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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
33章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都に這い寄るあれこれ。

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魔王ちゃんと腐れ縁

 王都にすぐに戻ってきた僕たちは、まずは被害の確認、そして壊れた家屋の修復をして回った。

 特に王宮はひどいもので、僕はロイさんと一緒にその様を見て顔を伏せる。



「……誰がこんなひどいことを」



「国の最重要施設、まさかここまで潜り込める者がいるとは」



「君たちわざと言ってるよね! それとロイ殿、意外と茶目っ気あるね」



 恐縮です。と、大人らしい笑みで頭を下げるロイさんを、陛下が頭を抱えて見ていた。

 僕は王宮のあちこちを直していくのだけれど、その際にルナちゃんに伝言を頼む。多分ミーシャたちがどこかふらついているはずなので、とりあえずジブリッドの家で待っていて。と、伝えてもらう。



 そうして王宮の修繕、お偉方への説明を追えて、僕とルナちゃん、ロイさんとラムダ様、ランファちゃんとフィムちゃんでジブリッドの家に足を進ませる。

 その道中、僕はふとランファちゃんが顔を伏せていることに気が付き、彼女に目をやる。



「どうかした?」



「……いえ、ただジンギが来たのかと思いまして」



「え、いやなの?」



「そういうわけでは……いえ、ただその、ねえリョカさん、セブンスターの家の教えを知っています?」



「いや、聞いたことないけれど」



「ジンギがその教えをどう思っているのかはわかりませんが、あの子は昔から、セバフとクルミ……ジンギの両親から、自分たちが死ぬときは、主が死ぬ時だ。ということを教わっているはずです」



「随分ぶっ飛んだこと教えるんだね。でもジンギくんは……いや、ちょっとそれっぽいところもあるか、基本的にランファちゃんを心配しているし」



「ええ、だから――」



 どこか思いつめた様子のランファちゃんに首を傾げていると、ジブリッドの自宅前でミーシャたちが集まっていた。

 幼馴染の圧だけで、田舎のコンビニ前にたむろするヤンキー味が出てきているのはなぜだろうか。



「ん、来たわね」



「やっほーミーシャ、巻き込まれなかった?」



「当たり前でしょ。あたしを爆発に巻き込ませたいのなら王都を落とすほどの爆発を用意しなさい」



 王都を爆発させてもピンピンしていそうな聖女を想像しながら、僕はぴょこぴょこしているエレノーラに手を伸ばす。すると彼女は咲かせたよう笑みを浮かべ、飛び込んできた。



「リョカお姉ちゃ~ん」



「エレノーラ今日も可愛いよ~」



「わ~い」



 抱き上げてクルクルと回っていると、ジンギくんが呆れたような顔を向けてきた。さてはこれは――。



「ジンギくんも可愛いって言ってほしいんでしょ? この欲しがりめ。でもわかるよ」



「何1つわかってねぇじゃねえかよ」



 盛大にため息をついたジンギくんだったけれど、ランファちゃんがさえない表情をしていることに気が付いたのか、彼女の傍に足を進めた。



「どうしたランファ? ツッコみ疲れか?」



 一体誰がそんなツッコませると思われているのだろうか。ジンギくんは最近容赦なく喧嘩売ってくるけれど、一度話し合った方がいいかもしれない。



 しかしどうにもランファちゃんの空気感だけ、さっきからシリアスだ。

 そりゃあ両親の殺された理由や家の中にあんなものがあったんだ。それなりに思い悩むとは思う。けれどどうにも今彼女の雰囲気はそんな感じではなく……どうしたのだろうか。



「ジンギ……」



「あ?」



 心配げにランファちゃんの顔を覗くジンギくんだったけれど、彼女が意を決したように口を開いた。



「ジンギ――もう……もう、わたくしに、イルミーゼに、付き合う必要はないのですよ」



「……あッ!」



 ランファちゃんの言葉に、ジンギくんが目を鋭くさせた。

 ミーシャたちもやっとこちらの状況に気が付いたのか、ソフィアは驚いた顔をしているし、セルネくんは焦ったような顔でオドオドしているし、ロイさんとエレノーラはジッと2人を見つめている。

