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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
33章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都に這い寄るあれこれ。

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魔王ちゃんと星の雷

「……ミリオ、お前も混ざったらどうだ?」



「無茶言わないでくださいよ。何だあの2人、最早脅威でしかないだろ」



 遺跡に入り込んだ僕たちは、次々と流れ込んでくるマネキン顔の敵性人形をロイさんと僕で次々と倒していた。

 僕は言わずもがな、魔剣と素晴らしき魔王オーラと命の鐘の魔王オーラを駆使して、量産型現闇と不可視の斬撃で敵を刻み、ロイさんは『豊かに芽吹く血思体ブラックラックレギオン』で作り出された神官服のクマたちにそれぞれ植物で出来た武器を持たせ、数で押し、的確に倒している。



 するとランファちゃんが申し訳なさそうな顔をしており、僕は彼女に目をやる。



「ごめんなさい、わたくしはこう狭い場所だと」



「気にしないで、その代わりにルナちゃんとフィムちゃん、ラムダ様を守ってもらっているし、おかげで僕たち相手に集中できているよ、ありがとう」



 ランファちゃんの頬笑みを横目に、やっと見えてきた転移陣に僕は息を吐いた。

 遺跡に入ってからそれなりの階層を抜けてきて今に至るのだけれど、相変わらず移動に時間のかかる遺跡だ。僕は時計を見て頭を掻く、あまり長くこの場所にとどまりたくはないけれど……初めての遺跡攻略で緊張しているのか、ランファちゃんの顔に疲れが見えた。



 僕はロイさんと目を合わせて頷き合うと、転移陣のある部屋で一度足を止める。

 あの移動する遺跡もそうだったけれど、この人の遺跡は基本的に転移陣のある部屋はセーフティーだ、だから何も襲ってこないし、休憩するにはちょうどいい。



 僕は敷物を敷き、ランファちゃんに床をバンバン叩いて見せた。座って座って。の意味である。



「えっと、休憩ですの? でも急いだ方が――」



「ランファちゃん、僕たちはほら、若いから歩き回っても大丈夫だけれど、見てごらんあのおっさんを。いつもずっと座って事務しているのか、そんな雰囲気のあるアイゼンさん、これ以上歩かせると足ツルと思うんだよね」



 僕はアイゼンさんにウインクをすると、彼は察してくれたのかわざとらしく足を撫でながら、おっさんらしくどさりと敷物に座った。



「あ~、久々にこれだけ歩いたせいで足痛いわぁ。ちょっと休憩していこうかぁ」



「あっ、も、申し訳ありませんへい――アイゼン様、気が利かなくて」



 アイゼンさんがランファちゃんの肩を叩き、気にしていないということを話しているのを見ながら、僕は手元でお茶と菓子の準備をする。

 そしてやはりランファちゃんは疲れていたのか、横座りになって僕が淹れたお茶を飲むと、深くため息をついていた。

 そんな彼女の膝にフィムちゃんが頭を乗せて寝そべり、満面の笑みを向けていた。

 星神様の可愛らしいニパっを受けたランファちゃんは肩から力を抜いて、星神様の頭を優しい手つきで撫でている。



 全員にお茶を配り終えると、僕も一息つく。するとミリオンテンスさんが隣にやってきてこそと耳打ちしてきた。



「ランファの事、気にかけてくれてありがとうな」



「基本的に愛され系だよね」



「ああやって必死こいて生きているからな、何かと面倒見たくなるんだよ。お前もそうだろ?」



「うんにゃ可愛いからですが?」



 呆れたような顔のミリオンテンスさんはそのままに、僕は膝に乗ってきたルナちゃんを撫でながら、少し考え込む。



「リョカさん?」



「ん~? ああちょっとね。アイゼンさん、この遺跡壊しちゃっていいんですよね?」



「む、ああ、そのつもりでここに乗り込んだんだろう?」



「……二言はないですよね?」



「ない。思い切りやっちゃってくれ。そもそもこんなものが王都にあっても困るだろ」



 僕は笑みを浮かべると、ここまで歩んできた通路に向かって指を鳴らし、ガイルの金色炎、アルマリアの空間支配、それらを使用してあちこちに不可視の爆弾を設置していく。

 するとロイさんもあちこちに種をまき、僕と同じように遺跡破壊の準備をしてくれた。



「まあ、僕たち魔王だからねぇ」



「魔王ですからね」



 ロイさんと顔を見合わせて薄く笑っていると、視界の端でミリオンテンスさんがランファちゃんとアイゼンさんに耳打ちしているのが見えた。



「……なあランファ、今聞き捨てならないことが聞こえたんだが、その」



「ロイさんも魔王ですわよ」



「何で2人もいんだよ!」



「……ミリオ、女神様が3人もいらっしゃるんだ、魔王くらい2人いるだろうが」



「陛下、声震えてんぞ。というか容認してるのか」



 苦笑いを浮かべているアイゼンさんをよそに、僕はロイさんに尋ねる。



「そういえば、ロイさんはアンデルセン=クリストファーについて知っていますか?」



「ええ、無王アンデルセン。私が魔王になる前から強大な力を持っていると噂されていた魔王です。当時も様々な噂話がありましたね。曰く、かの魔王は賢者である。曰く、女神さますら戦かせる文明を作るものである。曰く、彼そのものが国である。などなど、強大な力を持った魔王の1人です」



