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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
34章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都防衛戦線。

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魔王ちゃんと疑問自答

 僕が自宅に戻ってくると、ダイニングに集まるみんな……ミーシャとルナちゃん、アヤメちゃんとテルネちゃん、セルネくんとお母様がいた。



「あら、エルファンを連れてきたのね」



「国の一大事だからな。それでセブンスター、ジンギの容体は?」



「……あまりよくはないみたいよ」



 顔を伏せた陛下がすぐにミリオンテンスさんに目をやった。



「ランファの様子は?」



「ずっと伏せていますね。一通りの事情は聞いたけれど、自分を責めているようね」



 するとミリオンテンスさんが彼女らの様子を見てくると部屋から出ていくのを横目に、陛下が席に着いたのを見て、これまでで分かったことを発表する。

 とはいえ、正直イシュルミさんについては何もわかっていないに等しい。



「さて、何から話すべきか――」



 と、考えていると、ミーシャがジッとこちらを見ていた。



「ん~、どうかした?」



「放浪娘の匂いがするけど、ここには来ないのね」



「あ~うん、そりゃあ来られないでしょ」



「エレとジンギはあの子が?」



「うん、それといろいろ聞けたかな」



「そう、なら今度あたしもお礼言わないとね」



 流石にミーシャには隠しておけないか。

 ルナちゃんとテルネちゃんが僕たちをジッと見ており、思案顔を浮かべたと思うと、女神的な何かを――いやあれ観測しようとしているな。



「ん? さっき出ていってからここまでの観測が途切れていますね」



「リョカさん、さっきそういうのはしないって言ったのに……」



 シュンとするルナちゃんをすぐに抱き上げ、どう言い訳をしようかと考えているとミーシャが近づいて来て、ルナちゃんの額に一発――。



「みゅ!」



「……幼馴染よ、なにしとん?」



「さっき気付いたんだけれど、殴ると思い出せるわ」



「何言ってんだお前?」



「はっ! 何故か突然カナデさんの事を思い出しました!」



「マジかよ……」



「とりあえず全員の頭ぶん殴るわね」



 セルネくんがダッシュで逃げ出そうとするが、流石我らの聖女、一息で回り込み、その頭に拳を叩きこんだ。

 床に埋め込まれたセルネくんを見ていたテルネちゃんがそっとお母様の背中に隠れた。



 そしてミーシャがアヤメちゃんにも拳を振ろうとしたが、彼女は首を横に振る。



「俺は大丈夫よ、もう対策済み」



「何故ですか?」



「アヤメ、というかどうやって」



「え? あ~……」



 ルナちゃんがアヤメちゃんの下まで歩んでいき、そっと彼女の体に鼻を近づけてスンスンと匂いを嗅ぎ始めた。観測できないと見るや物理的な探知に出たな、流石最高神だ。

 これはバレたな。



「この匂い……アリシア?」



「リョカさん、これは一体どういうことでしょうか?」



「え~っと、それも説明したいので、ちょっと待ってください」



 ミーシャがそのまま陛下をぶん殴り、お母様とテルネちゃんにデコピンした。



「なんで俺殴られたの! それだけで良いなら俺もそうしてくれよミーシャちゃん」



「だって顔面が――」



「リーンにもついてるからね!」



 相変わらずミーシャは場の雰囲気を持って行くのが得意だな。と、ため息をつくと、僕は手を叩き、みんなの視線を集めた。



「さて、記憶の阻害がなくなったようなので」



 とりあえず1つ1つ僕たちが得た情報を話していく。



「まず王都のギルドですが、真っ黒です。さっき寄っていきましたけれど、もぬけの殻でした」



「イシュルミか」



「いえ、ギルドに関しては一枚岩ではないんじゃないかと。イシュルミさんは前ギルドマスター、ウロ爺を覚えていなかった。そもそも黄衣の魔王にとって多分彼はただの捨て駒です。とはいえ捨て駒を泳がせておくだけにするほどあちらもアホではない。だから多分――」



「カリンね、いつからいるのか知らないけれど、あたしたちへの対応は全部あいつがしていたわ。あいつが一番黄衣の魔王に近いと思う。シラヌイだしね」



 すると、口を開けて手を叩いたセルネくんが思い出した(・・・・・)かのようにハッとした顔を浮かべ、ミーシャに続く。



「え! シラヌイってカナデと同じ――ってそうか、だからエレノーラが」



 ルナちゃんとテルネちゃんが説明を求めてきたから、ミーシャとセルネくんの口から今日の出来事を話してもらった。

 2柱はそのカリンさんという人を追おうとしているようだけれど、流石シラヌイということもあり、ミーシャたちの視界からしか彼女の情報を得られないとのことだった。



「彼女が黄衣の魔王との渡し役だね。で、多分だけれど、イシュルミさんはそのことを知らないんじゃないかと思う」



「どうしてだい?」



「いえ、そもそもの話、イシュルミさんはイルミーゼ夫妻を殺した相手に協力なんて求めないでしょう。黄衣の魔王が仇なのは知っているけれど、協力してくれた相手が同一人物なんて思っていないでしょうね」



「そうね、イシュルミはランバートに傾倒していたし、もし黄衣の魔王だってわかっていたら戦いを挑んで今頃死んでいますね」



 魔王の顔なんぞ、僕みたいに方々に顔を売ってもいない限り知られる機会なんてまずない。当然イシュルミさんも知らないだろう。

 まあでも、彼に関してはもう1つわからないことがある。

 それはジンギくんと同じように女神様の観測が利かないことだ。

 フィムちゃん曰く、僕みたいな観測がしにくい人から死の運命を救ってもらうという条件があるみたいだけれど、彼は一体……いやシラヌイがいるのならカリンと言う子か? そこで恩を売ってギルドに入り込んだとか。

