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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
31章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都にてフラグを建築する。

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魔王ちゃんと這い寄る影

「う~ん? 妙なことになっていますね」



「ルナちゃん?」



 僕とルナちゃん、ランファちゃんは一旦家から出て、とりあえず街をぶらつこうという話になった。

 夕食の準備は終わらせたし、あとはミーシャたちが帰ってくるのを待つだけだったから、久々の王都を満喫しようと思っていたのだけれど、ルナちゃんが少し考え込んでいた。



「いえ、こう女神でも把握できない人がポコポコ湧いてくると不安になりますね」



「カナデ以外にも?」



 女神様が把握できない者、つまりカナデ、というよりシラヌイだけれど、そんなポコポコと湧いてくるような人たちだろうか?



「アヤメはシラヌイかと疑っていましたが、どうにもそう言う感じでもないようで」



「シラヌイというと、カナデさんですか? そういえば最近見ていませんですわね」



「そうなんだよね。一体どこをほっつき歩いているやら――と、話を戻すけれど、そんなにたくさんいますか?」



「まあ、というか1人でもいるのが稀なのですけれど、どうにも女神の目を欺いている人が出てきましたね」



 確かに、何かする時、女神様の目というのはひどく都合が悪い。

 なんといっても見られているんだ、悪いことをすれば、こうして女神様に近いものに筒抜けになってしまう。



「誰か悪いことを考えていると?」



「まだわかりません。ただ相手が相手なので、そうではないと思いたいのですけれど」



「相手?」



「王都のギルドマスター、名をイシュルミというらしいです」



 すると話を聞いていたランファちゃんが顔を上げた。



「あの、それってイシュルミ=テンダーではないですか?」



「知っているのですか?」



「知っているも何も――元父の部下で、騎士団の副団長をしていましたわ」



「え?」



 ルナちゃんが思案顔を浮かべ、首を傾げており、なにか釈然としていないようだった。



「イシュルミ、イシュルミ=テンダー……ああ! 思い出しました。でも、どうして忘れて?」



「普通に目立っていなかったからでは?」



「目立っていなかったって。そりゃああなたに比べたら大抵の人は見劣りしますが、イシュルミはお父様の下でそれはもう、見事な働きぶりでしたのよ」



「ええ、ランバートと比べたら、実力的には劣ってはいましたが、それでもランバートが不在時の騎士団をまとめたり、有事の際は率先して解決したりととても有能な人材でした」



 それなのに忘れていたんだ。と、僕がルナちゃんを見るのだけれど、忘れていたことが相当納得できていないのか、体ごと顔を傾けていた。



「……なんだかちょっと、気持ちが悪いですね」



 顔色を悪くしたルナちゃんを抱き上げ、そのまま抱きしめてあやしていると、ランファちゃんが考え込んでいた。



「わたくし、会ってきましょうか? 何かわかるかもしれませんし」



「う~ん、わざわざ藪を突っつくのもなぁ。ねえランファちゃん、そのイシュルミさんって人は何か起こすような人?」



「いいえ、騎士団の副団長だった人ですわ、不義を働くはずはありませんわ」



「そっ、なら放っておいてもいいでしょ。何といってもここには魔王と勇者しかいない、そんで勇者が大丈夫だって言ったんだ、魔王の僕が出張る理由もないでしょ。女神様に関してはまあ……そう言うこともあるってことで、お菓子食べに行こう」



「……そうですね、釈然としませんが、確かにリョカさんの言う通りですね。ランファさんの言う通り、イシュルミはとても優れた騎士でした、忘れていたのも最近は活躍していなかったからですね」



「そうそう、あんまり深く考えないでさ、今日はとにかく最近の疲れを発散するようにのんびりしようよ」



 ルナちゃんとランファちゃんが頷いて、やっと笑顔を浮かべてくれた。

 そんな彼女たちに僕は笑顔を返す。



「……」



 そんな優れた副団長が、どうして今ギルドマスターなんてやってるんだ? そして、それに関する記憶が、ルナちゃんだけでなく、多分ランファちゃんからも抜けている。

 その人物に関する記憶ではない。



 多分、抜けているのは別の誰かの記憶だ。

 そのせいで、それと関わっていただろうイシュルミさんの記憶が全体から薄れている。



 そもそもそんな有名人が、ギルドマスターになったというだけで本来なら大事件だ。

 しかしそこに関しての過程が誰も彼も抜けている。



 これは……少し調査しつつ、誰かと記憶の共有をするべきだろうな。



「リョカさん?」



「う~ん? ああごめん、街だとどこが美味しかったかなぁって」



 僕は気取られないように努めて普段通りにルナちゃんに微笑み返した。

 女神様は頼れない。多分誰も覚えていないだろう。



 厄介ごとにわざわざ首を突っ込むつもりはないのだけれど、場所が場所なのと、時期が時期だ。

 少し警戒しておくことに越したことはない。



 せっかくの休暇だったのになぁ。

 僕はため息をつくと、この何とも不気味な、それでいてなにか嫌な予感に、肩を竦ませるのだった。

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