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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
30章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、やっと王都に行く。

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魔王ちゃんと良き国と妹たち

「さて、わたくしどもの現在の状況については今お伝えした通りになります。それで陛下、私たちを招集した訳を聞かせてもらっても宜しいでしょうか?」



「っと、そうだった。とはいえ正直な話、大したわけではないんだ。ジブリッドから魔王が出た、その魔王があちこちで事件の中心にいる。一国の王としては、噂の魔王様がどのような人柄か知っておきたかった。というところだ」



 僕は陛下の視線を浴びながら、両手でカップを持ち、揺れる紅茶に目を落としながらそのまま口に運んだ後、一切目を合わせずに口を開く。



「もしくは、この国の敵になりうるかを確かめたかった。ですか」



「……そうだね、それも重要だ。私たちはつまるところ、安心が欲しいわけだ」



「なるほど」



 お母様の手前だからか随分と言葉を選んでくれている。それと幼い頃の僕を知ってくれているというのと、お父様への信頼がなせる業なのか、随分と好意的だ。

 ならば僕もそれに応えなければならない。

 正直お国のためだとか、そんな都合のいい考えは持っていない。国王陛下からすれば、そんな話は聞きたくはないだろう。

 ならばこそ、今一番の安心を促せる材料は――。



 僕は隣に座るルナちゃんをそっと抱き上げる。



「陛下、僕の妹、とても愛らしくて可愛いと思いませんか?」



「ん? ああそうだね。正直な話、それが可能であったのならジブリッドより先に俺が立候補していたほどだ」



「絶対に離しませんからね~」



 ぎゅっと軽く抱きしめると、ルナちゃんがきゃっきゃと抱き返してくれた。



「陛下、お父様から話を聞いているかもしれませんが、わたくしは可愛いものに目がありません」



「ああ、リーン以上だと聞いている。可愛さが絡めば平気で戦争すら引き起こしかねないとな」



「ええ、可愛い子のために、グエングリッターでは魔王にも喧嘩を売りました。フィムちゃんという可愛い子を泣かせ、その姉妹のように仲の良い親友を穢し、星すらも穢した大昔の魔王、ミルド=エルバーズ」



「グエングリッターの星神様……しかも相手は魂壊の魔王か。つまり君は、この国でもそんな騒動が起こるかもしれないと?」



「いえ、グエングリッターでは、そのフィムちゃんが可愛くて可愛くて……国を愛していました」



「とても良い子なのだな」



「ええ、それで陛下、話を戻すのですが、ただの言葉では信頼など得るのはとても難しいでしょう。ですが、わたくしはただ1つ、これだけは曲げない。そしてその曲げない信念の言葉であれば、陛下にも納得いただけるかと」



「……ふむ、聞こうか」



 僕はルナちゃんをさらに強く抱きしめ、そして陛下にも、ベルギンドさんにも、そして何故か顔を赤らめているセルネくんを超えてラスターさんにも今浮かべられる最大の笑みを浮かべ見せつける。



「わたくしは、わたくしの妹たちを悲しませることは金輪際しないと誓っております」



 僕の宣言に、ルナちゃんはとても嬉しそうにしており、アヤメちゃんはミーシャを指差して何故か悲しそうな顔を浮かべ、テルネちゃんはお茶を飲みながらも微笑みを浮かべていた。



 そしてこれを聞いた陛下が体を震わせ、クツクツと笑い始めた。



「あ~うん、なるほどなるほど、これは効く(・・)な。おいリーン、ジブリッドは安泰だな。この場で見事に俺を納得させたぞこの娘」



「あなたがルナたちに牙をむけば滅ぼすと言っただけでしょう?」



「するかボケェ! お前俺をなんだと思っているんだ。それと怖い解釈しないでくれないか」



 お母様がはいはいと口を閉じると、陛下が僕の目を見据えた。



「それなら俺の答えはこうだな。ならばその期待に添うように、私はこの国を、民を、愛し続け、良き国をいつまでも目指そう。と」



 お茶目にウインクする陛下に、僕は口を手で覆いながら上品に笑って見せる。

 何とも信頼に足る国王陛下様だ。お父様やお母様がこの国を何があっても見捨てないのも頷ける。



 その場にいるソフィアもセルネくんもランファちゃんも、僕の言葉に満足したのか、とても喜んでいるように見えた。

 しかし幼馴染は違った。

 首を傾げていた。

 頼む、余計なこと言わないでくれ。



「あたしはアヤメを平気でぶん殴るわよ。そして邪魔だったのなら平気で国も更地にするわ」



「……」



「……」



 せっかくまとまった話、和やかな空気が流れていたはずなのに、聖女の一言でお偉方たちは口をつぐみ、レッヘンバッハのおじさんは爆笑し、お母様はうんうんと頷き、アヤメちゃんは涙目で抱き着いてきた。

 僕はルナちゃんを下ろしアヤメちゃんを抱き上げて、スタスタとミーシャの傍に近寄ると、その頭を思い切りはたく。



「ちょっと黙ってようか」



「イヤよ。女神だろうが王だろうが関係ないわ。あたしはあたしの進む道を遮るすべての顔面を歪ませるだけよ」



「おい聖女! 頼むから黙ってろよ!」



 ミーシャの柔らかい頬を内側に押し込みながら黙らせ、僕は陛下に苦笑いを向けた。



「ハハっ、その、こちらの聖女様はその、こう言っていまして、例えどのような障害があろうとも、聖女としての役目を全うすると」



「大分好意的に纏めましたわね」



「むしろ歪曲してない?」



「ミーシャさんは女神様の力を奪えるほどですからね」



 ソフィアのリークに、陛下たちが震えた顔で僕に目をやってきたけれど、とりあえず首を横に振っておいた。

 そして僕は手を叩き、陛下に提案する。



「あ、あ~そうです! せっかくですので、生誕祭についての話し合いに参加させていただけないでしょうか? お母様は多分役に立ちませんし、お父様の代わりに僕頑張っちゃいますよぉ」



 そうして無理矢理だが、僕が生誕祭を仕切ると言う代償を払うことで事なきを得ようと試みるのだった。

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