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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
33章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都に這い寄るあれこれ。

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星の女神様と運命を司る女神

 エレノーラちゃんと一緒に、私はジンギお兄様を追っている。

 そして人通りのない裏路地へと入っていった彼に追いついたのだけれど、少し様子がおかしい。突然息を荒げ、そのまま路地の壁に体を傾けていた。



「ジンギお兄ちゃん!」



 エレノーラちゃんと一緒に私も駆け寄り、私は彼の体に触れた。



「――っ!」



「フィム様?」



 私はすぐに彼に触れた手を引っ込め、まじまじとジンギ=セブンスター、否、彼に引っ付いている(・・・・・・・)それに目をやった。

 すると、私の驚きに気がついてか、それとも表情に驚いたのか、ジンギお兄様が弱々しい笑みを浮かべて、私の頭を撫でてくれる。



「……悪いな、心配かけちまったか」



「い、いえ、あの、ジンギお兄様、大丈夫ですか?」



 そちら(・・・)に関しては今は保留、とにかくジンギお兄様をどこか休める場所に連れていかなければ。と、私は彼の手を引っ張ろうとするけれど、彼の体に触れるのをためらってしまう。



「最近、少し体を使い過ぎたかな。さっさと強くなろうと思ってたんだが……」



 寂しそうな顔をするジンギお兄様に、エレノーラちゃんがおずおずとした手つきで、彼の腕を撫でた。



「エレも心配してくれて、ありがとうな」



「……ううん」



「ランファは――」



「わかってるよ。あのバカ、どうせ何かあったら、俺があいつの身代わりにでもなると思ってるんだろ。うんなことするわけないだろ」



 嘘だ。エレノーラちゃんでも今の彼の言葉を訝しんでいる。彼はランファが危険にさらされたら、きっといの一番に犠牲になろうとする。でも――。



「でもそれは、エレノーラちゃんでも、私でも同じですね」



「ですです。ジンギお兄ちゃんですから」



「う~ん?」



 ジンギお兄様が首を傾げているけれど、私とエレノーラちゃんは揃って笑みを浮かべる。

 しかし彼が頭を押さえ、苦悶の表情を浮かべてそのまま座り込んでしまった。



「……エレノーラちゃん、ジンギお兄様を1人で連れていける?」



「えぅ? あ、はい。大丈夫だと思います」



「多分ラムダ姉さまが見ているから、辛かったらどこかで休んで姉さまを呼んでね」



 少し不安そうなエレノーラちゃんだったけれど、ジンギお兄様の辛そうな顔を見て、むんっと握り拳を胸の前で作り、そのまま力強く頷いた。

 彼女はジンギお兄様に肩を貸すと、そのままよぼよぼと歩き出した。



 私はせめてもの見送りとして、エレノーラちゃんの背に加護――極星の加護とは違うけれど、少しばかり幸運になる程度の加護を彼女に渡した。



 そして私は息を吐くと、ジンギお兄様とエレノーラちゃんが歩んでいった方向とは正反対の箇所を見上げて睨みつける。



「あ~らら~、相変わらず見つける(・・・・)のが上手いねぇ」



「……ヴィヴィラ姉さま(・・・・)



 まさかこんなところで、こんな女神に出会ってしまうとは。

 しかしこれで合点がいった。ジンギお兄様は確かに女神の観測を避けている。それはリョカお姉さまの影響だ、けれどルナ姉さまのように魂の記憶を読むことを阻害することは出来ない。ならそれは何の影響か、彼女だ。彼女がどういうわけかずっとジンギお兄様にくっ付いていた。



「やあやあフィリア~ム、何年ぶりだったか。久しぶりのヴィヴィラ姉さまだよ、もっと嬉しそうな顔をしたらいいんじゃあないか?」



「……40年程前、ヴィヴィラ姉さまがしたこと、私は忘れていません」



「君には関係ないだろう? 君は君の国だけを愁いていればいい。そうじゃあないかい?」



「私たちは女神です! たとえ個々に国があてがわれていようとも、人々を導くのが使命です!」



「……まったく、ルナ姉さんみたいなことを。まあいい、君が私を見つけたのは想定外だ。だからちょっと、弄らせて(・・・・)もらうよ」



「――」



 私は息を吐くと、すぐに戦闘態勢に移行する。

 運命神ヴィヴィラ。40年程前、レベリア公国――ル・ラムダを黄衣の魔王、ハインゼン=マエルドに奪われる要因を作った一端だ。

 女神間では、あーちゃんに次いでの危険因子、もし見つけた場合――。



「『女神特権(ユニークコマンド)星々を束ねる末姫プリンスオブアステリア』」



 女神特権の使用すら許可されている。

 白銀の鎧に身を包み、この手には短剣が握られている。剣からは星の力が込められた球体を幾つも生成する。

 引くわけにはいかない。それに多分引かせてはくれない。

 アヤメお姉さまを連れてくるべきだった。



「おやおや、女神特権とは随分と物騒だねぇ」



 私はヴィヴィラ姉さまに剣を振るおうとした。



「――ッ!」



 でも、逸らされた(・・・・・)

