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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
32章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、それぞれ王都の真相に近づく。

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聖女ちゃんと王都の聖騎士

「あぁぁぁぁぁぁっ! なんこれ! なんこれぇ!」



「グランドバスラー」



「そんな報告なかったけどぉ!」



 リーンおばさんにリア・ファルを借りて、あたしとアヤメ、セルネとカンドルクのおっさんでゼプテンに戻り、ラムダに頼んで街の外にグランドバスラーを出してもらっていた。



「んもぅミーシャちゃん、グランドバスラーなんて本来なら気軽に出していい魔物じゃないんだからねぇ」



「じゃあ出すなよ」



「ミーシャちゃんならいいかなって」



 そしてセルネの背中にあたしとカンドルクのおっさんを乗せて走り回ってもらっているのだけれど、やはりあの見回り兵、普段から何を相手にしているのかと責めたくなるほどに魔物との戦いになれていない。



「いやミーシャ、いきなりグランドバスラーは誰だって驚くよ。それにカンドルクさんは街を守る兵士だよ? こんなデカい魔物、慣れているわけないでしょ」



「セルネあんた、それでもルーデル(・・・・)なの? じゃあ何よ、もし街にグランドバスラーより小さく強い魔物が出てきたら、兵士たちは大人しく何も出来ずに死ねって言うの?」



「そんなひどいこと言っていないけど!」



「おっさん、あんたにだって兵士になった理由くらいあるでしょう」



「将来安泰を望みましたぁ!」



「そう、この場を切り抜けられればその安泰も絶対になるわ。歯を食いしばって両目を開いてよく視なさい」



「切り抜けられなければ!」



「その将来が消えるわ。さっさと行ってきなさい!」



 あたしはセルネの背中からおっさんの腕を掴んでそのままグランドバスラーに向かって投げ飛ばした。



「あぁぁぁぁっ! 待って死ぬ待って死ぬ!」



「ミーシャぁ! それはあんまりだよ!」



「ならあんたがカバーしなさい」



「無茶ぶりにもほどがある!」



 あたしはその場から飛び降り、セルネが急旋回しておっさんを回収しに行ったのを横目に、アヤメとラムダ、ロイの下に歩みを進めた。



「……もっと手加減してやれよなぁ」



「イヤよ、あのおっさん兵士なのに戦闘圧の欠片もないんだもの」



「のほほんと生涯を終えさせてやれよ」



 呆れるアヤメを撫でていると、大地に投げ出されたおっさんにグランドバスラーの巨体が迫っており、セルネの速度からしても一度はおっさん自身で防がなければならず、どうするかを見守ろうとしていると、横目にロイがスッと、ブラックラックレギオンの準備をしているのが見え、肩を竦める。



「あっ、あ……」



 おっさんが体を固め、身動き一つしない様に、あたしがため息をつこうとするのだが、そのおっさんからほんのりと、いや微かに香ってくる。



「し、『威光を示す頑強な盾シールドオブグローリーろーどお(・・・・)――っつぅ!」



「聖騎士。いえそれよりも」



  今一瞬微かに感じた戦闘圧、でもそれは瞬時に霧散し、何事もなくおっさんにグランドバスラーが迫っている。

 だけれどあたしの目にははっきりと映っていた。



「……」



 ロイが動き出そうとするのを制し、あたしは息を吸い、手をズボンのポケットに突っ込む。



「『自己犠牲の寵愛(イルミナグロウ)・覇龍』」



 脚から溢れた生命力を龍と認めそのまま蹴りだすと、あたしの生命力は龍の形になって巨大な魔物を食い殺そうと大口を開けてそのままグランドバスラーの頭から半分くらいまでの体を飲み込み、空へと伸びていった。



 腹から先を失ったグランドバスラーはそのまま絶命し大地に伏せ、呆然としているセルネとおっさんにあたしは歩みを進めるのだけれど、ロイもどこか興味深そうにおっさんを見ており、あたしは首を傾げる。



「……ミーシャさん、良かったら、引っ張り上げてやってくださいね」



「ええ、まあ頑張ってみる」



 相変わらず察しの良い魔王だ。

 そうして体を震わせているおっさんに近づくと、セルネと何事かを話していた。



「……なんこれぇ」



「あれ? なんか威力上がってない?」



 あたしはおっさんの頭を思い切りはたいた。



「あいたぁ!」



「良かったわね、あんたはこれから先安泰よ。あたしが鍛えてあげる」



「え、へ? あ、はい?」



「……カンドルクさん、その、頑張ってください」




 セルネのあまりにも気の毒そうなものを見る目に、おっさんが瞳に涙をあふれさせた。

 しかしこれはもう決まったことだし、大して面白みもない依頼を受けるよりずっとやりがいがある。



 あたしは腕を組んだまま勝気に笑ってみて、おっさんに手を差し出すのだった。

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