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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
34章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都防衛戦線。
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魔王ちゃんと集結するつわもの達

「……」



 僕は怪我1つない体に目を落とした。

 あれを防ぐか。



 僕は振り返り、カンドルクさん――その彼が門を守る王都(・・)に目を向けた。



「あいつ、ここまで優秀なら騎士に推薦しても良いな」



「……いえ、彼は兵士だからこの盾が作れたんだと思いますよ」



「あんだよリョカ、騎士じゃ街を守れねぇってか?」



「大前提に騎士は王宮を守るものでしょうが。あの人はそう言う感じでもないでしょう」



 王宮から街全体を守るように、絵空事の女神が腕を伸ばして(・・・・・・)――巨大な陶器のような女性が王都全体を覆っていた。

 さらに門から外に出ていた陛下や兵士、住人たちには守護の加護が感じられる。この街に住む者に与えられる結界のような……。

 僕はルナちゃんに目を向けると、おかしそうに笑っていた。



「城壁結界――この街に住む者に発揮される限定的最上級の盾。素晴らしい門番です。それに彼は守護神を動かした……いいえ、守護の座を奪い取った(・・・・・)



「ああそれ、大分不敬では?」



「いいえリョカさん、門や城壁というのは少なからずあの子――ルーファの加護が含まれているのです。けれど今現在その加護は取り払われました」



「やっぱ怒っているのでは?」



「そうではなくてですね」



 するとテルネちゃんが心底面倒くさそうに顔を出した。



「ルーファは面倒なのですよ。真の守護は人が作るものだ。とね。彼女にとってあれは罵倒ではなく自立です。故に祝福を与えた。もっとも今のカンドルクを見た人々からの信仰で、彼はもう嘘つきではなくなったはずです」



「まああとレッヘンバッハの件で多少の罪悪感があったんだと思いますよ。呑気にお酒呷っています」



 女神様にも色々あるんだなと、改めてカンドルクさんに目をやる。

 彼は兵士や住人から称賛の声を受けているのだけれど、途端に額から汗を流し、ガタガタを体を震わせながらそのまま剣を支えにへたり込んだ。



「だ、出せたぁ」



 さっきまで盛大な啖呵を切ったとは思えないほどの変貌っぷりを見せるカンドルクさんに僕は肩を竦め、そっと近寄る。



「なに終わった感出しているんですか?」



「へ?」



 僕は顎でバルバトロスを指した。

 ここから見える砲台のほとんどが王都ではなく、カンドルクさんに狙いを付けているのがよくわかる。



「あ、あれ?」



「それにほら、あちらさん、やっと戦力投入してきましたよ」



 大量のマネキン、それに結構な数の騎士の格好をした人々や冒険者風の人々、マネキンはともかく、人の方はすでに傀来を受けているのか、形相や雰囲気がこの世界の人のそれじゃない。



「自分の身、守れますか?」



「……」



 チーンという音が聞こえそうなほど顔面を青白くさせているカンドルクさんだったけれど、そんな彼にミリオンテンスさんが手を上げた。



「おい盾の兵士、それならお前のことは俺たちが――」



 ミリオンテンスさんたちが動くと同時に、バルバトロスから大量の砲撃が確認された。

 もちろんすべてカンドルクさんを狙って放たれたものだ。



「ちょ、ちょ、ちょ!」



 これは騎士では防げないな。と僕が盾を出そうとすると、ふと香ってくる匂いに一瞬眉を顰める。

 いやあり得ない。こんな場所(・・・・・)でこの匂いがするのは、百歩譲って魚屋さん(・・・・)の前だけだろう。



潮風(・・)――?」



「『聖剣顕現・我が船が進む星海リトルヴェルトフィリアム』」



 途端、王都の門から帆船が飛び出してきた。その船から砲弾が発射され、バルバトロスの砲弾を相殺した。

 船が進む先――船が進むのは当然海である。海水(・・)を巻き上げながら明らかな海賊船が飛び出してきた。

 僕が驚き目を見開くと、船首で歯をむき出しにして嗤っている老人――僕は彼を見て息を飲む。

 見たこともない老人、いや見たことがある。カンドルクさんがヨル爺と呼んでいた……いや違う。

 僕はもっと身近で彼を知っている。



 驚く僕に、その老人が鎖を投げてカンドルクさんを巻きつけて持ち上げた。



「ぐぇっ!」



「リョカぁ! カンドルクはわしに任せなさい!」



「……」



 僕はつい笑ってしまう。

 何だそのめちゃくちゃな聖剣、いつもいつも突拍子もない。相変わらず愉快なおじいさんだ。



 彼は自身の頬を一度叩くと、その顔を変えた(・・・・・・・)



「『誰そ彼に紛る夕景の影(ドッペルゲンガー)もう1つの人生(・・・・・・・)を作っていたのか」



「うぇ! ギルマス!」



「ずっと見守っておったぞカン坊」



「ウロ爺……」



 ウロトロス=マイザー、生きているとは思っていたけれど、まさか顔を変えていたとは。僕が苦笑いを彼に向けると、ウロ爺に向かって星神様が手を振ったのが見える。



「ウロトロス!」



「おやおひい様、相変わらずめんこいの。大事はありませんでしたかな?」



「はい! それより緊急事態です、ですので無理矢理ですが星に戻ってもらいますよ!」



 星神様が祈るように手を組むと、ウロ爺に加護が――極星としての加護を与えられたのがわかった。

 しかしウロ爺は嫌がるどころか、自身の胸に手を当て、大きく頷いた。



「カン坊! 今よりここは星のギルドじゃ! 星神様公認の極星ギルド、わしについてこい、ついでに銀の獣の小僧を拾ってくるぞ! 前方の敵船(・・)、よーそろー!」



「わぁぁぁぁ!」



 カンドルクさんを抱えて船を進ませていくウロ爺に僕が声を漏らして笑っていると、ミリオンテンスさんが呆けた顔をしており、そんな彼の背中を陛下が叩いていた。



「めちゃくちゃな奴しかいねぇのかここには」



「ミリオ、あれが父上を守った名誉騎士の姿だぞ」



「真似できるかってんだ」



「期待しているよ」



 頭を抱えたミリオンテンスさんが鋭い眼を浮かべ、騎士たちに号令をかけた。



「この化け物たちの中じゃ俺たちも埋もれちまう! 腹くくれ、今こそ騎士の本懐を果たせ!」



 彼の言葉に、騎士たちが剣を掲げた。

 マネキン軍団は彼ら騎士たちとウロ爺に任せてしまっていいだろう。



「ソフィア」



「ええ、準備出来ています」



「……()は任せるよ。あれはもう戻って来られない」



「はい、私たちの敵です」



 寒気がするような殺気を撒き散らし、ソフィアが僕たちから離れるように足を進めていく。ベルギンド様がソフィアの背中を見つめていたけれど、あなたの娘はこと団体戦、さらに背中に守る者がいる場合においてとんでもない力を発揮する。

 あの状態のソフィアとは戦いたくはないな。



 僕は辺りを見渡し、やっと防衛戦の体をなし始めたことに安堵の息を漏らすのだった。

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