魔王ちゃん、ダンジョン探索に意気込む
「さて、準備も終わったし、今から遺跡に向かうけれど何か質問ある人はいる?」
「さっさと殴りに行きたいわ。どれくらいかかるのよ」
「え~っと、ここから半日くらいかな。ミーシャもカナデも、移動の時くらいは大人しくしててね」
「わたくし結構大人しめですわ」
「どの口が言うんだ、巻き込まれる側の気持ちも考えてくれ。リョカ、正直俺とカナデはこういう冒険もしたことがないし、準備を任せっきりにしておいてなんだけれど、そもそも何を聞けばいいのかもわからないんだ」
シュンとするセルネくんを撫で、少し考え込む。
確かにいきなり依頼に連れてきてしまい、しかもそれがダンジョン探索となるとそれなりの心得が必要になる。
「そうさね、とりあえず遺跡って言うのを知ることからかな。一般的な遺跡っていうのは、まず1に魔物の巣窟になっている場合がある。その2、1日では回りきれないほど広いことがある。その3、強力なギフトによって生成された罠が設置されていることがある。その4、強い敵が出ることがある。等々のetc。正直挙げだしたらキリがないかな」
「それは……危険な場所という認識で良いのか?」
「うん、どれだけ準備をしてもし足りなくはあるね。予算に限りもあるし、その上でどれだけみんなで色々なことに対応できるかが鍵になってくると思う。だから、遺跡のことを知る以外には同行者の能力を知っておくことも大事かな。僕は探知や回復、雑魚散らしを担当出来るけれど、あんまり硬いとちょっと火力不足かな」
「あたしは火力しか出せないわよ」
「精霊はあんまり酷使するとへそを曲げてしまいますわ」
「聖剣はある程度長時間使えるけれど、俺の体力が持つかがわからないかな」
「それならセルネくんと僕で雑魚を担当して、ミーシャとカナデに大物を担当してもらうとか? まあミーシャに関しては僕の方で何とかすれば雑魚にも対応できるかな」
「何だか、リョカに頼りっきりになってしまうな」
申し訳なさそうに顔を伏せたセルネくんだけれど、うちの猪担当の2人が胸を張るのが見える。
「出来ないものは出来ない。出来る奴に頼ればいいのよ。それが嫌ならあんたが出来るようになりなさい。あたしは殴るだけよ」
「そうですわっ! どんな強敵が現れようともリョカには手出しさせなければ良いんですわっ」
「まあ、これに関しては2人が正しいね。出来ないことがいきなりできるようになるわけじゃないし、セルネくんも自分が出来ることに集中すればいいよ。頼りにしてるよ」
顔を赤らめて頑張ると言ったセルネくんはやはり小動物気質である。
というか最近、周りの男の子たちが随分急接近しているような気がする。私は男だったけれど、リョカである時間が15年続いたからか、あまり抵抗がなくなっているような気がする。
色恋沙汰を否定するつもりもないし、みんなが僕のことを好きでいてくれるのであればやぶさかではない。という結論に至る。
「それに僕も試したいことがあるからね。のんびり。とはいかないけれど、程々の緊張感で挑もうよ」
全員が頷いたのを見て、僕はあることを思い出して手を叩く。
「ああそうだ、遺跡に行く前に腹ごしらえをしちゃおう。最後にするつもりはないけれど、遺跡によっては数日凝ったものを食べられないかもしれないからね」
「あんた毎回依頼に行く前は食事を提案するわよね。ギルドの連中も、最近あんたのご飯がないとやる気出ないとか言ってたわよ」
「え、リョカの手作り?」
「セルネ知らなかったんですの? リョカの料理は絶品ですわよ」
喜ぶカナデの傍で、セルネくんが思春期男子をまんまにしたような控えめだけれど、絶対に僕の料理がほしいという意思を感じる瞳でこっちを見ていた。尚距離は取っている。
「いつも通り余分に作っているからみんなで食べよう。それにこれは願掛けでもあるからね、依頼が終わったらまたみんなで食べようねって」
「当然でしょう。あんたが作らなくなったら一体あたしは何を食べていけばいいのよ」
「ミーシャはもう少し料理出来るようになろうね。まるまる火にぶち込むだけじゃ料理は出来ないんだよ」
「最近は果物を握り潰せば飲み物が出来ることを知ったわ」
「わたくしも最近、葉っぱは生で食べられるものがほとんどだと知りましたわっ」
「食べられないものも多いから絶対に葉っぱ食べる時は僕に確認してね」
「……リョカの、料理」
「セルネくんにもちゃんと食べてもらうから、そんな欲しがりな眼でずっと見つめないでね」
このメンバー、本当に大丈夫だろうかと多少の不安を覚えるも、みんな楽しそうだから良いかという結論に至る。
「とにかく、とりあえずお腹を満たして元気よく、慎重に、楽しむ気持ちは忘れずに、責任感を持って依頼に臨むよ。わからないこと、不安やちょっとした違和感は逐一報告するように。協力して依頼を達成するよ」
カナデが「おーっ」と、元気よく返事をし、僕は街にあるオープンテラスの喫茶で、店主に許可を貰って持ってきたお弁当を広げる。
思いがけず旅の仲間が増えたけれど、このメンバーならそれなりに大丈夫ではないかと言う確信がある。我ながら能天気な思考だが、こうやって学友と冒険者をすることに少しの憧れがあったのだろうと納得する。
僕にとっても初めてのダンジョン探索、どうか全員が無事で戻って来れますように。と、僕はルナちゃんにもらったネックレスを握り願うのだった。




