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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
31章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都にてフラグを建築する。

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魔王ちゃんと覚悟の副団長

 月も星も隠れ、深い深い黒が空を覆い、世界を照らすのは、女神が与えてくれた力の一端。

 私の世界の人工的な明かりとは違い、確かに超常的な光があちこちに付いたり消えたりしており、陽を歩く人々の時間は終わっていた。



 そんな闇の中、僕こと銀色をなびかせる魔王が、ただ1人王都の建物を伝い、夜の帳を飛び回っていた。



 別にここまでする必要はないけれど、どうしても確認したいことがあった。

 特に哀愁を覚えているわけではないけれど、そうでない(・・・・・)ことがどうしても許せなく、他人に僕の思い出を勝手に穢されたようで気分が悪い。



 だからこそ、僕はその繋がりを確認しに行く。



 冒険者ギルドを超え、ある程度進んだ路地、僕はそこで屋根に腰を下ろした。

 その路地は袋小路で、その先に道はない。それでも、その人物(・・)はそこに自ら足を運び、およそ息を吐いたのか肩が下がりゆっくりと振り返った。



「銀色の魔王、リョカ=ジブリッド」



「こんばんは、良い夜ですね。こんな遅くまで仕事なんて、よほどお好きなんですね? それとも、騎士団時代の癖ですか、元騎士団副団長殿」



「……私に何か用事が?」



「ええ、少し聞きたいことがありまして」



 敵意はない。僕の姿を見たからと言って多少の警戒はあるものの臨戦態勢にははいっていない。

 会話の余地があるのか、それとも取るに足らないと考えているのか、どちらにせよここで突然暴れられないのは僥倖だ。

 正直少しは剣を向けられると思っていた。このイシュルミ=テンダーという男は、僕が思っている以上に冷静な人間らしい。



「今日、僕の友だちが何人かギルドにお邪魔したようで、何か粗相はありませんでしたか?」



「ギルド員の1人が大怪我をしました。命に別状はありませんが、暫く復帰は無理でしょう」



「それは失礼しました。ところで、その聖女と一緒にいた子たちに見覚えは?」



「……カルタスとルーデルのところの子だろう。あとの小さな2人については知りません」



「あの子たち、僕から(・・・)あなたのことを聞くまで、あなたのことを覚えていなかったみたいですよ」



「噂の魔王様に名を知っていただけているとは光栄ですね。それともその情報取集能力はジブリッドとしての力ですか」



「さあどうだろうね」



 僕はしらばっくれてみると、薬巻を取り出して火を点す。

 動揺した様子はない。自分が忘れられているということを知っているのだろう。



「その忘却の力、どこで誰にかけられました? あなたの力ではありませんよね」



「……はて、何のことでしょうか? 私はただのギルドマスターです。カルタスとルーデルが私のことを覚えていなかったのは、騎士団以降、特に目立っていなかったからですよ」



 尻尾を出さないか。でもそれだと辻褄が合わない。

 彼はギルドマスターだ、本来ギルドマスターというのはそれなりに社会的地位があり、周囲にも認知される存在だ。でも彼は忘れられている。

 正直、それだけだったのなら僕もこうして動いていない。



 僕が今、イシュルミ=テンダーに尋ねたいのは彼のことではない。

 本来なら、その地位に就くにはある人間の許可が必要で、誰も彼もその存在を認知していないし、その人がどこにいるのかもわかっていない。



 だからこそ――。



「――ッ!」



 僕はそっと視線に殺気を混ぜる。

 イシュルミ=テンダーを睨みつけ、その事実を得ようと淡々と尋ねる。



「1つ答えろ。お前の前任、ウロ爺……ウロトロス=マイザーをどこへやった」



「……」



 高圧的に聞いてみたが、どうにも様子がおかしい。

 イシュルミ=テンダーは首を傾げ、何かを思い出そうとしているのか、深刻そうな顔で考え込んでいた。



「ウロ、爺……いや、私は」



「あなたまさか」



 彼の交友関係は知らない。

 どうしてこんなことになっているのかも推測も出来ない。だけれどどうにも、彼も彼が知らない想定外に巻き込まれているようで顔を伏せていた。



「……イシュルミさん、あなたはあなたがギルドマスターになった時のことを覚えていますか?」



「あ、ああ、覚えている。覚えているとも、私は、私は? 誰に、いやまさか、だが――」



「答えてください。あなたを巻き込んだ(・・・・・)人は誰ですか?」



「……それは言えない」



「何故ですか、多分だけれどあなた利用されているよ」



 しかしイシュルミは首を横に振った。

 恩のある人物か、それともそう言う制約なのか、力づくで聞いてみるかと考えると、彼が口を開く。



「私は知らない(・・・・)のだよ銀色の魔王」



「なんですって?」



「そう言う契約だ。私は私のことを闇に隠す代わりに、彼の情報の一切を頭から、世界から消されている」



 また厄介な契約を。いやそれより、そんなの最初からその相手にとってイシュルミさんは。



「良いんですか? 捨て駒にされますよ」



「構わない。私はその道を選んだ」



「……」



 僕は指先に魔王オーラを込める。



「今この場で私を殺しますか、銀色の魔王」



 僕はため息をつくと、魔王オーラを散らし立ち上がってイシュルミさんに背を向ける。



「いや、僕は正義の味方じゃないからね。悪いことをしているかも(・・)、なんて人にわざわざ時間を割かないの」



「……そうですか」



 けれど僕は一度振り返り、周囲に魔王オーラを展開しながら圧倒的戦闘圧をばら撒いて警告をする。



「ただ、もし僕の神域(・・)を穢すようなら容赦はしない。その時はその胴と首を切り分けてやるから覚悟しろよ」



 額から脂汗を流して聞き入っていたイシュルミさんを横目に、僕はその場からグリッドジャンプで飛び出し、夜の帳を駆けるのだった。

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