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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
31章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都にてフラグを建築する。

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聖女ちゃんと胡散臭いギルドマスター

「何というか、生誕祭に関する依頼ばかりね。もっとまともな依頼はないの?」



「ふぇぇ~、国に貢献できるまともな依頼ばかりですよぅ」



「レッヘンバッハ暗殺依頼とか――」



「そんなものあったらギルドが潰されちゃうですよぅ。というか自分の父親ですよねぇ」



 さっきから一々泣きわめく職員が喧しく、これならマナの鬱陶しいほどの依頼のことを聞いてくるあれの方がまだマシだ。



「お前あんまりイジメてやんなよな」



「勝手に泣き喚いているだけでしょう。あんた名前は?」



「ふぇ? あたしは、かり……カリンです」



「そう、それならカリン、あたしは何もあんたに危害を加えたいわけじゃない。依頼を受けたいの。出来れば魔物や強敵と戦える依頼を受けに来たの。わかるわね?」



「はい~」



 プルプルと震えながらカリンが席を立ち、泣き顔のまま依頼書の前をうろうろしていた。

 そうしてあたしが頭を抱えていると、セルネが彼女を見ていた。



「親近感湧くなぁ」



「……お願いだからあたしの前であんな情けない姿晒さないでよ」



「でもなんだか感慨深いですよね。初めて私がリョカさんとミーシャさんと依頼を受けた時は、私があんな感じでびくびくしていましたもの」



「俺、入学当初のソフィアを覚えているけれどさ、まさかこんな化け物になるなんて思わないじゃん」



「……セルネ様、女の子に向かって化け物はひどいと思いますわ」



 ニコと笑みを浮かべるソフィアからは確かな殺気が漏れており、セルネは冷や汗を流した顔を逸らしていた。



 そんなことを話しているとカリンが鳴き声を上げ、メソメソとしだした。



「ひっぐ、えぅ……ないよぅ、依頼ないよぅ」



 あの頭引っ叩けば少しはまともな依頼が出てくるかしらと、彼女に近づこうとすると、あたしは足を止め、ギルドの階段に目を向けた。



 そこからどうにもうっすらとした印象の男が現れ、あたしたちに目を向けてきた。

 しかしふと、アヤメとテルネが首を傾げており、何だと疑問を抱くが、その男がのそと近寄ってきた。



「あっ、ギルドマスター――」



「カリン、泣いていては仕事は出来ないでしょう。()に討伐依頼が幾つかあったでしょう? それを出しなさい」



「あっ、は、はい~」



 そうしてカリンが階段を上がっていくと、ギルドマスターと呼ばれた男がニコリと笑みを向けてきた。

 うすら寒いその笑みに、あたしは殺気を放ちながら男に向かって口を開く。



「あんた随分と臭う(・・)わよ」



「……不躾な聖女様ですね。いや、それ故にその高みに至っているのか」



「どこに至っていると勘違いされているのかは知らないけれど、少なくともその臭いは気に喰わないわね。あんた、一体何人殺してきたの?」



 あたしの言葉に、ソフィアとセルネが身構える。

 しかしアヤメが驚いたような顔であたしの前に出てきた。



「お前シラヌイか?」



 するとその男は少しだけ驚いたような顔でアヤメを見た後、首を傾げた。



「はて、私はあなたに見覚えがないのですが、ですがそうですね。私はそんな名前を知りませんよ」



「……そう、知り合いと少し雰囲気が似ていたものだから、こっちの――あたしの妹が間違えちゃったのね。まだ成人前の子の妄言よ、忘れなさい」



「そのようですね」



 あたしはアヤメとテルネを背中に隠し、男から距離をとる。



「そっちで待たせてもらうわ。カリンに早く持ってくるようにあんたも手伝ってきたらどう?」



「……ではそうさせてもらいます」



 男があたしたちに背を向けるのだが、あたしはその背に向かって口を開いた。



「そう言えば聞いていなかったわね。あんた名前は?」



「失礼、私はイシュルミ=テンダーと申します。以後お見知りおきを」



「そう、ミーシャ=グリムガントよ。暫く厄介になるわ」



 イシュルミと名乗ったギルドマスターを横目に映しながら、あたしは警戒を解くことなく、アヤメとテルネを奴から離すためにギルドの端へと脚を進ませる。

 するとセルネがあたしの顔を覗いており、ソフィアと彼にコソと告げる。



「あの男と1人で会わないこと、良いわね」



「ん、ミーシャがそう言うのならそうするよ」



「……父に頼んで少し調べますね」



「よろしく」



 そうして少し待っていると、ドタドタとカリンが階段を滑るように降りてきた。



「みつけました~っ!」



 あたしたちは彼女に近寄ると、2階の手すりからイシュルミが顔を出し、あたしたちに手を向けた。



「ああそうだカリン、いくらなんでもグリムガントのご令嬢を何の支援も出さずに依頼に出してはギルドの沽券にかかわる。君が支援しなさい」



「――? えぇぇぇっ!」



「いらないわよ」



「ギルドもグリムガントは恐ろしいのですよ。まあ支援といってもただついて行かせるだけです。邪魔にならないので、どうかこのギルドのためと思って聞き入れてください。もし聞いてくれるのであれば、本来は信頼する冒険者にだけ回す秘蔵の依頼をあなた方に回しますよ」



「……まあいいわ。あたしたちは何もその子に関与しないわよ。それでいいのね」



「ええ、逃げるだけならカリンも中々のものですから」



 呆然とするカリンを残し、イシュルミは奥に引っ込んでいってしまった。

 あたしはため息を溢すと、彼女から依頼書を奪い取り、その内容を眺め、セルネに手渡す。



「行くわよカリン」



「え、あ、え? ほ、本当について行かなくちゃですかぁ?」



「決定事項よ。さっさと準備なさい」



 そうしてポロポロと涙を流すカリンを引っ張り、あたしたちは依頼へと出かけるのだった。

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