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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
30章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、やっと王都に行く。

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魔王ちゃんと王のご前

「はい、落ち着きましたか? それじゃあ状況を確認していきましょう」



 僕はトイボックスからお茶を取り出し、立っている僕以外の席に座っているミーシャやルナちゃん、ソフィアなどの僕たちの関係者にお茶をグリッドジャンプで飛ばして渡す。

 そして全員を順番に見渡すと、そのまま笑顔で話を始める。



「まずは陛下に謝罪を――突然の来訪、母に代わり謝罪します。それと今陛下たちは生誕祭についての話し合いをしていると察しますが、母はここに来るまでそれについて忘れていましたので、今はその話は出来ません」



 陛下がジトっとお母様を見たけれど、肝心の母はどこ吹く風と全く意に介していなかった。

 ため息をついた陛下が一度手を上げ、僕に目をくれたから、頷き返す。



「纏めてくれてありがとうリョカちゃん。こうやって話すのは大分久々だけれど、随分と落ち着いたね。その調子でこのままお願いしてもいいだろうか?」



「はい、そのつもりです」



「それなら、私たちにもお茶を貰ってもいいかな」



「陛下――」



 セルネくんのお父さん――ラスター=ルーデルさんが咎めるような視線を向けた。

 しかし陛下は首を横に振る。



「弁えろラスター、今目の前にいるのは不死者から我が国の学園を救い、さらにグエングリッターの騒動を収めたジブリッドの魔王だ。言動を誤るな」



 あら意外と高い評価。

 僕はみなさんにお茶と菓子をグリッドジャンプで飛ばし、笑顔でどうぞと促す。



 陛下が何の疑いもなく茶を口に運び、小さく頷くと、ベルギンドさんも続き、渋々といった風にラスターさんが続いた。

 ミーシャパパは送った瞬間にがぶ飲みして菓子を頬に詰め込んでいた。



「うん、流石に美味いな。ジブリッドの菓子のほとんどはリョカちゃんが開発していると聞いたが、なるほど納得だ」



「お気に召していただけたようで何よりです。それでですが陛下、私たちは陛下からの招集がかかったと聞き、こうして赴いたのですが……」



 僕は肩を竦め、陛下に頭を下げる。



「こちらに足を運べない理由があったにせよ、その一報を入れることすらしなかったこと、本当に申し訳ありません」



「いや、どうせリーンが忘れていただけだろう。そのことで君たちを咎める気はないから安心してくれたまえ」



「陛下の温情、感謝いたします」



 僕が深く頭を下げると、陛下がもう一度手を上げ、話を止めるとそのままお母様に向かって口を開いた。



「どんな教育を施した? 暴力はいかんぞ暴力は」



「……」



 暴力一択と断言されている辺り、お母様に大分陛下も苦戦しているのだろう。

 そんな陛下はお母様からの睨みを躱し、フッと肩から力を抜いた。



「うん、素敵な淑女になっているようで安心したよ。立場上リョカちゃんを王宮出入り禁止にしたけれど、君の話はいつもジークから聞いていたからね。まあこんなむさくるしい場だ、君も親戚の叔父にでも会いに来たと思って楽にしてくれ」



「はい、ありがとうございます」



 そうやって微笑みを浮かべると、ソフィアのお父さん、ベルギンドさんが興味深そうに僕を見ていた。



「娘から話は聞いています。ジブリッドの魔王、どのような女傑が現れるのかと身構えておりましたが、ソフィアの言葉通りの、素敵な友人のようで」



「ソフィア様にはいつもお世話になっておりますわ。学園3強の1人と言われながらも、その知識は深く、前に進む意欲は人一倍、誰よりも思慮深く、わたくしもいつも頼ってしまいますわ」



「さん、きょう?」



 ベルギンドさんがソフィアに目を向けるけれど、彼女はさっと顔を逸らし、隣に座るテルネちゃんにお菓子を手渡していた。

 お菓子を受け取ったテルネちゃんが、ベルギンドさんに向かって口を開いた。



「ソフィアには私から加護とギフトを与えました。これからさらに伸びるので、期待していなさい」



「……加護、ギフト?」



「補足しますと、数百年ぶりの叡智神様からの加護、今扱えるギフトもすでに名前すら忘れられていたとても貴重なギフトですので、叡智の信仰を集める手助けをしてあげるのが良いかと」



