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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
32章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、それぞれ王都の真相に近づく。

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勇者くんと街を守る門番だった者

「えぇ、なんでぇ~」



「そういう気分だからよ」



 カンドルクさんをペチペチしてミーシャが言うのだけれど、俺は少し、この聖女様に違和感を覚えていた。

 弟子。という感じではない。

 そもそもミーシャはそう言うのを取りたがらないだろう。

 自分の実力は知っていても誰かに教えを乞うほど驕っているわけでもなく、むしろ勝手に強くなれって思っている感じだったはず。



 俺が首を傾げていると、アヤメ様が苦笑いを浮かべていた。



「……まあ、グリムガント(・・・・・・)が面倒を見るのが妥当だわな」




「どういう意味です?」



「ん~? まあ色々な。おっちょこちょいの尻拭いというか、腹黒の陰謀の渦というか」



 俺が首を傾げていると、ロイさんがそっと隣にやってきた。



「お疲れ様です。セルネくん、お怪我は?」



「大丈夫です。俺走ってただけなんで」



「速度が上がりましたね。それにミーシャさんのイルミナグロウに隠れていましたが、咄嗟に出てきた巨大な剣、見事でしたよ」



 目を細め、頭を撫でてくれるロイさんに俺が照れているのだけれど、最近少し思う……魔王の方が優しい。

 すべての魔王が優しいというつもりは当然ないが、勇者であるガイルさん然り、最近ではランファもだけれど、同ギフト持ちの2人はすぐに手が出るし、聖女であるミーシャ、俺が出会ったもう1人の聖女、スピカもそうで、あの子俺にヴェインさんと喧嘩させようとしていたし、マルエッダ様は……苦労してたなぁ。



 それに比べ、ロイさんはこうしてたくさん褒めてくれるし、撫でてくれるし、ダメなところがあっても一緒に考えてくれるし、リョカは当然優しくしてくれるし、暴力もない。お菓子くれるし、こちらも撫でてくれる。



「……セルネ、こっちにいる魔王が特殊なだけ。それとこっちにいる聖女とそれに関わった聖女が特殊なだけよ」



 魔王を倒せる勇者になるという約束は当然忘れないけれど、世の勇者と聖女はもっと人にやさしくなってほしい。



「ところでアヤメ様、彼は、その」



「お前も気付いたか。あれはなぁ、うん、ちょっとかわいそうな奴だからセルネもロイも気にかけてやってくれ」



「そんなに変わっているんですか?」



「セルネくん、さっき彼がシールドオブグローリーを発動させた時、何か気が付きませんでしたか?」



「う~ん?」



 そう言われてみれば、さっき少し違和感を覚えた。

 何かと言われても俺にはリョカみたいにそれを説明できるほどの頭はないのだけれど……『威光を示す頑強な盾シールドオブグローリー』聖騎士の第1スキル、勇者の聖剣顕現と同じで、他からの信仰によって盾を生成するスキル――うん? 他からの信仰? カンドルクさんに? いやでもさっき、確かに盾が生成されそうだった。

 つまりカンドルクさんは盾が生成できるほどの信仰を集めていると……いや、でも作れていないよな。



「う~んぅ?」



「推測なのですが、以前は盾を作れたのでしょうね」



「そんなことあるんです?」



「わかりません。ただ、彼は盾を、名を呼ぼうとしていました。勇者もですが聖騎士のスキルの性質上、一度作った剣も盾も、別の物に変えられない。あの時一瞬ですが、確かに盾が出来ようとしていました。ですが信仰が足りていない」



「信仰が足りていないって、昔有名な人だったとかですか?」



「いえ、それこそあり得ません。確かに信仰が足りなければ盾は作れない。昔有名で最近になって復帰したと言っても、信仰は蓄えられているはずですから作れないなんてことにはならないのですよ」



「じゃあ――」



 するとロイさんがアヤメ様に目をやった。



「……あ~うん、ロイが思っている通りだよ。昔女神がちょっとな、でも巻き込まれただけよ、女神は悪く……いや、あのおっちょこちょいが悪いけれど」



「う~ん、アヤメ、それあたし知らないよね?」



「お前は引きこもってたからな。ちょっと来い」



 そう言ってアヤメ様の頭にラムダ様が触れた。

 そしてすぐにラムダ様が苦笑いを浮かべて、カンドルクさんを見た。



「不憫な。こうやってみると、あの子グリムガントに振り回されっぱなしなんだねぇ」



 一体何を見たんだろうか。

 女神さまたちに詳細を聞こうと思っていると、ミーシャに頭をペシペシされていたカンドルクさんが泣きそうな顔で、声を上げていた。



「ど、どうして!」



「どうしてもこうしてもないわよ。それともなに、あんた嫌なの?」



「い、いや、その……俺は、駄目な兵士だから」



「駄目?」



「……昔、8年ほど前、俺は初めて盾を生成することができたんだ」



 普通の兵士ならこんなものだろう。

 リョカなんかは簡単に盾を生成しているから忘れがちになるんだけれど、聖剣も盾も、生きている内に顕現させるのは難しいとまで言われている。

 勇者と違って、世界や周りから特に期待されるわけでもない聖騎士は、勇者の剣や、それこそ元から有名な人でない限り、盾を顕現させるのは本当に困難だ。



「王宮に忍び込んだ賊を足止めしていた時に盾が顕現してさ、その功績で一度門番にもなって」



 カンドルクさんが顔を伏せた。

 門番といえば大出世じゃないだろうか。

 街を守る最初の兵士、並の実力がなければ抜擢されない。

 つまり彼は優れた力の使い手だったのかと思うのだけれど、あの顔からしてそうではなかったのだろう。



「……でもさ、俺が盾を顕現させられたのはその一回だけで、あとはもう、ずるずると、堕ちる、だけ」



「……」



「盾も出せずに、期待されていた仕事も出来ない。散々責められたよ。他の兵士からも夢でも見ていたんだと笑われ、結局門番に相応しくないって追い出されて、それからはずっと見回りの兵士のままさ」



 ミーシャがジッとカンドルクさんを見つめる傍で、アヤメ様が表情を青くして顔を逸らしており、これ女神様が何かやらかしたな。



「……結局、あの時の賊は夢だったのかなぁ。信じてくれたのはギルドマスターだけだったし。俺ギルドの人間でもないのに、すっごく優しくしてくれたなぁ」



「で、あんたはどうしたいのよ」



「どうしたいって」



「盾、出せるようになりたいの? 門番に戻りたいの?」



「……俺は」



「何よ」



「……俺だって、俺だって兵士だ! そりゃあ将来安泰だからって理由で踏み込んだ。でも、それでも、俺は兵士なんだ、この街が好きだ、この街から出たことないし、俺はきっとここで死ぬ。だから、だから――」



「ん」



「――この街を、人を、守れるような、兵士に」



 ミーシャがクスりと笑ったのが目に入った。

 さすがは我が学園の聖女様だ。こういう人結構好きなんだよなミーシャって。



「ならあたしの手を取りなさい。ついでにあんたを笑った兵士たちの鼻を明かしてやりましょう」



「……グランドバスラーと戦うんですか?」



「もっと強いのよ。しっかり守りなさい」



 肩を落とすカンドルクさんに笑い顔を向けつつ、王都ではミーシャにつきっきりだなと予感するのだった。

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