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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
34章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都防衛戦線。

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魔王ちゃんと夜を囲む女神会議

 フィムちゃんに呼ばれた僕たちは、そこで傷つき倒れたジンギくんとエレノーラを発見した。

 すぐに2人を治療し、僕の自宅に運んだのだけれど、エレノーラの呼吸は安定したのだけれど、どうにもジンギくんの容体がはっきりしない。

 というのも僕のスキルがどういうわけか阻害されている。女神さまたちに聞いても首を傾げるばかりで、彼と最後に会っていたであろうフィムちゃんはどこか余所余所しい。



 ランファちゃんは付きっ切りでジンギくんの看病をしているし、セルネくんもソフィアも2人の様子を窺っていた。ミーシャは今にも爆発しそうだし、ロイさんもエレノーラを守ってくれたジンギくんを心配している。



 僕はルナちゃんとテルネちゃんに2人のことを頼むのだけれど、2柱とも本当にこの状況が想定外なのか、揃って頭を悩ませていた。



「まさかジンギがこうなるとは」



「……フィリアムの話じゃ、こうならない星の下のはずなのですけれど」



「そうなの?」



「わかりやすい話、死の運命から最も遠い、もしくはそれを避けていると話していました」



「ジンギに関しては、私たちも把握していない部分がありますからね」



「ふむ……」



 僕は思案顔を浮かべると、およそ結論に辿り着いただろう末っ子に話を聞きに行くべきだろう。でもあの子がわざわざそれを話さないということは、誰かに聞かれたくない話なのか――僕が頭を悩ませていると、カンドルクさんが僕に視線をくれ、外に出るように合図を送ってきた。なんだろうか。



「それじゃあルナちゃん、テルネちゃん、2人のこと……それとランファちゃんのこと、お願いね」



「はい。リョカさんは?」



「僕はちょっと方々に協力を仰いでくるよ」



 そうして僕はカンドルクさんと部屋から外に出ようとするのだけれど、横目にアヤメちゃんとラムダ様がこっちを見ているように見えた。一瞬のことだったから特に気にせずに部屋を出る。



