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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
33章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都に這い寄るあれこれ。

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魔王ちゃんと黄衣すら退く聖盾

「いやぁ、本当に申し訳なかったです」



「肝が冷えたよ。君たちそれぞれ王都の防衛でも司ってみない?」



「まだまだ遊び盛りなのでぇ」



 僕が陛下からの期待をノラリと躱しているとベルギンド様がソフィアの肩を掴み、ジッと彼女を見ていた。何だあの圧迫説教。

 ソフィアはベルギンド様から顔を逸らしている。



「……え~っと、その、違うのですお父様」



「叡智神様に誓って、違うと言えるのかね?」



「ん゛っ」



 ソフィアの深い謝罪にベルギンド様が満足している横で、ラスター様がセルネくんとランファちゃんの隣に立ち、腕を組んで引き攣った顔を浮かべていた。



「……セルネ、ランファ、お前たちはいつもあんな立ち回りをしているのか?」



「え? あ~、まあ大体は。でも今回はちょっと特殊だったかも」



「ソフィアが混ざりましたものね。あの子も魔王と聖女に並んでいることをさっさと自覚してほしいですわ」



 呆れるランファちゃんにずっと呆けた顔をしていたミリオンテンスさんがハッとなった。



「というか俺危なくなかったか? あの聖女、なんでいきなり殴りかかってきたんだ?」



「顔面があったからでしょう」



「顔面が見えたからですよ」



「顔面は人の標準装備だから!」



 まあそれぞれが思うところを口にしているところで、僕はみんなから視線を集めた。

 ミーシャも何か言いたいことがあるから帰ってきたのだろうけれど、少し待ってもらって今は僕の話。



「それじゃあ話を戻します。ミーシャとロイさんはちょっと待っててね」



 僕は息を吐き、改まってランファちゃんに目をやる。



「今回関わっている勢力は、記憶を奪い忘却の彼方へ追いやる。さてそれが誰なのか――ランファちゃん……ご両親が亡くなった時のこと、思い出せる?」



「え、ええ、それは当然ですわ。お父様の背中に深々と、剣が」



「ううん、どう戦ってそうなったの?」



「それ、は」



 ランファちゃんが青い顔をして、その時のことを思い出そうとしているのだが、上手く出てきていないようだった。僕はフィムちゃんに目をやると、星神様は頷いてくれてランファちゃんの手を取り、傍に寄り添ってくれた。



「覚えていない。事件のショックでそうなっているのかもしれないけれど、多分そうじゃないことはランファちゃんが一番分かっているはずだ。お母様、念のため――戦ったって言っていたけれど、詳細は?」



「……わからない。なるほど、こういう力ですか」



「そう、記憶を操る力、もしくは認識を操る力――さて、そんな奴が無王の置き土産に関わっている。クリストファー=アンデルセンの嫌がらせにまさかまさかの黄衣の魔王。置き土産に何かあるとみるには十分の説得力ですよね」



 陛下も他のお偉方も引き攣った顔を浮かべた。するとミーシャが手を上げた。僕は幼馴染に目をやると彼女は口を開いた。



「それに関して、ロイが黄衣の魔王の記憶云々について覚えていたわ。まず確実でしょう――それと、王宮は一度黄衣の魔王を捕まえているわよ」



「そうなの?」



「ええ、そっちで泡吹いているおっさんがいるでしょう? そいつが捕まえたのよ」



「黄衣の魔王を? でもどうやって」



 するとルナちゃんがおじさんの元まで歩んでいくと、彼に触れるのだけれど、驚いた顔の後、一度顔を覆って不憫なものでも見るような表情で頭を下げた後、普段通りの可憐な顔で戻ってきた。



「はいっ、把握しました!」



「いやルナちゃん、詳細を――」



「リョカさん、大丈夫です! 把握しましたので!」



 僕はルナちゃんの視線まで体を屈めると、そのまま体を引き寄せこちょこちょと月神様の体をまさぐっていく。



「ルナちゃ~ん?」



 キャッキャとするルナちゃんを僕は抱き上げると、月神様はやっと口を開いてくれた。



「……とても強力な盾を生成したようです。しかもその――ルーファ、守護神の加護がかかった盾です」



「そりゃあまた強い。随分と優秀な兵士がいるんですね」



 と、僕が陛下とラスター様に目を向けると、2人が揃って首を傾げていた。

 あれ、そんなに優秀じゃない?



