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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
32章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、それぞれ王都の真相に近づく。

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聖女ちゃんと巻き込まれ見回り兵

「元気になり過ぎじゃろお嬢ちゃん!」



「……」



「まあ、殴っていい相手を見つけた瞬間あれですからねぇ」



 泥棒を捕まえた後、あたしたちはそいつを兵士に預けたのだけれど、商品を盗まれたおじいさんに引っ張られ、こうして正座をさせられて、おじいさんの店で説教を受けていた。



「礼の1つでもすると思ったら……」



「ミーシャ、しっ」



 セルネが人差し指を自分の唇に沿えて黙っているようにと動作で訴えてきた。あたしは幼子か何かか。



「まったく揃いも揃って情けない、コソ泥1人まともに捕まえられんのか。おいカン坊、お前にも言っておるんじゃぞ」



「……ヨル爺、俺もう坊なんて年じゃないよぅ」



「ならもっとしゃっきりせんか! どれだけの時間兵士を務めていると思っとるんじゃ」



「ウっ、それは言わないでよぅ。俺だって好きでずっと見回り兵をしているわけじゃないんだって」



 何か始まったわ。正直帰りたいのだけれど、アヤメがさっきからずっと首を傾げており、その顎を撫でてやる。



「う~ん? なんか変な感じが……」



「何じゃ耳っ子、爺ちゃんの菓子食うか?」



「うん」



 ジブリッドで買ったらしき菓子をアヤメに手渡し、満足げにおじいさんが頷いた。

 あたしが肩を竦めると、セルネも何か考え込んでおり、一緒に来た中年のおっさんに話しかけた。



「あなたは……あ、思い出した。確か街を見回る兵士の、えっと」



「へっ、あ、ええ、自分はもう長いこと見回り兵をやっていて……というかどこかで見たことありますね。どこかでお会いしましたか?」



 こっちはこっちで何か盛り上がっているし、やっぱり帰ろうかしら。



「セルネ、もう帰って良い?」



「いやちょっと――」



「セルネ? セルネ……っ!」



 おっさんの顔がみるみる青くなる。

 そういえばセルネの父親は街の治安と街道の治安、城の衛兵ではなく、門番や巡回している兵士を受け持っているのだったかしら。

 つまりこのおっさんにとって、セルネは上司の1人息子ってことになるわね。



「ひぇぇっ! この失態はどうかお父様にはぁ!」



「え! いえそんなことしませんけど――」



 おっさんがうろたえる横で、セルネがあたふたしている。

 そんな状況を意にも介していないアヤメがおじいさんにお茶を要求していた。



「爺ちゃんお茶」



「遠慮のない娘っ子じゃのぅ。じゃがわしそう言う子だい好きじゃよ、昔まったく遠慮しない子がいてのぅ」



「おじいさんあたし帰って良い?」



「なんじゃい、まだ説教は終わっとらんぞい」



「そうだぞミーシャ、たまには怒られろぉ」



「ミーシャ?」



 おっさんがあたしの名前に反応した。

 もう慣れたものだけれど、この後の展開が予想できるだけに鬱陶しい。



 あたしはおっさんが口を開くより先に、その顔面に拳を放った。



「ぐぇぇっ!」



「ミーシャ落ち着いて!」



「なんか鬱陶しいのよねそのおっさん」



「本当に元気じゃのぅ。じゃが良いぞいもっとやってやりなさい」



「おじいさんまで!」



 状況が混とんとしてきたことで、セルネが急に音頭を取り始めた。

 おじいさんに許可を取って正座を止め、店の中にある椅子を並べたり、お茶を淹れたりと忙しなく動いていた。

 そして少し落ち着いたところで、おじいさんとおっさんに自己紹介を始めた。



「えっと、俺はセルネ=ルーデルです。商品を壊して本当に申し訳ありませんでした。ちゃんと弁償しますので――」



「いい、いい、別にわしは弁償してほしくてここまで引っ張ってきたわけじゃないからのぅ。それに謝るも何も、坊は何もしておらんじゃろ」



