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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
33章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都に這い寄るあれこれ。

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魔王ちゃんと海の英雄の言葉

「……」



 まるで口から魂を放出しているかのような呆けた顔のカンドルクさん、自身が戦った相手と現在起きている事件、それらを聞いて彼はもういっぱいいっぱいになったのか、口をあけっぱなしで天井を見上げたまま微動だにしなくなった。



「黄衣、の、魔王……」



「あんた胸を張っても良いと思うわよ。おばさんでも仕留めきれなかった相手を追い詰めたんだもの」



「カンドルクと言いましたか? いくらルーファがやらかしたとはいえ、盾自体はあなたの力です。およそ黄衣の魔王を追い詰めた初の人間だと思いますよ」



 プルプルと震えているカンドルクさんを横目に、僕はランファちゃんの手を握った。



「大丈夫?」



「……ええ、ここにきて、やっと近づけたような気がします」



 握り拳を作るランファちゃんに、ミリオンテンスさんが頭を掻いてため息をついていた。するとそんな2人を見て、陛下が頭を下げた。



「すまんランファ、ミリオ」



「へ、陛下が謝ることでは」



「そうですよ、というかなんで――」



「一度は捕まえたんだぞ」



「……」



 ランファちゃんもミリオンテンスさんも口を閉じてしまった。

 陛下も忌々しそうに顔を歪めており、悔しさがにじみ出ていた。



 しかし記憶を操る魔王、至近距離の戦いだと相当厄介だな。隙だらけになる。

 と、僕はここまで考えてふと疑問を覚えた。そういえば、どうしてランファちゃんのご両親は狙われたのだろうか。

 仮にも騎士団長、何かするにしてもそんな実力のある人を巻き込むなんてしたくはない。個人的な恨みがあるのなら別だけれど、どうにもそんな感じはしないんだよなぁ。



 というか、もっと根本的なことを忘れていた。



「ねえランファちゃん、どうやって助かったの?」



「え? どうって……」



 ランファちゃんが深刻そうな顔で首を傾げた。

 今まで彼女の両親にばかり焦点を当てていたけれど、話を聞く限り、ランファちゃんはご両親が殺された時の現場にいたはずで、つまり黄衣の魔王にとってランファちゃんも殺害対象になっていたのではないだろうか。

 けれど彼女は生きている。見逃したとかそういうことはないだろう。



「どう、どうって……わたくしは、どうやって」



 ランファちゃんが頭を抱えて苦しそうにしだしたから、僕は彼女を抱き寄せ、思い出さなくても良いと声をかける。



 陛下もミリオンテンスさんも心配げな顔を見せる中、フィムちゃんも僕の反対側からランファちゃんを抱きしめてくれ、僕は2人とも撫でてやるのだけれど、ミーシャとお母様に褒められていたカンドルクさんがおずおずと手を上げた。



「あの、その子、ランファっていうの?」



「え、ええ、ランファ=イルミーゼ、前の騎士団長の娘さんです」



「その、黄衣の魔王と戦っていた。というか、俺が出る前だけれど、その戦っていた爺さんが、確かそんな名前を……」



 するとルナちゃんが彼の下に歩みを進め、カンドルクさんの記憶を読み取る。



「これは……」



「ルナちゃん?」



「視た方が早いです。ランファさんも、陛下も」



 僕とランファちゃん、陛下がルナちゃんに触れると、月神様を通してカンドルクさんの記憶が瞳の奥に流れ込む。



 大怪我をしているおじいさん、彼は果敢に黄衣の魔王らしきフードを被った男に杖で攻撃を仕掛けているのだが、どうにも戦いにくそうで、頻りに舌打ちをしていた。

 そのおじいさんが黄衣の魔王に対し、怒号を放つ「ランバートとファルファだけでなく、ランファまでその手に掛けようとしたかこの外道め!」と、見覚えのある老人が僕が見たこともない顔で言い放った。



「……ウロ爺」



「ウロトロス、そうか、ランファを助けたのは」



「あ、あ……そう、ですわ。あの日、わたくしは奴に殺されそうになって、それで――お父様に騎士としての教えを授けた名誉騎士様、ウロトロスお爺様に、わたくしは、救われて」



 ランファちゃんが泣きそうな顔でその場にへたり込んでしまった。

 僕は彼女を支えると、カンドルクさんが何かを思い出したのか、手を叩いた。



「あれ、ギルドマスターだったんだ。どうりで俺の話を信じてくれたわけだ」



「……その、それでウロ爺は?」



「ごめん、それはわからない。でも、多分自分のことをよくわかっていたんだと思う。ウロ爺さん、俺にこの話は人前ではするなって釘を刺されていたんだよ。特に自分より後に来た奴にはって」



 するとカンドルクさんが考え込み、記憶の中を探るようにゆっくりと口を開いた。



「……ああ、やっとわかった。俺もちょっと忘れていたんだけれど、ミーシャちゃんにこの話をしたのも、ウロ爺さんはわかっていた(・・・・・・)からなんだなって」



 僕が首を傾げると、ルナちゃんが彼に触れた。



「今は何も出来ない。とても敵わない。だがカンドルク、もう少し、もう少しじゃ。お前のその記憶が、きっといつか役に立つ。今は誰にも見向きもされん、それどころか嘘つき呼ばわりもされるじゃろう。じゃがな、わしは知っておる、時代が変わる。あの日ギルドに爆弾投げ込んだ娘や、その子につきっきりの娘、両親を失くし、今は悲しみの中にいる娘――時代の境目、その場所でお前はついに日の目を見るんじゃ。その賊に勇敢に戦いを挑んだお前が。ですか」



 ルナちゃんがウロ爺の言葉を伝えてくれた。

 ピリと僕の中の何かが震える。指を鳴らし、目を閉じた。

 本当にあの爺さんは人をその気にさせるのが上手い。



 僕がやる気に満ちていると、カンドルクさんが僕にそっと告げた。



「大丈夫だよ。ウロ爺さんいつも言ってたよ。わしは海で死ぬ、陸では死なんって」



 僕は彼に頷き返すと、頬を叩き、頭をフル回転させるのだった。

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