「いやこのおっさん、盾を出したのはその一回きり、しかも記憶の何ちゃらで脱走されて挙句誰も覚えていないから、見回りにずっといたのよ」



 なんて不憫な。

 ちゃんと仕事して、評価されるはずなのに、それすらもなくし……待って。あのおじさん、それをミーシャに話したのか(・・・・・)



「ルナちゃん、言いづらいかもだけれど、そのおじさんのこと教えてくれる?」



「え~っと」



「女神が関わっているのは確かよ。アヤメもずっと様子がおかしかったし」



「いや違う。俺たちは悪くないわよ」



 顔を逸らす月神様と神獣様、苦笑いの豊神様だったけれど、星神様がペタペタとおじさんに近づいて行き、その体に触れた。



「あ~……ルーファ姉さまがレッヘンバッハさんに騙された時の」



 僕はそっとレッヘンバッハのおじさんに目をやると、いつからかわからないけれど、おじさんが顔を逸らしていた。あの様子、あのおじさん……確かカンドルクさんだったかな、を覚えていたな。



 ミーシャがおじさんにずかずかと近づいて行き、その胸ぐらをつかむ。



「待って待ってミーシャたん! お父さんそんなつもりじゃなかったの! ただルーファが現れた時、守護神って言うなら私の身を守る加護の1つでも持っているだろうって思って、ちょっと思いついちゃって――」



「クソ親父」



「いだだだだだ!」



 というか僕が言えることではないけれど、普通に不敬では? まあそれはいいとして、僕はルナちゃんを見る。すると彼女がやっと口を開いてくれた。



「え~っと、面白い人間がいるとレッヘンバッハを勧誘しに行ったルーファなのですが、その時にそこの男が加護の詳細が欲しいと提案するのですが、もちろんわたくしたちは女神です、信者でもない人に加護は渡せませんし、どんな力なのかも教えられません。ですがレッヘンバッハはどうしても知りたかったのでしょうね、ルーファを煽りに煽り、その時たまたま通りがかったカンドルクさんを巻き込み、信者にならずに女神から加護だけ得て逃亡しました」



「陛下、そのおっさん、女神様不敬罪しょっ引いても良いと思います」



「……レッヘンバッハ、あとでちょっと話があるからな」



 僕はため息を漏らすと、これで話が聞けるかな。と、僕はカンドルクさんをゆすりながら、口を開く。



「どんな加護かわからないけれど、カンドルクさんはその時のことをミーシャに話したんだよね?」



「ええ、本人から聞いたわ」



「周りの誰も黄衣の魔王のことは忘れているのに?」



「あっ、そういえばそうね」



「つまりこのカンドルクさんは王都に住んでいながら、黄衣の魔王の影響を一切受けていない」



 思案顔を浮かべていたルナちゃんが、再度カンドルクさんに触れた。



「加護は……盾の効果の維持ですかね」



「というと?」



「信仰で出来上がった盾を常時自身に張るというものです。盾を使用していなくても自分だけなら常に守られている状態です。相当強力な盾を作ったのですね」



 するとミーシャに締められていたレッヘンバッハのおじさんがドヤ顔を浮かべたのが見える。



「つまり私のおかげだな」



「おいそのおっさんを誰か黙らせろ」



 ミーシャのげんこつで床に埋まったレッヘンバッハのおじさんを横目に、僕は改めてランファちゃんに目をやる。



「多分、その時に」



「……ええ、わたくしの両親が殺されたのですわね」



「ああ、だから返り血を浴びていたのね。でもそうなると、もう1人のジジイは誰かしら?」



「ジジイ?」



「黄衣の魔王と戦っているジジイがいたそうなのよ。だからそのおっさんが助太刀に入ったみたいだし」



 また謎の人物、敵か味方か……。

 そう僕が思案していると、カンドルクさんが目を開けて起き上がった。



「う、う~ん?」



「おはようございます。いきなりですみませんが、お話を聞かせてもらえますか?」



「え――?」



 寝ぼけまなこで辺りを見渡したカンドルクさんの顔が次第に青白くなり、四つん這いでミーシャの背に移動して隠れてしまう。



「みみみみミーシャちゃん、こ、こ、これはいったいどういう状況? え、陛下? ラスター様も、レッヘンバッハ様が埋まってる!」



「クソ親父はあたしが埋めたわ」



「なんで!」



 狼狽えているカンドルクさんの肩をミーシャが掴み、少し圧をかけたところで、彼はブンブンと頷いて話をする体勢に入った。



「カンドルクさん、いきなりのことで困惑していると思いますが、大事なことなので答えてください。最近何か変わったことがありませんでしたか?」



「ミーシャちゃん以外?」



「ミーシャちゃん以外です」



「え~っと、ああそれなら――ウロ爺さんが引退したこととか? ギルドマスター突然変わったよね。あいや、みんな知ってるか。でも何で騎士団の副団長が? ずっと見なかったけれど、あれってイシュルミ副団長だよね? あれ、これも知ってるか――」



「ラスター、彼にお茶と椅子を!」



「ええ。カンドルク、お手柄だ」



「え、え?」



 ポカーンとしているカンドルクさんに、陛下たちお偉方が次々と接待でもするような待遇を与えている。

 一兵士にはある意味では辛かろう。



 僕はカンドルクさんに、今までのことを話すのだった。

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