。

 なんとなくそこにいる気がした。

 ガキの気配に敏感になってしまったのはあいつらのせいだろう。



 俺はそっと手を伸ばし、なんとなくそこを撫でた。



『――』



「泣くくらい後悔してるんなら、今度から胸張って前を向いて歩いてみろ。案外気持ちのいいもんだぞ」



 俺は瞑っていた目を開けた(・・・・・)

 知らない天上……それなりに豪華な客室、隣のベッドで眠っているのはエレノーラ。俺は立ち上がり、そっと彼女の頭を一撫ですると、隣に置いてあった菓子を開けて口に放り込み、部屋から出るために足を動かす。



 屋敷から外に出ると、騒がしい声と空中に浮いている見慣れない何か。あれがミーシャたちが向かった場所か。



 俺は息を吐くとそのまま手をかざす。



「『魔をも穿つ同士の福音(エクストラリミット)我が歩み止める者なしヴィヴィッドライドクロニカル』」



 俺はそれに跨り(・・)、ハンドルを握って回し、それの背後から煙を吹かす。



『考え直せ!』



「いやだね、お前も俺にくっ付いているなら付き合え! 最大速度だ!」



 エンジン? を吹かして足元のギアを操作して俺は飛び出したのだった。

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