 女神さまたちも、アヤメちゃんは頭を掻き、どちらの言い分もわかると言わんとした雰囲気で、テルネちゃんはため息をつき、ルナちゃんは少し悲し気で、フィムちゃんはセルネくんと同じように慌てていた。



「王都に来て、わたくしはわたくしの仇を知りましたわ。黄衣の魔王、その力は強大で、わたくし1人ではとても敵いません」



「……」



「わたくしにとって、奴は仇ですわ。でも、あなたは違うでしょう。奴のことを仇とは思っていない、自分の両親が亡くなったのも、務めを果たせたとでも思っているのでしょう」



 僕がちらとミーシャに目をやると幼馴染が頷いた。

 つまりランファちゃんの言う通りなのだろう。確かにジンギくんは復讐に関してあまり関心がなかった。自身の主がそこにいるからその道を進んでいる。

 その気は当然あった。でも――。



「あなたは、これ以上わたくしに、イルミーゼに付き合う必要なんて――」



「お嬢様!」 



 ジンギくんがランファちゃんの肩を掴むと、彼女は体をびくつかせジッとその従者を見つめた。



「……本気か?」



「……もう、もう、わたくしは、誰かが――」



 星の勇者様、騎士団長の娘、学園の少女――ランファ=イルミーゼが歯を食いしばって唇を噛み、ついにはその瞳から大粒の涙をポロポロと流した。

 普段から強がっている。強く在ろうとしていた。でもここにきて仇である黄衣の魔王の力を知ってしまった。だからついに決壊した。

 ランファちゃんにとってジンギくんは唯一残ったものだ。

 どちらかがミーシャほどぶっ飛んでいたのならこんな心配する必要はなかったのだけれどね。



 ジンギくんはランファちゃんの泣き顔に一度息を飲むと、すぐに奥歯を食いしばり、何かの言葉を飲み込むように体を震わせたあと、彼女から手を離した。



「……勝手にしろ」



 ジンギくんがそう言って1人歩いて行ってしまう。

 彼を視線で追っていたエレノーラと目が合うと僕は頷く。すると魔王の娘はすぐに頷き返してくれ、ジンギくんの背を追っていった。



 僕は未だに涙を流しているランファちゃんの頭を肩に抱き寄せると、そのまま頬を撫でてやる。

 と、星神様も終始オドオドしており、僕はフィムちゃんにも視線をやる。そして、お願いします。とだけ声に出さずに口を動かすと、フィムちゃんもジンギくんを追った。



 そこでやっとため息をつく。

 まったくこの子たちは。僕はコンとランファちゃんの頭に拳を当てる。



「今のはちょっと可愛くなかったぞ~」



「……」



「僕がこういうの苦手なの知ってるでしょ。今だって、あ~ランファちゃんの泣き顔かわええとか思ってるくらいだぞ」



「お前それは改善しなさいよ」



「無理無理――というわけで、そう言うのが得意な人に任せちゃいます」



 彼女の頬を撫でながら、僕は視線をロイさんに向けた。

 彼はすぐに頷いてくれ、ランファちゃんの頭にそっと手を置いた。



「ジンギくんを想ってのこと、なのでしょうね。きっと彼もそれに気が付いている。彼はとても優しく、とても気の利いた子だ。だからこそ、感情の行き場を自身の内に留めた。ランファ嬢、あなたもです。2人ともそれぞれに優しく、そして不器用だ。ですが、わかっていることでも、隠れてしまった本心だろうとも、それは口に出すべきです。わかっているつもり、言ったつもり――伝えたい言葉を伝えなければぶつかることも出来ません」



「……」



「そういうこと。とりあえず少し頭を冷やそうか」



 ランファちゃんが小さく頷いたから、僕は彼女の手を取る。そして彼女の手を引いてゆっくりと自宅へと歩みを進ませる。



「望んでもいないケンカ別れは可愛くないんだよ。きっとこの先も可愛さに陰りが出る。だから仲直りしようね?」



「……うん」



 やっぱかわいいな。

 傷心モードのランファちゃんに家に着いたら何着せようかと考えながら、彼女の背中をそっと押すのだった。

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