「そうよセルネ、謝る必要のないのに頭を下げていたらその顔面の価値が下がってしまうわよ」



「君の代わりに謝ったんだけれど! じゃあもうミーシャが謝れよぅ」



「イヤよ、あたしに頭を下げさせたいのなら力づくで下げさせなさい」



「セルネ諦めろ、この聖女はリョカかリーン母様がいないと頭を下げないわ」



「カッカッカっ、愉快な子たちじゃのぅ。わしは……ヨルムカンズ、ヨル爺と呼ばれておる。して耳っ子、お主今母様と言ったが、リーンと言えばジブリッドかえ?」



「んぁ? ああそうだぜ、アヤメ=ジブリッドよ爺ちゃん」



「ジブリッドにこんなめんこい子いたかのぅ? 一人娘はいたはずじゃが、あの子も随分とハチャメチャだが可愛い子だったがのぅ」



「最近養子に迎えられた子よ。随分ジブリッドに詳しいのね?」



「そりゃあ王都で店なんて持ってりゃあジブリッドに筋を通さないとやってけんからのぅ。それにあそこの大旦那は人が良いからのぅ、若者とはいえ、同じ商人として尊敬に値する人じゃろうに」



「おじいさんわかってるじゃない、ジークランスのおじさんはずっごい人よ。ああそれと、あたしはミーシャ=グリムガントよ」



 あたしがおじいさんに自己紹介すると、座っていたおっさんがガタと体を跳ねさせた。



「……やっぱりグリムガントだぁ。もうダメだぁ、今度こそクビだぁ」



「カン坊、その情けない声でわめくのは止めろ。すまんのぅ童たち、こいつ――カンドルク=アーチェ、40回目の誕生日を控えているのに、未だに見回り兵をしている古強者(・・・)じゃよ」



「ただの嫌味じゃない」



「ミーシャこら、黙っていなさい」



 確か兵士にも格というか位があるのよね。城勤めは優秀な者がなって、しかもそこから騎士団に引き抜かれることもあるという兵士にとっては夢の現場だったはず。

 それと門番はさすがに街の入り口を手薄にするわけにもいかず、多少歳を取ってしまった騎士やそれこそ本当の古強者が選ばれると前にリョカが話していたわね。

 そしてこのおっさんの言う見回り兵は……確か特に経歴もなく、実績もない人がなるのだとか。



 死んだような顔で呆けているおっさんに、ヨルムカンズのおじいさん……ヨル爺がカンドルクのおっさんの頭を引っ叩いた。



「それに引き換え、ミーシャのお嬢ちゃんは強いのぅ。カン坊、お前鍛えてもらったらどうじゃ?」



「あんなんくらったら死んじゃうけど!」



「コソ泥は生きとったじゃろがい」



 ヨル爺はあたしの顔をジッと見つめ、頭を下げてきた。



「お嬢ちゃん、わしのお願いをちと聞いてくれんかのぅ?」



「良いわよ、頼まれてあげる」



「え、速答?」



「何よセルネ、あたしが人の頼みをすんなり受けるのがそんなに意外かしら?」



「意外かと聞かれたなら、答えはうん、そうだね」



 あたしはセルネの頬を引っ張るけれど、確かに少しガラじゃなかったかしら? でもどうしてだかこのお爺さんの言うことは聞かないといけない気がして、あたしはつい請け負ってしまった。



 そして豪快に笑ったヨル爺がカンドルクのおっさんの背中をバシバシ叩いた。



「この中年はの、中々芽が出ないどころか卑屈になってどんどん腰を曲げおる。ここは一発、お嬢ちゃんみたいな衝撃をぶつけてやりたくてのぅ」



「ちょっ、ちょっとヨル爺、何を勝手に――」



「黙れ! 坊もいい加減、こんな店に毎回足を運んで愚痴を垂れるだけの生活から脚を洗いたいじゃろうに」



「ウッ、で、でもさぁ――」



「よしわかったわ、まだ夕食までには時間があるし、とりあえず今行きましょう、すぐに行きましょう」



「え、行くってどこに――」



「ラムダに会いによ。グランドバスラーと戦えば多少の根性付くでしょ」



「え?」



 カンドルクのおっさんが呆けた顔を浮かべたけれど、あたしはおっさんの襟を掴むと、ヨル爺に手を振る。



「それじゃあちょっと行ってくるわ」



「うむ、任せたぞいお嬢ちゃん」



 あたしはそのままアヤメも抱き上げ、店から飛び出していく。

 正直暇していたし、何しようか考えていたけれど、まあ尤もらしい暇つぶしも出来るとあたしは駆け出すのだった。

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