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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
4章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、初めてのダンジョン。

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魔王ちゃん、少しだけ貫録を出す

「やっぱり倒し甲斐のある敵がいる方が良いわ。せめて一撃でやられない敵が出てこないのかしら」



「ミーシャのパンチ一発で倒せなかったら即撤退だよ。このメンバーでミーシャの総火力を超せる人がいないんだから、そんなもんがポコポコ湧いてきたら困る」



 転移も3回目ともなれば多少慣れてきて、周囲を光が包んでいてもこうして会話を繰り広げるほどにはなっていた。



 そうして眼前の光がスーッと消えて行くのだけれど、目の前には最初に出た場所のような広い通路で、薄暗い空間が広がっていた。

 しかし最初とは違いマネキンが大量に湧いてくるわけでもなく、ただただ静かである。



 けれど僕の魔王オーラと髪の毛がチリチリと揺れる感覚に、僕は背後を見ることなく目つきを鋭くさせる。



 そしてミーシャ、カナデ、セルネくんが会話をしている横で、数十回にも渡る素晴らしき魔王オーラを弾き、背後から迫るここまでにはなかった危険をすべて排除する。



「……倒すのはミーシャの方に分があるけれど、殺すだけなら僕の方が得意なんだよねぇ」



「――ですわ! ねえリョカ、ミーシャったらわたくしの活躍の場を奪って酷いですわよね?」



「そうだね、スキルの確認もしたかったし、あのくらいならカナデに任せても良かったんじゃない?」



 僕は笑顔でカナデに返事をし、言うことを聞かないミーシャに釘を刺す。



「ああいうのは早い者勝ちよ。だからリョカ、あたしは文句言わないけれど、一応どういうつもりかは聞いてあげるわ」



「……僕が一番長く戦える。これが最良だと思うけれど」



 流石にミーシャは気が付いていたか。この幼馴染、最近は本当に馬鹿に出来ないほどの野生の勘が備わっている。

 極稀に、色々と張り巡らせてやっと探知した僕よりも早く強敵に気が付く時がある。

 この聖女、本当に獣じみてきたというより、鼻が良くなってきているのを実感する。



「え~っと、なんのことですの?」



「たまに2人は俺たちがわからない会話をしますよね。流石付き合いが長いよね」



「幼い時から一緒にいるんですわよね。って、プリマどうかしたですの? え、ミーシャが怖い? しんじゅう? と似たような気配がしてる? なんですの?」



「生意気な小動物ね、あたしはあたしでしかないんだから、次誰かと比べようものならその耳を引き千切るわよ」



 ミーシャに凄まれたことで、プリマがカナデの服の中に隠れてしまった。

 今少し聞き捨てならないワードが聞こえた気がしたけれど、この探索に必要な情報ではなく、僕は心の奥にそっとしまい込むことにした。



「まあいいわ。そう、数か。信仰に頼ってばかりじゃ駄目なのね」



「いや、だから聖女が信仰に頼って戦うというのがおかしいと俺は思うのだけれど」



「文句を言うならあたしより役に立ってみなさい。剣を振り回すだけならあたしにも出来るわ」



 攻撃的なミーシャの言葉に、セルネくんがうな垂れて落ち込んでしまい、僕は彼を宥めると、休憩にしようと提案する。



「まあまあ、ここまで気を張りっぱなしだったし、甘いものでも食べて落ち着こうよ。ちょっと考えたいこともあるし」



 僕はレジャーシートのようなものを敷くと、焼き菓子と紅茶を人数分淹れる。



 全員が座ったのを確認すると、僕はリュックサックから機械仕掛けの道具を取り出す。



「なにそれ?」



「一応、ヘリオス先生から借りてきたんだ。先生のギフトって錬金術師……じゃなかった、マルティエーターっていう物作りに特化したギフトらしくてね。前々からお願いしていた時計だよ」



「どうして時間を気にするのよ」



「ミーシャ、この遺跡に入ってどれくらい経ったかわかる?」



「お昼時に入ってまだ少しくらいしか経ってないんじゃないの?」



「もう外は暗い時間だよ。多分転移に凄い時間がかかってる。みんな時間の感覚が狂ってきてるんだよ。意識したらお腹が空いてくると思うよ」



 カナデもセルネくんも途端にお腹を鳴らし始めた。そしてお菓子に手が伸びる頻度も早く、困惑しているようだった。



「い、言われてみるとすっごいお腹減ってきましたわ」



「あ、ああ、なんだこれ? 俺たちどれだけ食事をしていなかったんだ」



「ミーシャ、周囲の警戒を頼んで良い?」



「任せなさい。あんたは?」



「夕食作り。お菓子だけじゃ嫌でしょ?」



 ミーシャが頷くと立ち上がって周囲に意識を向け始めた。



「お、俺も――」



「まずは気配を読むことからね。ミーシャの真似するだけでも良いから、周りに意識を向けてみな。カナデ……よりはプリマの方が得意そうかな? プリマにも頼んで良い?」



『まっかせてリョカお姉さま』



 頼もしいプリマの声に、僕は微笑みを返してリュックから調理器具を取り出す。

 夕食と言っても簡単な物で、干し肉や干した野菜などなどの乾物を水で戻したり、肉を塩で味付けし、香草と焼く程度しか出来ないけれど、食事をするとしないでは雲泥の差がある。



「さすがに手際が良いですわね。わたくしもちゃんと料理を覚えた方がいいのかしら?」



「覚えておいて損はないよ。とはいえ、こういう場所では味よりも栄養だけれどね」



「リョカ、あたしは美味しいものが食べたいわ」



「はいはい、僕がミーシャにマズいものなんて出したことないでしょ。カナデ、ついでにプリマ用のご飯の作り方も教えちゃうね」



 そうやってカナデに料理を教え、セルネくんには探知能力を習得してもらおうとしているけれど、実はここにはあまり危険はないと思っている。

 僕の魔王オーラには何も反応がないし、何よりも空気が少し穏やかな気もしている。



 けれどそれでも完全ではない。ここを安全だと言いきれないのにはもちろん理由がある。

 それがミーシャである。



 あの子、なんで素直に警戒してくれているのだろうか。

 普段なら面倒と言いそうなものなのに、今この場においては率先して周囲の警戒をしている。



 僕の感じることができない何かを感じ取ったのか、ミーシャが鋭い目をして辺りを睨みつけていた。



 僕は保存の利くパンを切り、軽く炙るとそのパンに肉などを挟み、とっての付いたカップにスープを入れ、それを警戒しているミーシャのもとに持って行く。



「ミーシャ、今日はここで寝るからね」



「ええ」



「……一応言っておくけれど、朝になったらお祈りできるからね」



「ああ、そういえばそうね。時計、案外役立つのね」



「僕が時間を重要視している理由が多少わかってきた?」



「ええ、今度から時間はあんたに聞くわ」



「ああそれと周囲の警戒は交代制で、ミーシャはセルネくんと組ませるからちゃんと仲良くするんだよ」



「……わかっているわよ。聖剣を使わせても良い?」



「うん、もしあれなら多少乱暴に使ってあげて。その方があの子もスッキリするでしょ」



「そうさせてもらうわ」



 辺りを睨んでいるセルネくんとプリマを撫でて戯れているカナデを僕は目を細めて見た。

 このダンジョン探索が、2人にとって良いものになってくれることを願い、僕は今回もネックレスに祈るのだった。

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