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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
32章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、それぞれ王都の真相に近づく。

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聖女ちゃんと目を離せばクレーター

「テルネも、成長したんだなぁ」



「何よ突然」



 依頼を終えたあたしとアヤメ、セルネはギルドで報酬を受け取った後、まだまだ夕食には早いということで街をぶらついており、その最中にアヤメがしみじみと言い放った。



「いや、あのテルネが人に対してあそこまで言えるようになったのが感慨深くてな」



「ラムダみたいな顔して何言ってるのよ」



「……お前それラムダの前で絶対に言うなよ」



「アヤメ様は女神様にすっごい優しいですよね」



「人にも優しいだろ~。まあそれなりに見守ることが多かったからな、それに女神は死という概念がほとんどない。そうできているし、それを覆すのは難しい……まあこれに関してはリョカの元の世界の在り様(・・・・・・・・)を参考にしたんだが、上手くはまったみたいだし、そんなやり方をしているせいか、他の女神に関しては成長なんて概念はほとんどなかった。お前らとつるむようになってから、力ではなく在り様(・・・)を成長させることを覚えたみたいだしね」



「あんたもリョカみたいに変なことを話すことがあるわよね」



「ミーシャとセルネ、お前たちは俺のことをケモ耳の可愛い子だとしか思っていないかもしれないけれど――」



「だらけ獣って思っているわよ」



「ミーシャ関連の有事の際には役に立ってくれない女神様だと思っています」



 ペシペシとあたしとセルネの腰を叩いてくるアヤメを抱き上げてあやすと、この子はため息をついた。



「一応言っておくけれど、俺これでも女神の中枢を担っているからもっと敬いなさいよ」



「はいはい、それでリョカたちに何か変化はあった?」



 今日は国王に会いに行くとルナとランファ、フィムを連れて行ったけれど、あたしは出来ることがなさそうだし、こうして依頼に来ていたわけだけれど、やっぱりもっと積極的にあっちに加わった方が良かったかしら。



「うん? あああったな。ところでミーシャ、ウロトロス=マイザーって名前に覚えはあるか?」



「――? いいえ」



 するとアヤメがあたしの頭に手を添えた。

 するとそこから頭に浮かんできた1人の老人、あたしは彼に覚えがあった。



「ウロ爺じゃない」



「……忘れてただろ」



「ええ、忘れていたわ。どうりでリョカがキレているわけだわ、あの子大分懐いていたもの」



「そっ、それだけじゃなくて女神もてんわやんわよ」



「何で女神まで慌てるのよ」



「これが何も成していない一般人であったのなら、別段慌てることもないんだけれど、女神が忘れていたこの男、海星の勇者で元極星だ。女神がきちんと把握していなければならない大英雄よ」



「あの飲んだくれジジイ、そんなにすごい人だったのね、一度戦っておくべきだったわね」



 しかしそうなると、本当に不気味な黒幕だ。

 アタシは別段、記憶力を誇るほど優れているわけではないけれど、ウロ爺は恩人でもある。そんな人を忘れていたとなると、あたしもその黒幕と対峙したとしてもどう戦えるのかわかったものではない。



 しかしきっとあたしの幼馴染はこの黒幕を暴こうとするだろう。

 なんといっても恩人を忘れさせたことの怒りと、さらに他人から忘れさせるなんて、あの子の生き方から考えれば許容できるものではない。

 きっとリョカはすでにこの黒幕を敵と断定しているだろう。



 ならあたしはどうするか。

 出来ることは限られているけれど……。



 と、あたしが少し悩んでいると、目の前を息を切らして走る……というより、トボトボと脚を動かしている中年が今にも死にそうな顔で脇を通過しようとしていた。



「ま、ま゛っでぇ~」



 一体何を追いかけているのかと思うと、彼の視線の先で、ニヤニヤと袋を担ぎ、手には高そうな宝石があしらわれたネックレスをブンブンと振り回している男がおり、中年の後ろから老人が泥棒と叫んでいるのが見えた。



 セルネが瞬時に目つきを鋭くさせたけれど、残念、あたしの方が早い。



「え――」と、泥棒の男が声を上げるのも束の間、あたしの拳は、黒い獣となって男の真上から放たれる。



 拳が風を切る音はまさに獣の咆哮で、男は顔面から地面に叩きつけられて王都の道、そして周辺の家屋を巻き込んで、円形に窪んだ大きな穴を作り出した。



 泥棒の男は窪みの中心で頭を大地に埋め込んで、足をだらりとぶら下げながら動きを止めており、セルネと追いかけていた中年、そしてただ歩いていた一般人、みなが一様に大口を開けていた。

 そして最後に追いついてきた老人が、窪みの中を見てそのまま膝を折って座り込み、頭を抱えて「うちの商品がぁ」と叫んでいた。



 袋の中身は当然粉々になっている。



「うん、平和っ」



「そだねぇ」



 最早動じなくなっているアヤメを撫で、あたしは胸を張るのだった。

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