「……これからも大人しくしていてほしいなぁ。1人で軍隊作るような人って基本的に厄介なんだよねぇ」



 アイゼンさんとミリオンテンスさんが何か言いたげに僕とロイさんを見ているけれど、ひとまずそれは流し、僕は少し考え込む。

 そもそもあの移動する遺跡もそうだけれど、無王の目的がわからない。



 移動遺跡についてはからかうだけからかって、あの人を小ばかにしたような報酬。この王都にある遺跡も似たようなものかと思えば、移動遺跡とは違い、ちゃんとダンジョンらしい作りと敵の湧き方――もしかしたらこちらにはちゃんとした報酬があるのではと期待してしまう。



「そういえば、魔王時代に一度接触したことがあります。もっとも私は顔も見られなかったのですが」



「と、いうと?」



「突然私の住居に今回戦っているような人形が現れ、その人形を介して接触してきたのですよ」



 すると、ロイさんの隣でお茶を飲んでいたラムダ様が驚いたような顔でそれは本当かと聞いてきた。



「あの無王がわざわざ訪ねてきたの?」



「ええ、とはいえあの頃の私ですからね、まともな会話も出来ず、挙句ゲンジが追い返しちゃいましたので、どういう目的だったのかは……」



「ロイさん、少しいいですか?」



 ルナちゃんがロイさんに手を伸ばし、彼に触れた。しかし月神様は苦い顔を浮かべ、次に僕とロイさん、ラムダ様の手を取った。

 そして流れてくる記憶の中のマネキンはわけのわからない――というより、言語化するのが難しい言葉でしゃべっていた。所謂文字化けをそのまま読んだような。

 これ、女神様対策がされているな。



「……力のある魔王はこういうこと平気でするのですよね。女神対策がされているというか、本当に厄介ですよ」



「へ~、視界に介入しているというより、何かされたら発揮する……トロイの木馬みたいなものか。これならできそう――」



「む~」



 ルナちゃんが膨れたために僕は首を横に振って、一緒にいる間はそんなことしないと約束する。そして月神様を抱きしめてあやしながら、改めてロイさんに目を向ける。



「大事なことでも話していたんでしょうかね」



「そうかもしれません。ですがすみません、やはり思い出せません」



「まあ今回はアンデルセン=クリストファーが目的なわけではないですし、もしかしたらお茶の誘いだった可能性もなくはないですし、もしくはあの嫌がらせダンジョンをロイさんの家に作りたかっただけかもしれませんし、気にしなくていいと思いますよ」