 部屋の外に出るとカンドルクさんが、どうにも釈然としていないような顔をした。



「あ、あのね、関係ないかもしれないんだけれど、ジンギくんとあの、エレちゃん? だったけ? あの子が最後に話したのって、ギルドの受付の子なんだよね」



「ギルドの?」



「うん、でも変なんだ」



「と、いうと?」



「実はさっき、ミーシャちゃんたちとギルドに行って、そこで現在のギルドマスター、つまりイシュルミ副団長と主要な冒険者が全員いなくなったらしい」



「いなくなった? でもミーシャたちからは何も――」



「それだよそれ。ギルドから離れたら誰もギルドについて話さなくなったんだよ。もしかしたらって思って」



「……誰か黄衣の魔王の手の者がいた?」



「それでね、エレちゃんなんだけれど、その受付の……カリンって子だったかな。その子に似た人の魂を知っているって言ったんだよ」



「似た人?」



 エレノーラが知っている人って言うと、僕と出会ってからだろうか。それ以前だとどうにも出来ないけれど、目が覚めたら話を聞くべきか。



「前で戦って炎バチバチする人って。でもガイルさん? って人ではないって」



「前に出て炎バチバチ……っ! いや待て、まさか」



 僕は嫌な予感を覚え、丁度ジンギくんの体を拭いた水とタオルを交換するために出てきたセルネくんに尋ねる。



「何リョカ?」



「セルネくん、カナデって知っている(・・・・・・・・・・)?」



「うん? ううん」



「……」



 これが原因だ。エレノーラが狙われたのは間違いなく、これを知ったからだ。

 となるとそのカリンと言う子、シラヌイか。



 僕はセルネくんに礼を言うと、もう行っていいと伝える。

 僕はカンドルクさんに礼を言う。



「カンドルクさん、ありがとう。でもここまでだ」



「え?」



「相手はあなたのことを知らない。ましてや黄衣の魔王の力が及んでいないなんて知られたら、エレノーラと同じように狙われるかもしれない」



「……」



「あとでミーシャに送らせるから、目立たないように、もしくは信頼できる人のところでじっとしていて」



「……あ、うん」



 カンドルクさんと一言二言交わすと僕は星神様を探す。もしかしたら何か知っているかもしれない。



 そうして自宅の一室、普段は客室に使っている部屋にフィムちゃんを感じ、その部屋にノックをする。するとどうぞと聞こえてきたから僕は入るのだけれど――。



「……」



「……」



「あぅ」



 見知った黒髪の美少女がフィムちゃんの隣に座っていた。

 僕は頭をフル回転させ、事態を飲み込むと、その黒髪の美少女――アリシアちゃんに近づき、そっと手をかざす。



「なに――」



「トロイの木馬……女神様に観測されると自動で見えなくなるようになる世界を撒いた(・・・・・・)。さっきルナちゃんにこういうの作らないって約束したばかりなのに」



「じゃあ何で作ったのさ、これじゃあウチが有利に――」



「今は敵じゃないでしょ。エレノーラとジンギくんを助けてくれてありがとうね」



「……」



 顔を赤らめて頬を膨らまし、僕から顔を逸らす夜神様に、星神様が嬉しそうに微笑んでいる。

 僕は息を吐くと、ティーセットを取り出し、フィムちゃんとアリシアちゃんにお茶を淹れ、お菓子を皿に移してテーブルの上に置く。



「どうぞ。こうやってここにいるっていうことは、色々と質問してもいいんだよね?」



「ここにいるのはフィムがお茶でもって言ったから。お茶が終わったら帰るよ」



「え~、まだテッドにも」



「さすがにそこまではいられない。テッドには今度会いに行くから」



「……本当?」



「本当、ウチも会いたいから」



 出会ってから今まで見せたこともないような穏やかな雰囲気で、アリシアちゃんが微笑んでいた。きっとこれが素の彼女なのだろう。今はあまりからかわずに2柱にお菓子の皿をそっと近づけた。



 そして2人が満足したのか、僕に視線をくれ、話を聞いてくれる体勢になった。

 それじゃあと僕が話そうとすると、部屋の扉が突然開き、アヤメちゃんとラムダ様が飛び込んできた。



「――っ!」



「逃げるなアリシア!」



 神獣様の鋭い声に夜神様が肩を跳ねさせ、シュンとするように顔を伏せ、動きを止めた。すると止まったアリシアちゃんを確認したラムダ様がクスクスと声を漏らし、一緒のテーブルに腰を下ろす。



「アリシア久しぶり、元気にしていた?」



「……」



 ラムダ様が目を細めると、舌打ちしたアヤメちゃんが一度アリシアちゃんの額に指を弾く。



「いった!」



「この大馬鹿野郎が……今は捕まえない。その気があるならルナとテルネも連れてきてるわよ」



「……うん」



 アヤメちゃんは盛大にため息をつくと、アリシアちゃんの向かいに腰を下ろした。



「で、これは一体どういうことよ?」



「えっとその……」



 フィムちゃんが言い淀んでおり、僕は手を上げて発言をする。



「まず1つ、エレノーラとジンギくんを狙った人に覚えはあります?」



「王都の冒険者に興味ないからそっちは知らない。ウチはどちらかというとエレちゃんを助けたんじゃなくて、ジンギ=セブンスターを助けたから」



「エレちゃん?」



 随分となれなれしいというか、優し気というか。



「……ウチが引っ張ってきた魂だもん。元気にしているか気にしたっていいでしょ」



 なるほど。

 アヤメちゃんとラムダ様が苦笑いを浮かべている。

 しかしジンギくんを助けた。か。彼も彼でよくわからない状態だ。けれどアリシアちゃんがここまで言うってことは女神様案件か?



「ジンギの状態は異常よ。一体何がどうなっているのよ」



「アヤメちゃん、ジンギ=セブンスターに引っ付いているのはヴィヴィラだよ」



「はあ! ヴィヴィラだぁ?」



 僕は首を傾げてラムダ様に目をやる。



「運命神ヴィヴィラ、ヒナリアと同世代の女神で、ちょっと厄介な子」



「ヒナリア様の世代ってすごいんですね」



「正直ヒナ姉さまが一番まともに見える世代ですから」



「おぅ……」



 しかしその運命神様、相当厄介なのか、ラムダ様ですら苦い顔を浮かべている。

 これは少し本腰入れて聞く必要があるな。

 僕はさらに追加でお菓子を出し、この一室をグリッドジャンプと絶界の応用で世界から隔離する(・・・・・・・・)。ルナちゃんとテルネちゃんに申し訳ないけれど、今の状況はアリシアちゃんがいないと進まない。

 そうして僕は再度女神さまたちの話を聞く姿勢になるのだった。

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