 頭を抱えたベルギンドさんだったけれど、すぐにランファちゃんに目を向けた。

 流石に立て直すのが早いな。



「ランファも、良い影響を受けたようだね」



「ええ、まあ、はい。一緒にいて飽きないですわ」



「良い顔つきになった。こんなことを言うべきではないかもしれないが、復讐だけに身を置く君を心苦しく思っていたんだよ」



「……ありがとうございますわ。そうですわね、今は別の道も見つけられましたわ」



 ランファちゃんを優しげな瞳で見つめていたベルギンドさんが、満足げに頷いた。

 するとレッヘンバッハのおじさんが愉快そうに笑う。



「ランファちゃんは極星になったんだよね? ジークから聞いたよ」



「きょく、せい?」



 感極まっていたのが一変、ベルギンドさんが体を震わせてランファちゃんに目をやった。

 反応が一々面白いおじさんだなと僕が感心していると、陛下も初耳だったのか、レッヘンバッハのおじさんに目を向けた。



「星神様に見初められたんでしょ? 確かリョカちゃんも一応極星なんだっけ」



「はい、13番目の席に座らせてもらっています」



「失われた13番目を開放するとはやるねぇ。そりゃあ星神様もリョカちゃんのことを気に入るわけだよ。今君の手が、いやぬいぐるみと言った方がいいのか、それが及んでいる女神様は2柱だったかな?」



 ニヤニヤとした目を向けてくるレッヘンバッハのおじさん、全部把握済みか。相変わらずやりにくいと言うか、こっちの味方をしてくれているのか、中立なのか判断に困る御仁だ。



 陛下やベルギンドさん、ラスターさんがどういうことだと首を傾げる中、僕は少しの圧を忍ばせようとすると、おじさんに向かって伸びる拳1つ――。



「ぐえぇぇぇっ!」



「なに? あたしとリョカのやり方に何か文句とケチでもつけるつもり? いくらクソ親父といえどもその頭握り潰すわよ」



「待って、待って! ミーシャたん攻撃力上がったよね! パパ今の一瞬でとっておき切っちゃったんだけれど! 今日これから襲われたら身を守れないんだけれど!」



 今一瞬、ミーシャの拳から放たれた攻撃がなかったことにされた(・・・・・・・・・・)。ギフト、いや加護か。衝撃も何もかもが消えていった。



「震えて眠りなさい」



「実の父親に言う言葉がそれ! でも可愛いから許します」



 陛下が驚いた顔をしていたから、僕はそっと目をやり耳を澄ませる。



「あれ、昔はもっと大人しくなかったかあの子。あれ? もしかして今最も怒らせちゃいけないのはあっち?」



「……陛下、グリムガントのご令嬢はわたくしの母に傾倒しておりまして、言動思想が似通ってしまいましたわ」



「嘘だぁ! やだやだリーン2人とか手に負えない、ジークぅ! 早く帰ってきてぇ」



「あ?」



「は?」



 顔を両手で覆った陛下を睨みつける幼馴染とお母様の腕を僕は取り、2人の口にお菓子を放り投げた。そして大人しくなったところで僕が肩を竦ませると、この国の最高権力者が物凄い期待を込めた目を向けてきた。



「リョカちゃん、これからのジブリッドとの取引には君を呼ぶよ」



「……え~っと、父がいない時の代理でよろしければ」



「やったぁぁ!」



 お母様ぇ。普段一体どんなやり方で陛下を追い詰めているのやら。

 そして僕はルナちゃんとアヤメちゃんに目をやる。2人ともいい子に座っており、美味しそうにお菓子を食べているけれど、僕が2人に目をやると、小さく頷いた。



「ああそれと陛下、1つご了解いただきたいことがあるのですが」



「ん、なにかな? 流石にまた銅像壊して歌いたいっていうのは――」



「違います違います。えっと、こちらの2人についてです」



 僕は2人を抱き上げ、陛下に近づく。



「陛下、こちらはルナ=ジブリッドとアヤメ=ジブリッドです。わたくしの妹で、ジブリッドの末っ子です。先ほど陛下はどういうわけだか慌てていたみたいですが、この2人は、わたくしたちの可愛い跡取り娘でございます」



「……え~っと」



 僕が陛下をジッと見つめていると、彼はわざとらしく肩を竦め、僕の可愛い妹2人に手を伸ばして撫でた。



「ジブリッドはわが国でもとても重要な位置にある商家だ。これから先困難もあるだろうが、どうかこの国のためにもジブリッドをよろしく頼む」



「はい、わたくしたくさん勉強して、陛下のためにも頑張ります」



「あ~、俺には期待すんなよ。のんびり楽して暮らせればいいからな」



 ウインクをしながら言うルナちゃんに陛下が苦笑いを浮かべ、アヤメちゃんにこそっと、俺も。と答えていた。



 とりあえず、僕たちの状況についてある程度話せたかな。と、僕は安心する。

 さてあとは陛下からの招集の理由と、それとお母様が忘れていた生誕祭についてもやってしまおうかと、僕はルナちゃんとアヤメちゃんを席に戻すと、僕はやっと腰を下ろすのだった。

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