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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
30章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、やっと王都に行く。

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聖女ちