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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
34章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都防衛戦線。
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星の勇者ちゃんと魔王連合

「……」



「……」



『異様な光景であるな』



 周囲から息を飲む音が聞こえる。

 無王アンデルセン=クリストファーの言う通りだ。リョカさん、ロイさん、そしてアンデルセン、3人が向かい合っており、わたくしだけでなく、陛下もミリオも、女神さまたちもこの状況に緊張しているようだった。



 するとミリオがわたくしに耳打ちをしてくる。



「ところでランファ、あのロイっていうのはどこのどなた様だ? それによっちゃあこの集まりさらにヤバくなるんだが」



「……貴方はどう見ますか?」



「俺じゃ勝てねぇ。それどころかランバート兄でさえ――」



「正解ですわ」



 わたくしがチラとリョカさんとロイさんに目をやると、2人が頷き返してくれた。

 ミリオになら話ても良いということだろう。



 そのやり取りに陛下も頷いてくれた。陛下も知っているということをミリオに伝えつつ、わたくしは彼に耳打ちする。



「血冠魔王、それが彼の昔の名前ですわ」



「……冗談で言っているわけじゃないよな?」



「わたくしの命の恩人ですわ。無礼はないように」



 ミリオが頭を抱え、改めて陛下に目をやったのが見える。しかし陛下は勝気に笑って見せ、わたくしたちにどこか誇るように口を開いた。



「ミリオ、王宮は気が抜けんな。世界にも、女神様にも見放される国だけは作れん。そんなことしようものなら2人の強大な魔王がすっ飛んでくるぞ」



「……陛下、本気っすか?」



「ああ、2人とも我が国の民だ」



 盛大にため息をついたミリオがわたくしに、あとで事情の詳細を話せと告げ、頭を抱えながら騎士の指揮に戻っていった。



『……やれやれ、この国の王はいつも強気で反吐が出る。そうやってどれだけ絶望をもたらそうとも我々は希望を知っているのだと声を上げる』



「お前も王を名乗っているのならその理由もわかるだろう」



『本当に嫌になる。俺には話しかけるなブッシュガーラ、お前の面は癪に障る』



 人形であるはずなのに、アンデルセンが苦いものを噛んだ時のような顔をしているのがありありと想像できる雰囲気に、陛下が大地に腰を下ろし、リョカさんたち魔王3人を不遜な顔で見ていた。



「……大型外部ブースター、よくもまあこんなもの作ろうと思うよ。しかもこれ、搭乗者の体への負担、度外視しているでしょ」



『さすがに賢いなリョカ=ジブリッド。俺は魔王だぞ、そんなもの考えるわけもない』



「このまま乗せたらミンチになって作戦どころじゃないからね。ちょっと書き直させて」



 会話の意味がよくわからず、わたくしは設計図を描き直しているリョカさんの横からにゅっと顔を出して彼女の視線を追う。



「敵はアームズなんちゃらじゃないっての。いや似たようなものか……でもこんなむき出しでミーシャたちに取り付けても、重力で潰れるな。それなら加護を付けて――ただの加護じゃだめだな、ここは星の、いやテッドちゃんの……ああそうか、あれなら対G用の防護服みたいのもいけるか。体を覆うことでその役割が成せるかも。ちょっとラムダ様に相談だな」



「大丈夫ですか?」



「ランファちゃ~ん、このおっさんが人に優しくない物ばかり勧めてくるんだよ~」



 したり顔のアンデルセンに、リョカさんが舌打ちを1つ。

 しかしやはり異様だ。

 さっきから間髪入れずに降り注いでいる砲弾をリョカさんとロイさん、さらに驚くべきことにアンデルセンが防いでおり、リョカさんは月の盾を、ロイさんは幾重にも束ねられた植物で網を作り、砲弾の威力を殺して、アンデルセンはリョカさんが作るような兵器で砲弾を撃ち相殺していた。



 これが魔王だ、こちらの想定を軽く超えていってしまう。

 やはり恐ろしい。



『どうだリョカ=ジブリッド、組み立ては出来そうか』



「舐めんな、こちとら現役の時に最新技術にも手を伸ばしていたんだ。原理だけなら知識として持ってる」



『君はやはり優秀だ。惜しいな――』



 リョカさんを値踏みするような声と、顔色はわからないけれどその視線に、周囲の殺気が濃くなった。とりわけ、彼女の隣で見守っていたロイ=ウエンチェスターからは魔王と呼ばれていただけの圧であり、彼はマントを広げ、そのマントごとリョカさんを抱えるように彼女の体に腕を回し、無王を睨みつけていた。



