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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
31章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都にてフラグを建築する。

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魔王ちゃんと忘却を暴く道

「落ち着いた?」



「……すみません、少し取り乱してしまいました」



「私も思い出しました。ウロトロス=マイザー、私の、極星――もっと大きな冒険をすると極星を返上、ギルドも閉じ大海原へ船だけで飛び出して行った人です」



「そして幾つもの魔王を倒し、さらには当時圧政に苦しんでいた、今では海上都市ともいわれるヴェルチアを開放、海の英雄と呼ばれていましたね」



 衛兵に案内された客室にて、ベッドに腰を下ろしながらルナちゃんとフィムちゃんが話し始めた。

 しかしウロ爺、いつもお酒を片手にふらふらしているだけの人じゃなかったのか。そりゃあギルマスだし、それだけの実力を持っているとは思っていたけれど、まさか女神様からも称賛されるほどの英雄だったとは。しかも極星か。



「そして海上でふらふらしていたところ、当時……先代のサンディリーデ国王――ゲイルグリード=ブッシュガーラが海賊に襲われているところに遭遇、国王を助け出し、そしてそのまま海の脅威をゲイルグリード指揮の下、次々と撃破、その功績が称えられ、サンディリーデ名誉騎士として迎え入れられ、先代が若くして死去した後、王宮から出てギルドマスターとしてギルドに務めた。という経歴を持っています」



「ウロ爺すっご! 僕ウロ爺の頭しょっちゅうペチペチしてたんだけれど」



「昔から気の良い人だったですから、きっとリョカお姉さまのことを気に入っていたんだと思います」



 しかしこれほどの大英雄をみんなして忘れていたのか。

 この忘却の力、やはり大分厄介だ。

 どうしたものかと頭を悩ませていると、扉をノックする音、首を傾げてどうぞと答えると、国王陛下がそっと部屋に入ってきた。



「陛下?」



「やあリョカちゃん、君の連れが具合を悪くしたと聞いてね、私が出向くことにしたよ」



「ありがとうございます。それとわざわざ申し訳ありません」



「いや大丈夫だよ」



 陛下はちらとルナちゃんに目を向けた後、フィムちゃんで視線を止めて首を傾げる。

 するとランファちゃんがコソと陛下に耳打ちをした。



「……なるほど、私はどういう態度でいたらいいんだい?」



「え~っと」



 僕はフィムちゃんに目を向けると、星神様はルナちゃんの腕を引っ張って抱き締め、可愛い笑顔で口を開いた。



「こんにちは、初めましてです。私はルナお姉さまの妹分ですので、どうかお姉さまと同じように扱ってくださいです」



「……わかった。フィリアム、さん」



「フィムですっ」



「うん、うん……フィムちゃん」



「はい!」



 元気いっぱいに手を上げるフィムちゃんに、陛下が苦笑いを浮かべるのだけれど、すぐに心配げな顔で何があったのかを聞いてきた。

 僕は少し悩んだけれど、これまでの経緯をしっかりと説明する。



「陛下、少しお手をよろしいですか? 多分、あなたにとっても大事な人の記憶です」



 そう言って、ルナちゃん経緯で僕の記憶を陛下にも見てもらった。

 陛下は徐々に顔色を青白くし、歯を食いしばった。



「ウロトロス――馬鹿な、俺が忘れていただと。父上の大恩人で、俺に一から外での生き方を教えてくれた人だぞ。リョカちゃん、一体何が起きてる?」



「まだ調査中です。本当なら陛下には聞きたいこともあったんですけれど」



「わかっている、イシュルミのことだろう? あいつも突然だったからな」



 そして陛下は一度ちらとランファちゃんに目をやった。

 その視線を受けてかランファちゃんは首を横に振った。



「構いませんわ。わたくしもサンディリーデに生まれた身、そして王と民を守る騎士の血筋、この国に何が起きているのか、それを暴く勤めがありますわ」



「よくぞ言ってくれた、ランバートも喜んでいると思う」



 陛下は力強く頷き、近くの椅子に腰を下ろした。



「しかしイシュルミ=テンダーか、あいつには申し訳のないことをしてしまったからな」



「というと?」



「イルミーゼ夫婦が殺された時、あいつは騎士団総出で黄衣の魔王を討ちに行くと言ったのだが、相手の強さと、さらに今ル・ラムダを拠点にしているあの魔王は、当時でもル・ラムダで大きな影響力を持っていた。騎士団が動くとなるとそれは――」



「国同士の戦争になりますね」



「ああ、だから私は、あの時彼らを止めることしか出来なかった。俺は友の死と国民を天秤にかけてしまったんだよ」



 陛下が顔を伏せると、ランファちゃんが否定した。



「いいえ陛下、あなたのその判断は間違っていませんわ。騎士は王と民を守る者、自らが戦いの火種になってはいけないのです。イシュルミだって、それはわかっているはずなのに」



「……ありがとうランファ、しかし惜しいな。君にはランバートを継いで騎士になってほしいほどなのだけれど」



 陛下がフィムちゃんに目をやると、星神様はランファちゃんにきゅっと抱き着き、ベッと舌を出した。



「あげませんよ~」



「もっと若い世代に目を向けるべきだったな。リョカちゃん周りは優秀な子が多くて羨ましいよ」



「いつかこの国に仕えるかもしれないので、その時はよろしくしてあげてください」



 陛下が肩を竦めて笑うと、思案顔を浮かべた。



「それでリョカちゃん、君はあまり大々的に動くつもりがないようだけれど何か理由が?」



「大々的に動けないのですよ」



 そもそも記憶をどうにかするとか、インチキ具合も良いところだ。

 そんな奴がバックにいるだろうことしかわかっていないのに、大きく動けば誰が犠牲になるかわかったものじゃない。



「敵は記憶をどうにかする者です。もし、大きく動き、敵に察知されたら、誰がどこで、どの記憶が消されるかわかりません。だから正直、ルナちゃんたちも手を引いてほしかったんですけれど……」



「リョカさん、それは聞けないです。というか、わたくし結構怒っているのです。わたくしたちのうかがい知れないところで、わたくしたちの人々がひっそりと消えてなくなっていく。今すぐにでも暴れだしたいくらいなのですよ」



「ですっ、リョカお姉さま、これは私たちの沽券にもかかわる問題です。今こっちにいる女神たち全員がこの問題を考え始めています」



「それは、頼もしい限りだな」



 陛下はそう言うけれど、正直ここまでになってしまった手前、彼女たちも手の打ちようはないだろう。



「いいえ、わたくしたちですら後手後手なのです。だから」



 ルナちゃんが僕に期待を込めたような目を向けてくる。

 だから僕は頷き、月神様を撫でる。



「ええ、任せてくださいな。それにこの黒幕、僕とは相反しますからね」



 忘れさせる? ふざけるな、僕は人々の記憶に残りたくていろいろやっているんだ。そんなアホみたいな力で邪魔されてたまるか。



「アイドルは記憶に残ってこそ。それは消すようなことをしている奴には鉄拳制裁ですよ。この事件、なんとか真相に辿り着いて見せるよ」



「……なるほど、頼もしいのはこっちか」



「はい、わたくし自慢の魔王様ですから」



「私も手伝います! 必要なことがあったら言ってくださいね」



 そうして決意新たに、僕はこの事件を調査を開始するのだった。

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