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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
34章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都防衛戦線。

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魔王ちゃんと夜を司る甘えん坊

「というかアリシアから妙な感覚がするんだけれど、リョカお前なんかしたのか?」



「女神様の言う観測って、信仰を手繰り寄せて視るものでしょう? だから女神様なんかになるとその信仰を追いかけなければならなくなるわけだ」



「……いやちょっと待て、俺が聞いたのはアリシアから覚える変な感じのことなんだけれど、何で女神の観測についてお前に講義しなければならないんだ?」



「講義の必要はないですよ。だって多分間違っていないですし――まあだから、信仰を追いかける、文字通り観測するっていうことは、その先に必ず誰かいなければならないわけだ」



「そりゃあそうでしょ、でなければ観測にならない」



「シラヌイや黄衣の魔王のように、それそのものを隠したら必ず違和感になる。だからこそ僕たちはここにいるわけだしね。だからアリシアちゃんには女神様が視る。その先に誰かいる。というのを逆手にとって、不確定な視界を割り込ませることにしました」



「……どうやって?」



「そのままの意味ですよ。まあこれは女神様にしか使えないのですけれど、信仰だけ手繰り寄せるだけならアリシアちゃんはとっくに見つかっているはずでしょう? いくら信仰を無理矢理断って視線を遮ったとしても、夜神の信仰を追ってさえいれば彼女には辿り着きますからね。でもそうじゃないのは信仰っていう括りがいい加減で、信者にも辿り着いてしまうから。だから僕は信仰の先に誰がいても良いように――つまり対女神様視界ジャックとして、エレノーラの福音を再現したってわけです」



「バカヤロウお前アリシア見つからなくなんじゃねぇか」



 呆けた顔で聞いているフィムちゃんと、訝しんでいるアリシアちゃんだけれど、夜神様が途端に挑発的な顔を向けてきた。



「いいの? いきなり背後に現れて背中から刺すかもしれないよ。ウチは夜神、リョカちゃんすらも感知できない――」



「これでいつでもフィムちゃんとテッドちゃんに会いに行けますよ」



「――」



 アリシアちゃんがポカンと口を開け、すぐに頭を掻き、赤い顔を逸らした。フィムちゃんが嬉しそうにしており、僕としてはやって正解だったな。

 するとラムダ様が子を見守るような顔つきで頬杖をついており、アリシアちゃんに向かって口を開いた。



「リョカちゃんの方が一枚上手だ。素直に喜んでおきなさい」



「……うん」



 口を尖らせながらも素直に言うことを聞くアリシアちゃんが可愛いけれど、ここは我慢我慢。

 そこで僕はさっきカンドルクさんに聞いた話とカナデについての話をする。



「カナデ、カナデ……うん、全く記憶にないわね」



「そう、ですか」



 僕が肩を落としていると、アヤメちゃんの向かいのアリシアちゃんが手を伸ばし、そっと神獣様の額にデコピン。



「なにすんのよ――カナデ、チビ……プリマと一緒のシラヌイの精霊使い。アリシア、お前今何した」



「黄衣の魔王はあの力が厄介だから、とっくに対策済み。ウチは夜神だよ、力の解析ならルナ姉さまよりも得意」



 フィムちゃんの言ったとおりだ。アリシアちゃんはすでに黄衣の魔王の力について理解し、さらにそれの対策を立てていた。

 僕が思案顔を浮かべていると、勝ち誇ったようにドヤ顔を浮かべ、胸を張っているアリシアちゃんが見えた。



 何だこの子可愛いな。



「そんな顔しても僕が暴走して撫でに行くだけですよ」



 言うが早いが、僕は速攻でアリシアちゃんを撫で始めた。しかし意外なことに彼女は拒絶しない。頬を膨らませてはいるものの、しっかりと撫でられている。

 そしてその赤ら顔のまま、口を尖らせながら口を開いた。



「まっ、まあルナ姉さまとテルネじゃ難しいかもね。そもそも記憶で形成される魂を司るルナ姉さまじゃ、組み立て終えた玩具に文句言うようなものだし、記録で形成されている知識を司るテルネじゃ、説明書きを何度も読むようなものだし」



 やっぱり姉妹なんだなぁと思う。褒められた時の反応がルナちゃんと本当に似ている。



 しかしこれで完全に王都のギルドは黄衣の魔王の手にあるな。

 正直カナデのことも気になるけれど、今はまず1つ1つを解決しなくては。僕は頭を撫でたままのアリシアちゃんに目を向ける。



「それでジンギくんのことなんだけれど」



「……ウチの主観になるけれど、どうにもヴィヴィラはジンギくんを死なせたくないみたい。フィムが読んだ運命は多分、あいつが操作してる」



「なんだってそんなことを」



「そこまでは知らない。あいつ昔から何考えているのかわからなかったし」



「難しい子ではあるよね。でも悪い子ではないんだよ、ちょっと考えが及ばないだけでさ」



「……ラムダが一番被害受けているじゃん」



「おやアリシア、心配してくれるの?」



「別に」



 ぷいっとそっぽを向く彼女だけれど、アリシアちゃん、結構ラムダ様に懐いているのだろうか。



「まあそんなわけで、ヴィヴィラに関してはジンギくんが起きてからの方がいいと思うよ。今回のこととは関係ないみたいだし」



「そうなの?」



「リョカちゃんやミーシャちゃん、ソフィアちゃんを標的にするならわかるけれど、今のジンギくんじゃその価値がない。リョカちゃんのあのよくわからない奴を物にしたらわからないいけれどね」