『……君と敵対するのは賢くない。か。やれやれ厄介な番犬が付いているものだ』



「素敵な。の間違いですよご老体。少なくとも僕はロイさんのこと大好きですから」



 アンデルセンが肩を竦めたことで、ロイさんもリョカさんから腕を離し、スッと彼女の傍に変わらずに佇んだ。

 すると騎士の指揮を執っていたミリオが小走りしてきて、またわたくしに耳打ちをする。



「おいランファ、騎士が怯えてる。あいつらの一挙手一投足を警戒しちまって隊列が乱れんだよ。止めさせてくれ」



「無茶言わないでくださいですわ。というか、このお三方はまだ可愛い方でしょうが」



 わたくしはさっきから視界に入れないようにしていた、魔王よりも恐ろしいと感じてしまう聖女に目をやった。

 全力全開の戦闘圧を放出しっぱなしで微動だにせずにアンデルセン曰く、バルバトロスと呼ばれる飛行物体を睨みつけていた。



「あれはもうそういうもんなんだって諦めがつくんだよ。本当に騎士どもが役に立たない」



 ミリオと一緒に頭を抱えていると、アンデルセンがミーシャさんを見ていた。



『本当に見違えたな。あの頃はまだ、俺の下級兵士にすら手こずっていたというのに』



「……思い出したわ。あんたのせいで無駄な時間を過ごした、いつか顔面の形が変わるほどぶん殴ってやるから覚悟しなさい」



『これはこれは――余計なことを言ったようだ』



 クツクツと喉を鳴らしたアンデルセンだったが、彼は立ち上がってリョカさんに目をやった。



「うん、こんなもんかな。数はミーシャとロイさん、セルネくんとランファちゃんで4つ――」



「ヤダっ俺も乗る!」



「え~、あたしはロイくんにおぶってもらおうかな――」



「そんなんだからおばあちゃんって言われんのよ――いったぁ!」



「……一応6つ作っておきますね」



『話はまとまったか。それなら俺はそろそろ行くとしよう。面倒な奴に目をつけられそうだからな』



「最後まで見ていかないの?」



『それなりに忙しいのでな』



 そう言ってマネキンの顔がルナさんに向けられた。

 そしてジッと彼女を見つめると、ため息交じりに口を開いた。



『貴様がどのようにあれを想っていたのかは知らんが、クリストファーの家をあまり舐めるな。高が貴様の妹、出し抜くなど容易い。それでもなお夜の女神と一緒にいるのなら何か考えがあるのだろう。世界は奴を高潔な聖女などと仕立て上げたようだが、あれの本質は悪女だ。ルイスとゲンジを見ればわかるだろう』



「……フェルミナがアリシアを使って悪事を働いているとでも?」



『そうではない。そうやって側面しか見ないから妹がグレたことをいい加減自覚しろ』



「――」



 ルナさんが顔を逸らして肩を震わせている。図星をつかれてしまったのだろう。すると隣で聞いていたテルネ様がむっと顔を浮かべたのだけれど、無王は彼女にも顔を向けた。



『貴様もだ叡智神、知識を語るのなら育児の極意1つでも読んで実践してみろ。口しか出さなかった結果月と夜が仲違いしたことから目を背けるな』



「――」



「や、止めてやれよアンデルセン、こいつら結構繊細なんだから」



 そしてアンデルセンが使っていた人形がそのままわたくしたちに背を向けた。



月姫(・・)輪廻の王(・・・・)、中々に愉快な時間を過ごせた、礼を言う』



「その調子でこれからも大人しくしていてくれませんか?」



「もう少し人の役に立つことをしたらどうですか無王」



『断る。俺は魔王だ、誰の指図も受けん。ああそうだ、月姫、ケダモノ、そして銀狼、もう1人シラヌイがいただろう。奴は今、ベルギルマにいるぞ。厄介な……というより、面倒、つまらんとでも言うな、そんな魔王に捕らえられているぞ。黄衣の小僧のところにもシラヌイがいただろう、奴が引き渡したようだ』



「……随分と親切ですね」



『なに、お前たちヘリオスの教え子だろう。奴から怨みは買いたくない。この国を襲った時のように、あいつにボコボコにされるのは二度とごめんだ』



 わたくしはリョカさんとロイさん、そしてミーシャさんと顔を見合わせた。どうしてヘリオス先生の話が出てきたのだろうか。

 リョカさんがどういうことか聞こうとすると、無王アンデルセン=クリストファーは手を上げ、そのまま人形が砂のようになってしまう。



「……ま、まあ色々気になることもあるけれど、とりあえず準備完了! 乗り込むよ」



 まるで嵐のような無王に辟易としながらも、わたくしたちは本来の目的に戻るために準備をするのでした。

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