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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
32章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、それぞれ王都の真相に近づく。

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聖女ちゃんと無作為な盾

「ぬわぁぁぁぁぁっ! 死ぬ!」



「死なない」



 グランドバスラーを倒し、おっさん……カンドルク=アーチェの意思も聞き、ラムダを使って魔物による強制訓練をしているところだ。



「せ、セルネく~ん!」



 そのセルネはロイのブラックラックレギオンを複数相手にしており、あっちもいっぱいいっぱいなのか、こちらに気を回す余裕もないようだった。



「ほら盾出さないと死ぬわよ」



「だから出ないんだってぇ!」



 アヤメたち曰く、このおっさんには信仰が足りていないとのことだった。ならば手っ取り早く強くなり、その上で王都で何かしらの騒動を起こせば一発だろう。

 あたしは完璧な作戦だと胸を張っていると、敷物の上で茶と菓子を口に運んでいる女神たちが呆れたような顔をしていた。



「アヤメさ、お宅の聖女ちゃんは魔物すら操れるのかい?」



「いや知らねぇよ。というかどう見ても魔物が怯えてるじゃないの」



 アヤメとラムダはあたしが魔物の背に乗っておっさんを追っていることに疑問があるようだ。この方が手っ取り早いし、何よりも何かあった時一番近くで動けて楽なのだけれど。



「あいつ、あのまま魔物を使って王都襲撃しそうな勢いなんだよなぁ。それで倒せりゃあ多少の信仰は手に入るかもしれないけれど、やることが強引なのよね」



「強引というか、無茶ではあるよね」



 アヤメとラムダの言葉にあたしはため息をつくと、そのまま魔物を殴って黙らせ、肩で息をしているおっさんに目を向けた。



「そういえばおっさん」



「な、なぁ、なに、かな」



「以前盾を出したって言っていたけれど、どんな盾だったのよ」



「うぇ? え~っと、なんかこう、膜が、こう、体を覆ったというか」



「わかりづらいわね。そもそもあんたが足止めしたっていう賊はどうなったのよ」



 するとおっさんが苦い顔を浮かべた。

 何かあったのだろうかと首を傾げると、深いため息をついた。



「……どうせ信じてくれないよ」



「それを決めるのはあたしよ」



「……」



 口を閉じるおっさんだったけれど、セルネとロイも近くにやってきて、あたしがジッと見ていたからか観念したように口を開いた。



「あれは、ちょうどこのくらいの時期だったかな。俺が王宮に報告に行っていた時、それが長引いちゃって夜遅くに王宮の外を歩いていた時だった。普段と変わらない日で、早く帰って寝ようと思っていたんだけれど、突然空から2人が落ちてきて、片方は小柄な……多分男、その人がひどく傷ついていて、もう片方が体中血まみれの男、ただその血は自分のものって感じじゃなくて、多分返り血だったと思う」



 アヤメが首を傾げている。

 あの子も知っていてもおかしくないはずだけれど、どういうわけか知らないらしい。



「それでさ、傷ついた方の男……声から爺さんだったと思うんだけれど、その人が俺の方に目を向けて、逃げろって叫んだんだ。でもさ、もう片方の奴がなんて言うか、とんでもなくヤバいって直感したんだ。ここで俺が何かしても結果は変わらないだろうけど、でも放っておいたら間違いなく爺さんは死ぬって」



 セルネもロイも、真面目におっさんの言葉に耳を傾けていた。

 しかしあたしは少し疑問に思う。それほどの事件、多分公けになっているはずだ。でも覚えがない。



「だからさ、俺、一応兵士だし、国の人なら守んなきゃって。だから俺、その賊の前に立ったんだよ」



「あんたも無茶なことするわね」



「しょうがないよ、勝手に体が動いたというか……でもさ、正直後悔したね、その賊がさ、なんか、よくわからない攻撃をしてきたんだ。視線がズレると言うか、目の前を見ていたはずなのに後ろを向いているというか、戦闘していたはずなのに、どうにも相手を忘れているというか、なんか不思議な感じで、俺ボコボコにされてさ」



 目の前の相手を見失うなんてことあるのかしら。

 こういうのはリョカに聞かせた方が良かったかしらね。と、考えているとロイが深刻そうな雰囲気で思案顔を浮かべておりあたしは首を傾げる。



「爺さんが俺を庇ってくれたんだけれど、それでさらに傷つけちゃってさ。ヤバい死ぬ。って思った時、突然本当になんでかわからないけれど、盾が使えるって思ったんだ。だから俺はそこで初めて盾を生成した。そうしたら、そいつの攻撃も何だか普通になって、膜のおかげか攻撃も全く効かなくて、爺さんの方がすぐに賊を縛り上げたんだよ」



「捕まえたのね。それなのに夢とかって言われたの?」



「それが変なんだよ。確かに俺と爺さんはそいつを衛兵に引き渡した。でもすぐ後にそんな奴いないって言われてさ。渡した奴もそんなこと覚えていなくて、爺さんも誰かわからないから、俺、本当に夢でも見ていたんじゃないかって思って」



 顔を伏せるおっさんに、ロイが声をかけた。



「1つ良いですか? それはもしや、イルミーゼ様が亡くなった時期ではないですか?」



「え、ああ、そういえば、その後生誕祭を終えてそんな発表があったような気が……でも少しずれていますよ」



「生誕祭があったからでしょうね」



 するとロイがクマを一体出し、おっさんに治療を受けてはいかがと、クマに手を向ける。するとおっさんは頷いて、クマの方に歩んでいった。



「推測ですが、私は彼と戦ったという賊に心当たりがあります」



「賊に? そんなわかりやすい特徴あった?」



「攻撃に違和感、戦っているのに忘れてしまう――黄衣の魔王、彼に近づかれた時、私も同じような違和感を持ちました」



 アヤメとラムダ、それにセルネも驚いたように口を開いた。

 当然だろう、まさかそんな大物が王都に、しかもロイの言い分ではランファの両親を殺害した日に、出会っていた人間が2人いた。



 これは……リョカに相談ね。

 まさかの手掛かりに、真相に近づいている確かな感触を得るのだった。

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