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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
33章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都に這い寄るあれこれ。

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魔王ちゃんとその隠された真意

 昨日、あのまま陛下が所謂対策委員会的なものを立て、王宮の者に役割を任命した辺りで解散となった。

 まああの場で得られるものは多分もうなかっただろうし、だらだらと続けていても事件は解決しないからそれは良いんだけれど……。



 翌日、僕は気になったことがあるからランファちゃんを連れて、彼女の自宅に来ているのだけれど。



「……陛下、なぜいるのですか?」



「この国の危機だ、俺が動かないで誰が動く」



「忠臣を動かしてください」



 昨日陛下は周りが止める声も聞かずに、この事件に積極的にかかわると言った。その第一弾がこれである。



「ほら、ミリオンテンスさんの顔を見てください。止めてくれねぇかなこのおっさん。みたいな顔していますよ」



「うんなこと思ってねぇよ! 確かにまあ、大人しくしていてほしいがな」



「なんだミリオ、お前は俺の剣だろう? ああそうだ、別に誰もいないだろうが、俺のことはアイゼンと呼ぶように」



 さてはこういう状況になれているな。

 僕がため息をつくと、着いて来てくれているロイさんとラムダ様がおかしそうに笑う。



「すみませんロイさん、保護対象が増えました」



「いいえ、しかし――」



 ロイさんが陛下改め、アイゼンさんに苦笑いを向けた。そして彼はそっと手を差し出す。



「ロイ=ウェンチェスターです。よろしくお願いします」



「……」



 差し出された手をアイゼンさんがジッと見つめた後、肩から力を抜き、その手を握った。



「あなたもまた、俺と同じくサンディリーデの愛すべき国民だ、心強いよ」



「……その期待には、何が何でも応えなければいけませんね」



「なんだったら、俺の紹介で知り合いの王宮に就職してくれてもいいんだぞ」



「とても魅力的な提案ですが、私は女神様とそして恩人の傍を離れるわけにはいきませんから」



 ロイさんがそっとラムダ様の背を押し、そして僕に目をくれた。

 しかしアイゼンさんが首を傾げる。ラムダ様をジッと見ているから僕は彼女の方に手を向けて口を開く。



「あっ、こちら豊神様のラムダ様です」



「ラムダちゃんです! 様付けで呼ばないように!」



「ん゛っ!」



 アイゼンさんが固まり、その場で頭を抱えてしまった。

 ルナちゃんが彼の肩をポンポンとさすっている。



 まああっちはもう良いだろう。と、僕はさっきから一言も発しないランファちゃんの手を握る。フィムちゃんも彼女を気にしているのか、心配げな顔で見上げていた。



「……大丈夫ですわ」



「もしつらいなら、待っててくれてもいいからね」



 ランファちゃんが弱々しい笑みを見せてくれた。

 やはり今回の事件は彼女にとって負担だな。と、僕がどうしようかと考えていると、ラムダ様がランファちゃんとアイゼンさんに頭を下げた。



「あたしの国の者が、本当にごめんなさい」



「い、いやっそれは――」



「そうですわ、ラムダ様が謝ることではありませんわ」



「……それでも、女神としては。ううん、ル・ラムダを治める豊神として謝らせてほしい。黄衣の魔王――ハインゼン=マエルド、奴が生まれた時も、あたしは女神としての職務も果たさず、ずっと見てみぬふりをしていた」