 すでに目の前にヴィヴィラ姉さまの姿はなく、彼女を探すのだけれど。



「だ~めじゃないかフィリア~ム」



「――」



 背後……耳元で突然聞こえる声に、私は体の動きを止めてしまう。



「君が私に勝てるわけがないじゃあないか」



 私の頭を撫でるような手つきで触れるヴィヴィラ姉さま、声を上げたいけれど、すでに掴まれている。

 泣きそうになるのを堪える。

 私は女神だ、人々を正しく導き、誰もが幸せな世界を作るための存在だ。こんなところで、泣いてなんていられない。



「今君はなにも見なかった。何も知らない。少し運命を弄らせてもらうよ。今君は――」



 でも、やっぱり怖い。助けて――助けて――。



「ウチの親友に何してんだお前!」



「――ッ!」



 ヴィヴィラ姉さまが私から飛び退き、それと入れ替わるように、見覚えのある背中が私の前に立っている。

 私はポロポロと涙をこぼしてしまう。



「あーちゃんっ」



 昔と変わらない姿で、あーちゃん――夜神アリシアがヴィヴィラ姉さまを睨みつけている。



「『女神特権(ユニークコマンド)世界を愛し見守る者(リトルクイーン)』」



「これはこれはアリシア、まさか君まで出張ってくるとはねぇ」



「黙りなさい。そのニヤケ顔、今すぐブッ飛ばしてあげる」



「それは困る。なら私も――『女神特権(ユニークコマンド)』」



 あーちゃんとヴィヴィラ姉さまが激突寸前、私は呆けた顔でそれを見ていた。けれどさすがに騒ぎが大きくなってしまうだろうかと考えていると、それは突然現れた。



「お~……あやややや? そこにいるのはヴィーラじゃないですかぁ、久しぶりですね元気してたです? ああいや万年不健康でしたねあなた、それに比べてヒナはいつだって健康元気だんな様ラブですよぅ! って言わせないでくださいよこのこの~、あ、それとも聞きたかったですか? 昨日だんな様に撫でてもらってですね、ついでにまるでひな鳥への餌付けのようにあ~んってしてもらってとっても幸せで、しかもそのあと嬉しすぎて抱き着いちゃってきゃ~何言わせるんですかもう! そんなに聞きたかったんですねヒナと旦那様のラブラブ録を仕方ないのでこれも聞かせてあげますよぅ、この間ヒナが困っていたですがだんな様がヒナ様手伝いますよぅって、そのまま後ろから抱き締めるようにヒナと一緒に――これが初めての共同作業ですかぁってバカぁヴィーラも聞きたがりですね――ってよく見たらアリシアもフィムもいるじゃないですかぁ3人ともヒナのこと大好きですね、仕方がないですねぇこれは内緒ですよこの前ついに旦那様が寝ているベッドにもぐりこんで一夜を共にしたですけれどぉもう寝顔が可愛くてですねでもでもまだまだ学生の旦那様のためにヒナは我慢してですね――」



「……」



「……」



「……」



 私もあーちゃんもそっと女神特権を解きました。

 ヴィヴィラ姉さまもそうなのか、頭を抱えてため息をつき、そしてヒナ姉さまに向かって口を開いた。



「ヒナ、うっさい」



「はい? ヒナも大好きですよぅ!」



「……ああうん、白けちゃったねぇ。ここは預けよう。フィム、もう何もしないよ」



「あっ、はい」



「あのウザ鳥、なんでいるの」



 そう言ってヴィヴィラ姉さまが手を振ってふっと消えた。

 いや、大事なことを聞きたかったのだけれど、何も言わずに行ってしまうとは、ヒナ姉さまはあの世代の一番上というだけあって流石に強い。



「……」



 そんな風に感心していると、相変わらず喋り続けているヒナ姉さまを横目に、あーちゃんがどこかに行こうとしていた。

 私はすぐにあーちゃんの手を取り、むっとした顔を向ける。



「うっ」



「む~」



「……フィム、ウチも結構ギリギリでここにいるの。わかってよ」



「ヤ~、だってあ~ちゃんこの前私から逃げたし」



「あ、あれはっ、ルナ姉さまもアヤメちゃんもいたし」



「せ、せめてお茶してこ? リョカお姉さまに言えばきっと匿ってくれるよ」



「……いや、ウチリョカちゃん狙っているんだけれど」



「リョカお姉さまはあーちゃんのこと嫌ってないって言ってたもん」



 あーちゃんが鼻の頭を掻いている。これはあと一押しでお願いを聞いてくれるサインだ。



「だめぇ?」



「うっ……わかった、わかったって」



「やた~」



 ジンギお兄様についてはまだ気になることもあるけれど、この際だからあーちゃんに聞いてみよう。

 そうして私はあーちゃんの手を取ってジブリッドの家に隠れながら向かうのでした。

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