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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
33章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都に這い寄るあれこれ。

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頑強の執事くんと運命を打ち破る一歩

 少しだけ気分が良くなった。

 ここ最近、どうにも調子が悪い。何かあるわけではないが、無理矢理体や心が動かされている感覚、俺の意思とは別に、俺を動かしているような――。



 フィムと別れてから、エレが一所懸命に俺を支えてくれたが、流石に動くのが辛くなり、近くの公園で休んでいるところだ。

 その際、エレが飲み物を買ってくると言い、今あの子はどこかに行ってしまった。

 少し休んで体調が良くなるのなら、俺も一緒に行けばよかった。



「……」



 こうして時間が出来ると、考えるのはランファ――お嬢様のことだ。

 あいつはいつもそうだ、ああやってツンケンしているが、あんなのでも騎士団長の娘、根底にあるのはいつだって誰かの平和だ。

 けれどここまでの道すがら、ひねくれに捻くれて自分だけしか見られず、使命も教えも忘れてしまっていた。

 けれど魔王と聖女――リョカとミーシャ、特にリョカから大きな影響を受けている。

 やっとできた安寧、やっと落ち着ける止まり木。

 そこで得られた安心に、あいつは旦那様――ランバート様とファル様譲りの優しさと強さを思い出せた。



 だからなのだろう。

 今まで一番近くにいた俺を、およそ旦那さまたちを守るために盾になった両親を見ていたランファは、その息子である俺を遠ざけようとしている。

 本当にバカな奴だ、誰がお前なんて守って死んでやるかよ。



「……それが出来ないことくらい、お前が一番わかってんだろうがっ」



 運命は俺とランファを遠ざける。

 あいつが危機的状況になっても、いつの間にか俺が離れている。



 そんなことはわかっているんだ。



 俺は奥歯を噛みしめて鳴らし、自分の不甲斐なさに顔を伏せた。



「――?」



 そうやって激情を自覚したところで、ふとエレの帰りが遅いことに気が付く。

 飲み物を買いに行っただけだったはずだが。



 俺は長椅子から立ち上がり、エレの様子を見に行こうとする。



「――ッ!」



 しかし突然痛む頭、立っていられないほどの痛みに長椅子に座り直してしまいそうになる。

 何だこの痛みは、さっきのが残っていたというのだろうか。



「いやちげぇ……」



 また違和感を覚える。

 運命が、まるで俺にここから動くなと言っているような――。



「エレ――っ!」



 俺は痛む頭を抱えながら足を踏ん張り、座るのを阻止した。そして痛みに耐えながら一歩、また一歩と脚を進める。



 何かが起きている。

 だがそれもまだわからない。俺自身に起きていることと、リョカとミーシャが追っていることは別問題だろう。

 しかし今エレに何か仕掛けるとしたら、さっきのギルドの女――あいつはマズい。

 エレはあいつのことを奴と似たような魂を持っていると言っていた。いや、もう覚えていない(・・・・・・)んだったな。

 学園の奴もそうだ。全員が全員忘れていた。

 だから俺はそれをリョカに伝えようとした。あいつならきっと――。

 同じ魂、もしそうであるのならそれは非常にマズい。



 ちょろと聞いただけだが、あいつは()()()()()()()()()()()()()()。もし同じだというのなら、あの時テッカさんとソフィアと戦っていた時のような……。



 俺は歯を食いしばり、そのまま駆け出した。

 頭が割れるほど痛い。だがもう俺は――。



「その一歩から逃げ出さねぇ」



 それほど遠くには行っていないはずだ。

 しかし一歩進むたびに頭痛がひどくなる。何だって言うんだ。

 頭がきしむ音がまるで声にでも聞こえてくるようだ。



 およそエレがいるだろう方向に足を進めるとひどくなる頭痛に、俺は抗っていく。



『ねえ止めちゃいなよ』



 止めねえよ。

 痛すぎて幻聴まで聞こえてくる。いよいよ駄目かもしれない。



『そうだよ、君はもうダメなんだよ。だからここで足を止めるべきなんじゃあないか』



「……」



 脚を動かし続けた先、少し広まった場所でエレを見つけた。



「――」



 どういうわけかエレは傷つき、今この瞬間に、2人組の男の1人が彼女の頬を思い切りぶった。



 頭に血が上るのがわかる。カッと体が熱くなるのがわかる。

 頭の痛みも忘れて俺は駆け出していた。



『これ以上は進むな。これ以上は――』



「黙れ!『厳爆鎧王』」



 エレが気を失うように倒れ伏すと男が追撃を加えるように刃を振りかざした。

 だから俺はエレの体に覆いかぶさり、彼女を腕の中に抱きかかえるとそのまま地面に丸まる。



「なんだこいつは!」



「くっ邪魔くさい!」



 まるで鞭のような武器で俺を殴り続ける男と物凄い速さで剣を振るう男、どちらも強い奴だ。A級かB級か、どちらかわからないが、冒険者ならそのくらいの実力だろう。

 スキルで鋼鉄化した体とはいえ、何度も何度も打たれるわけにはいかない。



 ふと俺は、腕の中で気を失っているエレに目をやった。

 あちこちが傷だらけで、その手には薬らしきものが握られていた。きっと俺に渡すためのものだろう。

 俺はそっと彼女の顔に出来てしまった傷を撫でる。



 どいつもこいつも、馬鹿野郎が。



『そう、そうだ、君はそうやって守られる。だから君は、誰も守ってはいけない。君の行動すべてが、君を通じて誰かが傷つく』



 五月蠅い。



『自覚しろ。君は運命に抗ってはいけない。ここでその子を差し出せば君は生き残れる――』



「黙れ!」



 俺は顔を上げ、男たちを睨みつける。



「エレノーラも、ランファも、俺がいる限り傷つけさせねぇよ! 運命なぞ俺の知ったことか!」



「こいつ――」



 鞭の男が苛立ったような顔で鞭を振りかぶった。



 けれど頭痛と2人からの攻撃で既に意識が飛びそうだ。

 だけれどせめて、エレノーラだけは――。



「……?」



 意識を手放すその直前、耳に入るのは鈴の音。耳心地のよく、魂から癒されるような音。



「そう、魔王の娘ちゃん、今回は幸せなんだ。ウチが干渉した甲斐があったよ――ジンギ=セブンスター、その言葉、違えないでよね。フェルミナ」



「『聖女が紡ぐ英雄の一歩(リーブアルゴノーツ)』」



 何度かの攻撃音に壁でも張っているのか防ぐ音、それが何度か続くと遠ざかる足音――しかし知らない声。いや、一度聞いたことがあったか? 手放しそうになる意識、俺が目を閉じようとすると、聞き覚えのある声がした。



「あーちゃんありがと~」



「いいえ。しかしヴィヴィラめ、なんだってこんなことを」



 フィム、か。ならもう大丈夫だろう。

 俺は最後にエレを撫で、そのまま意識を手放すのだった。

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