聖女ちゃんと今日のギルド(王都編)
「ミーシャ、今日も依頼に出るの?」
「出るわよ、他にやることないもの」
翌日、リョカは王宮に行くと言いランファとルナ、フィムを連れて朝早くから出かけていった。
ソフィアも今日は父親に呼ばれているとかでテルネと一緒に、家に帰っていった。
残されたあたしとアヤメ、セルネは昨日と変わらずギルドへと向かっていた。
「しっかしまさかギルドマスターが元副団長だったなんてね。全然知らなかったよ」
「……」
「ミーシャ?」
「リョカが何か気が付いたっぽいのよね」
「それな、昨夜も1人でどこかに出かけていたみたいだし、ご丁寧に女神の観測を避けていたみたいだしな」
「俺たちに言えないことかな?」
「どうかしらね、少なくとも殴って解決できることでないから、あたしを頼らないわけだし」
「それなら俺も役には立たないかなぁ」
この勇者も立派な脳筋に育ってきているのが窺え、あたしとしては大歓迎だけれど、リョカとクレインが頭を抱えそうではある。
するとアヤメが思案顔を浮かべており、あたしはこの子の頭を耳を巻き込んで撫でる。
「まっ、女神の観測は避けていたけれど、俺の目はごまかしきれなかったようだけれどね」
「それじゃあ何があったか知っているのね?」
「まあな、ただ妙なことにはなっているな。ミーシャ、セルネ、ウロ爺って知っているか?」
「? いいえ、聞いたこともないわね」
「俺も知らないかな」
「……リョカだけが知っている。女神すら知らない奴をどうして知ることができんだ?」
「あんたも知らないの?」
「そう、それが問題なんだ。しかもイシュルミを探ったところで黒幕は尻尾を出さないらしいしな」
「なんで? 殴ればいいじゃない」
「イシュルミも知らねぇんだとよ。あいつもその忘却を促した奴の記憶を消されているらしい」
「お手上げね」
しかしアヤメが思案顔を浮かべており、なにかと目をやるのだけれど、この子は首を横に振って何でもないと言った。
「あいつのことはあいつに任せるさ。今俺が出張っても役に立たないわよ」
「ここに集まったのは役立たず3人集ですね」
「はっ倒すわよ」
「女神が役に立つ事件が起きたら人類はもっと慌てるべきよ」
ケラケラ笑うセルネの頭を引っ叩き、今日も目の前に見えてきたギルドへ足を進めるのだけれど、ギルドの中に入った瞬間、まるで時が止まったかのように冒険者たちが動きを止めた。
またか。逃げるなと殴りかかったらこいつらはこの鬱陶しい視線を向けなくなるだろうか。
そんなことを考えながら受付に足を進めると、相変わらずカリンが事務作業をしており、あたしたちを見つけると顔を青くした。
「ひぇぇまた来たぁ」
「――」
「ぴぃっ!」
無言でカリンの頭を掴むと、相変わらず鬱陶しい鳴き声でわめき始めた。
すると階段からイシュルミ=テンダーが降りてきた。
「何事ですか?」
ギルドマスターの登場に、冒険者たちがそっとあたしに視線を向けてきた。
「……こんにちはミーシャさん、それとルーデルさん」
「セルネで良いですよ」
「というかあんたのところの冒険者はどうなっているのよ。脅威がやってきたのなら追い返すくらいの気概は持たせなさい。こんなのじゃ街が脅威に晒された時、役に立たないで終わるわよ」
「耳が痛いですね。確かにこのギルドはゼプテンに比べると意欲不足なのかもしれません――そういうわけです、もし彼女たちが気に入らないのであれば実力で排除しなさい。それが叶わないのなら黙って仕事してください」
そう言ってイシュルミはあたしたちに頭を下げに近づいてきた。
「不快な思いをさせてすみません。カリン、今日も彼女たちと同行しなさい」
「……えぇぇぇ」
「だからいらないって」
「そう言わないでください。こちらにも政治的付き合いはあるのですから」
「あんたが? 誰とよ、忘れられるんでしょ?」
「……銀色の魔王からは何か?」
「リョカは何も言わないわ。なら今は見逃してあげる、ただしもしあたしと、あたしの生きる道を遮ってみろ――」
あたしは全力の殺気を込める。
大気を揺らし、その圧が世界すら壊すような勢いで、声に戦闘圧をこれでもかと乗せる。
「その時は殺してやるわ」
「……さすが魔王の隣に並ぶ聖女だ。続けて同じことを言われるとは」
セルネが呆れ顔であたしの肩に手を置き、首を横に振った。
あたしは鼻を鳴らすと、机の下に引っ込んだカリンを引っ張り上げる。
「ミーシャそのくらいで。もう立ってる人誰もいないよ」
「軟弱ね。行くわよ」
カリンが持っていた依頼書を確認しながらあたしたちはギルドから外に出る。
ギルドの外にも倒れている人々がおり、踏みそうで邪魔だと思いながらも、今日はうっぷんが張らせる依頼だと助かると思いながら、あたしたちは歩みを進めるのだった。