 如何せんアンデルセン=クリストファーの人柄がよくわからない。

 女神さまたちは強大で恐ろしい魔王だという。しかしあのダンジョンでの鬱陶しい報酬や作りから考えてどうにも緊張感が湧いて来ない。



 そうして考えを纏めようとしていると、ランファちゃんがこちらを見ており、少し長居しすぎたかと僕は立ち上がる。



「それじゃあそろそろ出発しますか」



「次は広い場所が良いですわ。リョカさんはああいってくれましたが、わたくしももう少し役に立ちたいですわ」



「ランファ、そんなこといったら俺とへい――アイゼンなんて全く役に立ってないからな」



「ただの賑やかし要員だよ」



 自覚があるのなら外で待っていればよかったのに。そんなことを思いながら、僕たちは転移陣に足を踏み入れた。

 そして辿り着いた新たなエリア――僕は見覚えのあるこの空間に声を上げた。



「ここは――」



「昨日来たな。つまり王宮か」



 ということは。と、僕が視線を上げると、あの時の片割れ、巨大なマネキンが立ち上がり、明らかに近代兵器――私の世界の兵器と似た形の銃口(・・)を向けてきた。



 僕とロイさんが構えると、前に出たのはランファちゃんで、彼女は口を開いた。



「『聖剣顕現・時穿つ極光の七つ星(セブンスフィムリート)地に注ぐは堅牢な稲光(カラドボルグ)』」



 雷を迸らせ、僕たちが前に出ないようになのかその剣で、僕たちを通せんぼするように構えていた。



「……任せちゃってもいい?」



「はい、さすがに魔王だけに良い格好させていたら勇者の名折れですわ」



 僕はクスクスと声を漏らすと、ランファちゃんの背中にフィムちゃんが抱き着いた。



「フィリアム様、危ないですよ」



「ん~……うん、いける」



 すると星神様が星の勇者の背中に両手を添えて、そして星の瞬きのような光を授けるとそのまま下がっていった。

 あれ、ギフトか。



「上手く使ってね」



「……フィリアム様、あんまり甘やかすとスピカに怒られますわよ」



 フィムちゃんが勝気に笑うと、ランファちゃんは肩を竦めて改めて剣を構えた。

 それと同時に、マネキンの持つ武器――クルクル回して銃弾を発射する、所謂ガトリングが音を上げた。

 僕はすぐにフィムちゃんを引っ張って抱き寄せると正面に指を鳴らし盾を生成、ロイさんも腕を振って植物の葉を何枚も重ね、正面に生成した。



 僕たちの盾に銃弾が降り注ぐと同時に、ランファちゃんが駆け出し、雷を纏わせた機械剣をマネキンに叩きこむと、敵性人形が大きく体勢を崩し、彼女は今度は剣の面で叩き、僕たちから距離を取らせるようにして吹っ飛ばした。



「な、なんだあれ、無王はあんな兵器まで作っていたのか」



「リョカさんがオルタくんに渡したものと、この間使っていたものに似ていますね」



「うん、多分原理は同じだと思います。筒に球を入れて火薬やらエネルギーやらでその球を射出する。簡単に人を殺せる武器です」



「なるほど」



 僕はランファちゃんを心配げな顔で見るけれど、彼女は銃口の動きをよく見て動き回っており、何とか銃弾を避けていた。

 しかし長く続くようだと不利なるのは彼女であり、手を貸すべきかと思案するのだけれど、抱っこしていたフィムちゃんがきゅっと僕の服を掴んできた。



「……どんなギフトなんですか?」



「ぴかぴかど~ん。です!」



 可愛らしく胸を張るフィムちゃんを撫でていると、マネキンが再度大きな音を上げ、その巨体を動かしてランファちゃんを追い始めた。

 意外と俊敏に動くマネキンだけれど、よく見ると足のローラーが回っており、さらには滑らかな駆動、モノづくりに関して僕より圧倒的に上手だ。



 動く銃口だけでなく、体まで動かしているためにマネキンの動きが読みにくい。

 あれではいつか当たってしまうと少しだけ拳を握るのだけれど、ついにその銃口がランファちゃんを捉えたのがわかる。

 けれど彼女は薄く笑い、その剣から光の――雷の球を幾つか生成して、それをあちこちに設置した。



「『星を繋ぎ集め渡す者ルビルビッドエトワール』」



 銃弾が放たれた刹那、ランファちゃんの体が雷に変わり、バチバチと音を鳴らして瞬時にマネキンの背後をとった。

 何が起きたと僕は思考し、すぐにあの球を移動した(・・・・)のかと思いつく。



「光の線路を作ったのか。ルイスさんの聖剣のような感じかな」



「わたくしも人のことを言えませんが、フィリアムも信者に甘いですね。あれは光を渡す者――ギフト『星を描き渡る者(ルプティアプリンセス)』強力なギフトです」



 ルナちゃんの説明を受けながらもあちこちに転移するランファちゃん、所謂ショートジャンプを駆使して、彼女がマネキンを翻弄する。

 そしてそんな移動をしながらも星の勇者様は次々と雷の球をセットしてた。



「……」



 するとマネキンの方がランファちゃんを追えないと判断したのか、どこに仕舞っていたのか体のあちこちから重火器を覗かせ、あちこちに乱射しだした。

 僕とロイさんの盾は抜けないみたいだけれど、あれだけ近くにいるランファちゃんは――。



 けれど彼女は一歩も動かずそこに立っていた。

 そして息を吐くと剣を構え、大きく口を開いた。



「『聖剣発輝・流れる星の稲光ルピスレヴァルルミナス』――『星降る幻想の閃光(エトワールレヴァリエ)』」



 真っ白で見えなくなるほどの眩しい雷に目を覆っていると、ランファちゃんの機械剣の刀身が開き(・・)そこからさらに強い光を発した。

 うぉ、撃つのか。僕は興奮が抑えきれずに鼻息を荒げて彼女に見入る。



 カラドボルグから射出された雷の球はさらに先ほどまで蒔いていた星の球を経緯し、ジグザグと高速で動きながらマネキンの真下に届き、そしてランファちゃんが大きく剣を振るい、敵に背を見せたと同時に、マネキンの頭上、そこで音を鳴らしていた星の球に向かって真下にあったその稲妻が伸びていく。



 大きな音を立てて光り、雷はその人形を破壊して消える。

 マネキンはあちこちから煙を吐き出すと、そのまま警告音のようなものを発して地面に膝をつき、そのまま動きを止めるとその体を爆発させたのだった。

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