 いや、この部分は今は蛇足か。



「イシュルミさんは黄衣の魔王に何かを吹き込まれ、今回の行動に出た。しかも僕の予想だと、無王の財産を持って行ったのは――」



「ああそれ、カンドルクに聞いておいたわよ。あたしたちが来るちょっと前に王都を覆う飛行物体を見たそうよ」



「持って行ったのはイシュルミさんだな。王宮の亜空間にいたマネキンは一体だけだった。多分ランファちゃんのお父さん、もしくはイルミーゼの人間がとっくに攻略済みだった。王宮に報告しなかったのは……まあ物が物だからね、些細なことでも情報を外に漏らしたくなかったんじゃないかな。でも、黄衣の魔王はそれを知った。だからイルミーゼ夫妻殺害に至ったのだけれど、そこで思わぬ邪魔が入った」



「カンドルクのおっさんとウロ爺ね」



「そっ、まさか熟練の勇者と全く想定していなかった守護神の加護を持った名前も知らない木っ端兵士、策を張り巡らせるタイプの魔王みたいだからさぞかし驚いただろうね。だから今度は慎重に事を運んだ」



「それがイシュルミさん?」



「うん、どうやって誑かせたのかはわからないけれどそうだと思う」



「それでリョカ、俺たちは結局誰を倒して、誰を助ければいいの?」



「倒すのは……黄衣の魔王は王都に来てもいないだろうな。見つけられるのならカリンって言う子を見つけたいけど」



「シラヌイを、見つけるのは難しいです。さっきからわたくしとテルネで王都のあちこちに目を向けていますが、まったく見つかりません」



「シラヌイは本当に私たちの天敵ですからね。正直関わりたくないのが本音です」



 見つからないのなら仕方がない。

 まあここで見つかるほど間抜けならここまでの騒動にはなっていない。

 彼女に関しては別の方法で接触しようかと考えていると、陛下が釈然としていなさそうな顔で思案していた。



「そんなに大きな飛行物体、本当にあるのかい? というか、今ミーシャちゃんにその記憶をどうにかしてもらったんだよね? それなら――」



「陛下、今日歩んだ道すがらに生えていた雑草の特徴を答えられますか?」



「えっと……」



 そうだった。これも変なんだ。

 僕たちは黄衣の魔王の力は記憶を操作するもの――そう認識している。でも一部は記憶ではなく、認識の操作だ。

 どっちが魔王の力だ? ミーシャたちがギルドについて何も覚えていなかった。でもこれは記憶の操作じゃない。どうにも意識から逸らされていたという節がある。ギルドに関してはすぐに思い出せたのがその証拠だ。

 でもカナデのように完全に記憶を失くしている。まるで初めからいなかったかのように。

 それともう1つ、ウロ爺のことも納得できない。僕とミーシャに関してだけれど、ウロ爺とは中学卒業の時に挨拶に行っているし、王都を出る時にも顔を合わせた。

 ならその後――多分イシュルミさんがギルマスになった時だと推測できるんだけれど、じゃあなんでその時にカナデにやったように完全に人の記憶から消さなかった?



 いや、当然やろうとしただろう。でも出来なかったのか、じゃあそれはなぜか。カナデになくてウロ爺にあるもの。

 僕の知らないギフトか、それとも……。



「カンドルクさんか?」



 いやいや、確かにウロ爺はカンドルクさんと協力して黄衣の魔王を退けた。でもそれが何だというんだ? 特殊な盾で効果が残っていたとか。いやその線は薄いだろう。

 あああと、もう1つあった。



 僕はミーシャをちらと見る。



「なによ?」



 なんでミーシャの拳が効いた? しかもどうもセルネくんの反応を見る限り、カリンに関しては名前を聞いて思い出したように見えた。

 つまりミーシャの拳が効くのは記憶の部分だけだ。

 そうでなければ当然自分の体を触ることがあるミーシャに黄衣の魔王の力は効かない。



 この2つがもし同じ原理で働く力なら、ミーシャの拳で軒並み無効化できるはずだ。でも解けたのは記憶の方だけ、そっちは別の人物の力か? じゃあ誰だ。

 アリシアちゃんにどんな対策をとったのか聞けばよかった。

 いや違う。あの子は記憶のことしか言っていなかったぞ。つまり知らないんだ。



 アリシアちゃんもだけれど、根本的に何か抜けている? それこそ記憶に影響が――。



「女神様?」



「え、あ、はい。呼びましたか?」



「あ、ううん。ちょっとね」



 認識の操作。テッカの『影夢』ミーシャはあれに干渉できない。そりゃあそうだ、あれは自分にかかるデバフじゃなくて、他に与えるバフだ。自分に効果があるわけじゃなく勘違いさせるためだけのもの、そんなものにミーシャは干渉できない。

 じゃあ記憶は? 誰からも忘れられるなんていうのは世界に干渉でもしない限り無理だ。

 そんなことが出来るのはどう考えても――。



「あの~リョカ? 1人で考えられても俺たち困っちゃうよ」



「おっとごめん。それで陛下、つまり見ようとしなかったものを覚えていられるのか。という話でございます」



「なるほど。そんなデカいものを、俺たちは路傍の石程度に捉えていたというわけか」



 これも認識操作だ。記憶の話ではない。

 そう言えばお母様が嫌な予感がしたと言っていたな。でもああやって詳細な戦闘を覚えていないということはお母様はそれを受けたということになるわけで、それが記憶を操作する力か。


 ぼくはそこまで考えて自分のカップにお茶を淹れる。

 黄衣の魔王に関してはまだ油断できないことがある。それに関しては情報が少なすぎる。と、僕はそれを保留にし、次に報告しなければならないことに頭を切り替えるのだった。

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