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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
34章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都防衛戦線。
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勇者くんと迷える一般兵士

 なんだか大変なことになってしまった。

 リョカとミーシャと一緒だと問題ごとに巻き込まれるのは覚悟していたけれど、黄衣の魔王の陰謀、さらには無王アンデルセン=クリストファーの出現――正直、ただの一介の勇者でしかない俺には荷が重いような気もする。



 いや何を言っているセルネ=ルーデル、俺は勇者だぞ。

 人々のためにこの剣を振るわなくていつ振るう。と、自分を鼓舞してみるが、やはりしっくりこない。



「……そりゃあそうか、現状俺は世界の勇者じゃなく、リョカの勇者だもんなぁ」



 もちろんこの現状には愁いている。何とかしなければとやる気もある。でも、この国のために。と、言われるとやはり違う気がする。



 先ほど父上に努めろと言われた時はそれはもう嬉しかった。

 それは父上もリョカの身を案じたからだろう。あのような状況にも関わらず、自分の身より国の人々を優先させた銀色の魔王に敬意を抱いたからだ。



 俺にも、同じことが出来るだろうか。



 そんなことを考えて今俺は王都をふらふらしている。

 リョカが無王と何かを作っている間、俺たちは各々準備をするように言われた。

 とはいえ何かすることがあるわけでもなく、こうしてあてもなく歩いているわけなんだけれど、父上のところに行って手伝ってこようかな。と、考えたあたりでカンドルクさんとヨル爺さんが2人揃って空を見上げているのが見えた。



「カンドルクさん」



「……ああ、セルネくん」



 どうにもカンドルクさんの元気がないように見える。そして隣にいるヨル爺さんも顔を歪ませていた。



「イシュルミ、あの大馬鹿者め」



「ヨル爺さん、イシュルミさんのこと知っていたの?」



「……まあの。本当に馬鹿な奴じゃ、あの時に無理やりにでも――」



 きっと俺の知らない何かがこのお爺さんにはあるのだろう。

 どうにも彼の1人で考えたいという雰囲気に、俺はカンドルクさんに目を向ける。



「ねえセルネくん、ミーシャちゃんとリョカちゃんはあれと戦おうとしているの?」



「え、ああはい、リョカはあれを落とすって言っていましたよ」



「……すごいな」



 カンドルクさんが感心したようにつぶやいた。

 まあ確かにいつもやることの規模が違うよなぁ。



「国を、街を守れる人たちって言うのは、ああいう人のことを言うんだろうね」



「――? いやぁ、どうなんでしょうね」



 カンドルクさんがやっと俺に顔を向けてくれて首を傾げている。

 あの2人は確かに優れているし、見方によっては勇者にも劣らないほど誰かのためになる。

 でも2人は勇者じゃない。



「リョカは終わったらどうせ、ライブやってファン増やして可愛い僕を見てもらいたいから。って言いますし、ミーシャは、あたしは聖女よ、喧嘩売られたから壊しただけ。って言いますよ」



 カンドルクさんが呆けた顔で固まっている。そう、あの2人はそんな理由で国を救うし、誰かに優しくできるのだ。

 今は本当に不愉快な事を見せられたから動いている。風にも見えるけれど、結局あの2人は可愛いと聖女らしさ(がんめんぱんち)で動いているんだ。



 そこまで考えて、俺もハッとなる。

 よく考えたら俺もそうだ。リョカとの約束を守るために、いつか魔王を倒すために――そして何より、あの魔王と聖女のために。

 もちろん2人に乗っかるだけではなく、魔王との約束のために剣を振るい。聖女からの栄誉のためにこの身を捧げる。



 そして俺はつい笑みをこぼしてしまう。



「セルネくん?」



「俺も、この国のために戦うわけじゃないみたいです。リョカとミーシャのために、この剣を振るうんです」



 これはもう隠せない。

 俺はもう、どうしようもないくらいに、あの2人が大好きらしい。



 そんな俺をヨル爺さんが見ていた。



「……大儀のためではなく、個の勇者として進むのか、若い銀色の獣」



「――はい!」



 ヨル爺さんがクツクツと喉を鳴らし、俺の背中をバシバシと叩いてきた。

 小柄な爺様だけれど随分と力が強く、それどころか、彼からは熟練の戦士のような空気感すら覚える。



「良いのぅ。勇者になったからと言って人々のために生きる必要なんてない。そんなもん後からついて来るわい」



「いやいや、勇者の話だよね?」



「勇者の話じゃぞ――そうさな、わしの知っておる勇者の話じゃが、奴は海のために勇者になった。海の先に広がる世界、海の先にある()を求め、人々なぞ知ったこっちゃないと勝手に生きておったの」



「俺とはまた趣の違う勇者が出てきた」



「一緒じゃ一緒。結局はテメーのここ(・・)に従っている勇者ってことじゃよ」



 そう言ってヨル爺さんが胸を叩いた。

 俺は耳と尻尾を大きくブンブン振り、彼の言葉にうなずいた。



 そしてヨル爺さんと固い握手を交わすと、改めてカンドルクさんに目をやる。



「カンドルクさん、何かお悩み中でしたよね?」



「見透かされておるぞカン坊、こっちの獣の子の方がよっぽど上手く生きておるわい」



「……ミーシャちゃんも似たようなこと言ってたよ。でも俺には力なんてないから、やろうとしてもどうせ――」



「俺だってあの2人にとって役に立ったことなんてほとんどないですよ。毎度毎度頑張ってもすぐにその頑張りを覆すほどの大きな力で俺の前に立つんですよ」



「セルネくんも?」



「そうですよ。でも、俺はこれ(・・)を止められない。ねえカンドルクさん、あなたは、どうして兵士になったんですか?」



 真っ直ぐと彼を見つめる。

 前にミーシャに話していたあの覚悟は本物だと思えた。だから改めて聞く。

 きっとこの人は、とてもすごい門番(・・)なんだ。



「――」



 両目を見開くカンドルクさんと鼻を鳴らしてニヤケ顔を浮かべているヨル爺さん。



「それじゃあ俺はそろそろ行きます。リョカとミーシャの顔見てやる気もらってきます!」



 俺は踵を返し、2人に背を向けて歩き出すのだけれど、後ろから大きな声が聞こえてきた。



「俺も!」



「……」



「……俺も、やっていいのかな」



 俺は振り返り、カンドルクさんに笑みを見せる。



「俺に決めさせんな」



 ミーシャのようには出来ないけれど、出来るだけ格好良く、それでも誰かを引っ張れるように。リョカのような満面の笑顔で声を上げた。



 カンドルクさんが肩を竦ませてニヘらと笑みを浮かべ、手を振ってくれた。

 俺はその手に振り返し、2人が為の勇者のために、魔王と聖女の下に帰るのだった。

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