 本当によく世界を見ているんだなこの子。

 僕が何を彼に見せたのかも知っているのか。



 すると、お皿に盛られた最後のクッキーを口に運び、お茶を飲んだアリシアちゃんが僕の手から頭をずらして立ち上がった。



「ごちそうさま、そろそろ行く」



「……あーちゃん行っちゃうの?」



「あなたのその顔を見たら本当に揺らぐから今は止めて」



 アリシアちゃんがフィムちゃんの顔に布をかぶせた。本当に仲がいいなこの子たちは。と、僕は少し思い出し、トイボックスをまさぐる。



「……おい、ちゃんと食ってんのか?」



「それなりに」



「寂しくない? 植物の種いる?」



「いらない。フェルミナもいるし」



 長女たちが本当に心配しており、これは少し手を貸すかな。と、僕はそれらを取り出した。



「アリシアちゃんちょっと待って」



「なに――」



「まずはこれ」



 僕はそう言って髪飾りを取り出した。それは以前お父様がフィムちゃんとテッドちゃんに渡した姉妹飾りの3つの内の1つ、お父様からアリシアちゃんという女神がいると話したら、会った時に渡してあげたらどうだと提案を受けていた。



「なにこれ? 髪飾り――」



「あーっそれ!」



 するとフィムちゃんが自分の髪飾りをアリシアちゃんに見せ、嬉しそうな顔をした。



「私とテッドともお揃いの髪飾りだよ。ジークランスさんが姉妹飾りだって」



「……姉妹飾り。ん、もらっておく。ありがと」



「髪飾りなら、ルナ姉さまから貰ったものと被らないもんね」



「フィム、余計なこと言わなくていいから」



 そして最後に、僕は以前アルフォースさんに渡したものと同じ効果があるものを取り出した。



「最後にこれ」



「巾着袋の中に、コイン?」



「買い物をするならジブリッドでしてね。それを見せれば支払いは全部僕のところに来るからさ」



 しかし至れり尽くせりにいよいよ疑問を持ったのか、アリシアちゃんがジッと僕を見てきた。



「……何が目的?」



「ん~? じゃあ一回ぎゅってさせてください」



「は?」



「ん」



 膝を屈めて視線を合わせて両腕を広げて待っていると、肩を竦めたアリシアちゃんが恐る恐るといった風に引っ付いてきた。そして腰に腕を回してきて、僕もしっかりと頭を抱き、そのまま2人で抱き合った。

 ルナちゃんとは違って抱きしめるとほんのりと感じられる小さな胸と、少しひんやりとした体温、頭を撫でるとサラサラな髪で、普段の言動からは見られない上機嫌な雰囲気、きっと抱きしめられるのが好きなのだろう。



 そうして抱き合うこと暫く、僕から体を離すと物足りなさそうな顔が見えたけれど、すぐにいつもの勝気な顔になる。



「それじゃあ世話になったよ。フィム、アヤメちゃん、ラムダ……ついでにリョカちゃん、じゃあね。ルナ姉さまによろしく――ああそれと色々貰ったお礼」



 アリシアちゃんがビー玉のような黒いガラス球を投げてきた。



「それ、さっきアヤメちゃんにやったみたいに記憶を戻す物だから。1回しか使えないし、効果は今なくなっているものだけだからね」



 僕は彼女に礼を言うと、指を鳴らして絶界を解くのだけれど、アリシアちゃんは振り返ることなく、そのまま窓の縁に足をかけて出ていった。



「あ~その、ありがとなリョカ、アリシアを気にかけてくれて」



「いいえ~、けど女神さまたち、本当に末っ子に甘いですよね」



「まあな。俺やラムダ、クオンとかの古株は特にな」



 僕はアヤメちゃんを撫でると、大きく伸びをした。

 まだまだ考えなければならないこともあるし、今はとにかく色々と準備しなくちゃ。



 そして僕は王宮に行くこと、ついでにアヤメちゃんにミーシャにカンドルクさんへの伝言を頼んだ。



「ああそれと、カナデのことについてはまだ黙っていてください。余計な心配を増やすだけですから」



「わかった。でも捜索くらいはしたいな」



「ふむ……それならさっきアリシアちゃんにもらったものをテッカに使って、彼に捜索を頼んではどうですか?」



「そうね、一応声かけておくわ。これならギフト渡す要領で流し込めるし」



 そう言って、アヤメちゃんがアリシアちゃんから貰ったビー玉をエネルギー体に変えた。本当に便利だな。



 そうして、僕たちはそれぞれのために動き出すのだった。

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