 ああそうか、ラムダ様はロイさんの一件で、ずっと引きこもっていたんだっけっか。だからこそ、何もしていなかった時のことで罪悪感を覚えているのだろう。



 さて、それよりも出発前のこの空気感、どうしたものか。僕が1つ唄でも歌うかと考えていると、その星が瞬いた。

 大地の恵みに星が流星のように近づく。



「むぐっ!」



「余計なお世話です、ラムダ姉さま」



「ふぃ、フィム?」



 フィムちゃんはランファちゃんに近づくと目いっぱいに手と足を伸ばし、彼女の頬に手を添える。



「うちのランファが、そんなことで女神を恨むと思ってますか。ランファはすっごいんだから! 私が見初めた星の輝き、どんな困難だって照らせるもん!」



 ぷっくりと膨れるフィムちゃんに、ランファちゃんはふっと笑みをこぼし、そしてその幼くも見える末っ子の女神をそっと抱き寄せた。



「……ええ、フィリアム様の言う通りですわ。わたくしは黄衣の魔王を恨んでいます。いつか必ず討ちます。でもその責任をラムダ様に負わせはしませんわ」



「……」



 フィムちゃんとラムダ様を見つめていたルナちゃんが星神様を一撫でした後、豊神様に笑みを見せる。



「まったく、最年長が末っ子に叱られるなんて、焼きが回りましたかラムダ?」



「むぅ――ああうん、余計なことを言った。フィムも、ランファちゃんも、え~っと、アイゼンも悪かったね」



 頭を掻くラムダ様に、星の2人は笑みを向けた。

 さて、話もまとまったようだし。僕はフィムちゃんににじり寄る。



「もう大丈夫ですか? それじゃあ僕も空気軽くしていいですか? フィムちゃん超可愛い!」



「わぁっ、リョカお姉さまくすぐったいよぅ」



「は~かわええ。このままお持ち帰りしたい」



「えへへ――あっ、私はいつでも信者募集中ですよぉおお――ふきゃぁっ!」



「フィリア~ム?」



 ルナちゃんに肩を掴まれ、星神様は涙目になった。

 そんな僕たちを見て、ランファちゃんも余分な力が抜けたのか、柔らかく笑っている。



 僕はフィムちゃんから体を離すと、改めてランファちゃんの自宅を見上げた。

 すると隣にやってきたミリオンテンスさんがボソッと呟いた。



「……なんか、俺邪魔? いる俺?」



「いりますいります。なにがあるかわからないので、出来れば警戒していてください」



「リョカ、お前はここに何があるのか知っているのか?」



「推測ですけれどね。でもだからこそ、腹立つなって」



「うん?」



 僕がランファちゃんに目をやるのだけれど、彼女は首を横に振り、大丈夫だと言ってくれる。

 それなら。と、僕たちは彼女の家――イルミーゼの屋敷に足を踏み入れた。

 外観は古く、歴史ある家という感じがした。昔からある家、だからこそその可能性があった。



 少し埃っぽい、ランファちゃん以外誰も足を踏み入れていないのだろう。彼女もこの家に帰ってくるのも辛いはずなのに。



 僕はそっと目を閉じる。

 多分あるはずだ。そしてそのバカげた原因と、それを実行した腐れ魔王……ランファちゃんにはああ言ったけれど、正直姿を現した瞬間、僕は黄衣の魔王を見逃すことは出来ないかもしれない。



「あった」



 王宮に遺跡が形成されていてもしやと思ったが、やはりあったか。

 僕はランファちゃんに許可を貰い、その違和感まで足を進める。



 屋敷にある扉の前、他の場所より奥まった場所にある扉で、陰気な気配が漂っていた。



「ここは……地下室の。お父様には絶対に入らないようにと言われていた部屋ですわ」



「当然知っていたか。なら攻略(・・)も」



 扉の鍵の有無についてランファちゃんに聞くのだけれど、ミリオンテンスさんがその扉に手をかけると、呆気ないほど簡単に開いてしまった。



「……この扉は常に鍵がかかっていましたわよ」



「じゃあ、誰か入ったんだ。ミリオンテンスさん、警戒お願いします。アイゼンさんはじっとしていてくださいね」



 ロイさんが先行してくれるようで、彼が扉を開けると地下まで続く階段があり、そのまま下ってくれ、僕たちはその背について行く。

 するとそこに――。



「転移魔方陣」



 以前、僕が見たことのある魔法陣。

 ミーシャとセルネくん、カナデと一緒に入ったあの遺跡の。



「これが……」



「ずっと不思議だったんだよ。どうして騎士団長ほどの人を黄衣の魔王が標的にしたのかって――この国でも上位の実力者相手に、わざわざ剣を向ける理由は何かって。王宮で遺跡の一部を見つけてまさかとは思ったけれど……」



「こんな理由で――ッ」



 歯を噛みしめて鳴らすランファちゃんを、アイゼンさんもミリオンテンスさんも慰めるように肩をそっと撫でる。

 そりゃあそうだ、黄衣の魔王――奴は彼女の両親に用があったわけではない。ただここに住んでいた者を排除したかっただけなんだ。

 他にやり様はいくらでもあった、けれどあの魔王はそうしなかった。

 僕の友だちから人生を奪い、挙句の果てに未だにその顔すら見せない。



 いやな気分だ。

 体中から、魂からも殺気が漏れだそうとしているのがわかる。しかしロイさんに肩を叩かれる。



「リョカさん」



「……ええ、わかっています。でも」



「私が言えたことではありませんが、これが魔王です」



「そんなの、許容できるわけないですよ」



「ええ、当然です。私も、腸が煮えくり返りそうですよ。これが私の同郷の者の仕業と思うと尚更」



 僕は息を吐く。

 僕たちなんかよりずっと悲しんでいる子がいる。可愛くない涙だ。

 そして僕はランファちゃんの手を取る。



「ぶっ壊そう」



「……え?」



「こんなところ、残しておきたくない。色々と良い思い出もあるかもしれないけれど――」



 僕はトンとランファちゃんの胸を叩く。



「それは持ってな。って勝手なことを言うけれど、どうする?」



「……」



 ランファちゃんが目を閉じ、小さく頷いた。



「もう、後ろは振り向かないと決めましたわ」



「うん」



 僕はアイゼンさんとミリオンテンスさんに向き直る。



「それじゃあ僕とロイさん、ランファちゃんでこの遺跡をぶっ壊しに行くので、お2人は帰って――」



「ここまで来て帰れはないだろう。最後まで付き合うよ」



「……いや、俺的には陛下には帰ってほしいんだけれど――」



「陛下ではない、アイゼンだ。それに多分だけれど、王宮にいるよりここの方が安全そうだ」



 僕はロイさんに目をやるのだけれど、彼が頷いてくれたからため息をつく。



「わかりました。僕たちから離れないようにしてくださいね」



「ああ、ランファと、いや……イルミーゼを見届けなければ俺の名が廃る」



 部下想いな主様で。と、僕は改めて気合を入れ、揃って魔法陣に足を踏み入れるのだった。

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