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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
30章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、やっと王都に行く。

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聖女ちゃんと氷の後悔

「あれ? ということはリョカは王宮に入れないんじゃない?」



「確かにそうね、おばさんリョカは王宮を出禁になっているのですよね? それなのに呼ばれて――おばさん?」



 セルネが疑問を口にしたのだけれど、確かに今の話だとリョカは王宮に入れないことになっている。それなのに呼ばれたのは何故かとおばさんに尋ねようとしたけれど、そのおばさんは隣に座っているセルネをジッと見ていた。



「……」



「う~んと、あの?」



 ジッとセルネを見ていたおばさんの瞳が鋭くなり、まるで氷のような冷たく鋭い視線を浮かべながら、セルネの耳元にそっと顔を近づけた。



「うちのリョカとの関係、それとミーシャと夜を共にしたという話について、あとでお話ししましょうねセルネ=ルーデル、ラスターにやるように情けも容赦もしないから覚悟しておいてください」



「――」



 セルネの顔からサッと血の気が引いて行き、体をプルプルと震わせたまま、体の動きを止めた。

 あたしはそんなセルネを横目にお茶を一口。



「愛されていますわね」



「ん」



「でもミーシャさん、本当にリーン様を尊敬していらっしゃるのですね。雰囲気がそっくりです」



「レッヘンバッハ様もシャーラ様も、どちらかといえばポワポワ寄りですものね。どうしてこんな獰猛な方がグリムガントなのかと思えば、リーンさんの影響だったのですわね」



 するとおばさんが向かいに座るランファとソフィアを一撫でして、小さく頷いた。



「ミーシャはリョカと違って聞きわけが良かったですからね、つい甘やかしてしまうことが多かったのですよ。その結果尊敬に結びついたのなら、こんなに嬉しいことはありませんね」



 おばさんに撫でられ、ついあたしも頬を綻ばせてしまう。



「というかリーン様って、もしかしてリョカさんと同じで――」



「可愛いもの好きよ。まあリョカほどではないけれど、リョカが好む可愛い子は大体おばさんも好き」



「親子ですわね」



 首を傾げるおばさんをよそに、しみじみと頷いて見せたソフィアとランファ。

 こういう日常会話もしてたいけれど、今日は用事があってここに来たことを思い出し、あたしはおばさんに目を向ける。



「リョカからの伝言です。一字一句そのまま伝えますね」



「ちょ――」



 のほほんとしていたランファだったけれど、飲んでいたお茶を噴き出しそうになりながら腕をあたしに伸ばしてきたけれど間に合わず、あたしは口を開いた。



「この脳筋お母様、ヒゲって言われてもわかるわけないじゃないか。いつもそうやって言葉足りないから氷だとか、お前の母ちゃんアイスピックとか、存在そのものが氷河期とかって言われることを愛娘が想像しちゃうでしょ。とのことで、王宮に行くことを伝えてほしいと」



「……そう。ミーシャ、王宮にはジブリッドから脚を出すから、今日はうちに泊まりなさい」



「リョカにも伝えておきます」



 部屋の温度が大分下がったけれど、あたしはしっかりと伝言を伝えたつもりだ。文句を言われる筋合いはない。



 するとおばさんがソフィアとセルネ、ランファにも目を向けた。



「よかったらあなたたちも一緒にどうですか? せっかくですし、両親に顔を見せたらどうです?」



「よろしいのですか?」



「ええ、人数が増えても誰にも文句は言わせないわ。それにその方がリョカもミーシャも喜ぶでしょうし」



 ソフィアとセルネが顔を見合わせて頷こうとしたが、ランファに目をやり、どうにも戸惑ってしまっていた。



「……あの、わたくしは――」



「ランファもよ。あなた前に見かけた時より、とても清々しい顔をしているもの。今のその顔をちゃんと2人に見せなさい」



「あぅ」



 顔を伏せてしまうランファに、おばさんが肩を竦ませた。

 そして彼女が珍しく物悲しげな顔を浮かべると、そっとランファを撫でる。



「……きっとあたしは、あなたに謝らなければならないですね」



「どうしてですか?」



「たらればの話になるけれど、あたしなら2人を守れた」



「……」



 またそういう話か。

 グエングリッターでも何度も聞いた話だ。あたしがため息をつくと、おばさんが目を向けてきた。



「自分が一緒なら助けられた。グエングリッターでも聞きました」



「どうせアルフォースでしょう? あの子は特にそうでしょうね。でもねミーシャ、あたしはそういうことを言いたいのではなくて、もし恨むのであれば、あたしを恨んでほしいと言っているのですよ。黄衣の――あんな腐れ魔王なんて恨んでくれるより、そのほうがずっと安心できる」



 おばさんはランファをさらに優しく撫で、後悔したような顔で息を吐いた。それほど彼女にとってランファの母親は大事な人だったのだろうか。



「勝手なことを言ってごめんなさいね。でも、どうしてもそんなことを考えてしまうのよ。2人が遺したせめてあなただけでもって」



「……リーンさんは、父と母とどのような関係だったのですか?」



「ランバートはあたしの追っかけで、ファルは……シャーラとファルの2人をよく抱っこしていたわ」



「……はい?」



「ほら、あなたの母親も、ミーシャの母親も、とても可愛らしいでしょう? 抱っこしていると、心が落ち着くのです」



「え~っと」



「そんな理由では、納得できませんか?」



「……」



 ランファが小さく噴き出し、話を聞いていたソフィアとセルネも互いに笑い始めた。



「いいえ、わたくしも最近、そんな理由で構ってくる人がいますので、お母様もきっと幸せだったのだろうなって」



「そうですか。でしたらランファ、王都には一緒に行ってくれますね? あたしも2人と顔を合わせたいのです」



「はい、喜んでご一緒させていただきますわ」



 話はまとまったらしい。

 まあこの話も多分アヤメあたりがリョカに伝えているだろうし、今日はこのままここでゆっくりすることにしましょう。

 そんなことを考え、どことなく照れているランファをあたしも撫でるのだった。

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