魔王ちゃんと王都に入り込む銀風
「う~ん……これを俺が許容するわけにもいかないが――だがしかし」
僕の作った菓子を食べながらロイさんとの戦いを見ていた陛下、しかしそれは許容できないという。
まあ当然だな。けれど悩んでいるのも確かなようで、どう扱っていいのか決めあぐねているところだった。
「確かに死んでいる。かの魔王は若い魔王に殺されている。それを俺は確認した。ならばこそ、それに似た人物がいようとも他人の空似だ。とはいえ大きな力だ……君もだけれどねリョカちゃん」
「僕は魔王は魔王でもアイドルですから」
「そのあいどるっていうのは人から魂を借りてぬいぐるみとして召喚したり、他国で局所的世界を作っちゃうようなギフトなのかい?」
「望まれれば!」
「……ロイ=ウェンチェスターより恐ろしい存在がいる以上、そこはなあなあにしても良いかもしれないな」
「ミーシャなんてグリムガントのお墓の横にロイさんの奥さんのお墓建てようとしていますよ」
「俺の父上の墓もあるんですけど! ってそれでか、レッヘンバッハの奴、霊園広くするとかって言ってたのは」
すでにおじさんは動いていたか。
しかしおじさん、さっそくロイさんを取り込む気だな。
一応僕のぬいぐるみだったんだけどなぁ。
「……」
「……リョカちゃん、レッヘンバッハなら後でいくらでも殴って良いからさ、その殺気を漏らすのは勘弁しておくれ」
「ああ申し訳ありません。相変わらずレッヘンバッハのおじさまは立ち位置が不明瞭なので」
「まあうん、昔からそういう奴だからな」
「僕の大事なお客様を取り込まれてしまうのはちょっと許容できないので」
「……リョカちゃんはやっぱジークの子だよ、この国であの腹黒と真正面からやり合おうと考えられるのは、ジブリッドだけだからね。俺もたまにあいつが恐ろしい」
僕がニコと微笑みを返すと、ランファちゃんが複雑そうな顔をしている。
「レッヘンバッハ様、とても優しいですわよ」
「僕も優しいでしょう? つまりはそう言うこと」
「……納得できてしまうのが悔しいですわ」
「レッヘンバッハは昔からクセがありましたからね。一筋縄ではいかないのはミーシャさんも同じですけれど」
「実は極星の、しかもアストラルセイレーンの聖女の中にもレッヘンバッハさんの縁者が紛れ込んでいますからねぇ」
「手が広いなぁ。それを行動に移す胆力、行動に移せるだけの人員、財力、何をとってもただでは済まさないよねあの人」
僕はため息をつくと、ルナちゃんを抱っこする。
「しかも知らない女神様の加護を持っていますよね? ルナちゃんでもない、フィムちゃんでもない。あれは多分、聖騎士とかのギフトを与える女神様ですよね?」
「ただの一度の加護の使用でそこまで察せちゃいますか。ええその通りです。守護神・ルーファ、わたくしとテルネの同期、レッヘンバッハに騙されて加護を与えてしまったおっちょこちょいです」
「だま、された?」
陛下が頭を抱えて泣きそうな顔を浮かべていた。
まさか腹心が女神様をだましていたとは思ってもみなかったのだろう。でもあの人ならやりかねない。
「ああいえ、特に女神間で問題視しているわけではないので大丈夫ですよ。あれはそもそもルーファが悪いですし、彼女もあれにはしてやられたと笑い話にしているほどですから」
「……何やらかしたんだあのバカ」
このままだと陛下の胃がねじれてしまいそうだと、僕は用意しておいた書類を取り出した。
「それじゃあ少し気分を変えましょうか。陛下、こちらを」
「う~ん?」
僕は昨日の内にこの国での誕生祭に関してジブリッドが出来ることを纏めておいた。
そしてそれの費用や準備の期間、さらには使える力等々をわかりやすく記載し、陛下に許可を貰おうとこうして持ってきた。
というか、お父様もお母様も全く準備をしておらず、生誕祭1週間前にこれだけの提案をしてよいものかと悩んだけれど、まあ出すだけならタダだし、とりあえず目を通してもらおう。
「おおっ、今年はジブリッドが参加してくれずにスカスカになるかと危惧していたけれど、リョカちゃんがいてくれて助かったよ」
「……あの、本当に申し訳ありません。まさかお父様も何も準備していないとは」
「いや~、ジークもリーンと同じで、あまりこういう国の祭りには参加したがらないんだよ。よく言われるんだ、何故娘を出禁にされた日を祝わなければならないんだ。とね」
うん、うん……。まあ、自業自得だからそこは参加してほしかったけれど、あの人本当に僕のこと大好きだな。
「しかしリョカちゃん、こう言っちゃなんだけれど、これ時間足りるかい? いくつか建物も建てるってあるけれど」
僕は指を鳴らし、現闇から小さな家を建てる。
それを陛下があんぐりと見ており、僕は勝気な顔で笑って見せる。
「大工いらずなので」
「リョカちゃん王宮に務める気ない? 別に俺に忠誠を誓わなくていいからさ、とりあえずいてくれない?」
「まだまだ成人を迎えたばかりの乙女なので~」
本気で残念がっている陛下を横目に、ランファちゃんとルナちゃん、フィムちゃんも僕の計画書を覗いていた。
「ジブリッド総動員ですわね。これリーンさんから許可は得ましたの?」
「得るわけないでしょ。そもそもあの人部下とか作らないから、人を動かさないし権限もない。この件は昨日の内にお父様に許可はもらっているから好きなようにさせてもらうってだけだよ」
「リョカお姉さまは本当に働き者です。『13の円卓を囲む極星』で毎回どうやってリョカお姉さまを誘拐するか議題が上がるほどですし」
「僕がいなくても回るように調整したはずなので、まだまだ頑張れると伝えてあげてください」
「極星からそんなに頼られているのか、魔王といえども優秀な人材を手放すわけにはいかないな」
「あっ、でも今はジークランスさんがダンブリングアヴァロンを乗っ取っています」
「親子揃って何をやっているんだい?」
陛下の冷ややかな目を躱していると、ランファちゃんが思案顔を浮かべていた。
「わたくしが極星としてグエングリッターに赴く際、リョカさんかジークランスさんを連れていけば一瞬で信頼が得られるのでは?」
「それです!」
「フィリア~ム?」
「ぴぃっ!」
「……いやランファ、うちから優秀な人材を引き抜かないでおくれ。君1人いなくなっても大損害なんだからね」
「でもリョカさん、わたくしとスピカ――星の聖女様が本気で頼めば絶対についてきますわよ」
さもありなん。
こればかりは仕方ないと頷いていると、陛下が深刻そうな顔で何かつぶやいている。
「うちの娘を使いに出すか」
何か恐ろしいことを言っている。
確か姫さまは成人しておらず、僕たちの2つ下だったかな? いや1個下だったか。
王宮の情報が一切わからない。
「ま、まあ僕たちはまだまだ学生ですし、学生らしく楽しく過ごしますよ。将来の話はもっと先ということで」
「ん、学生や若い芽が健やかに育ってくれるのなら、私も王であることに意味を見出せるというものだ。ただ君たちは少し優秀すぎる。これからも頼りにさせてもらうよ」
僕たちは頷き、王都での大仕事に、ただただ胸を躍らせるのだった。




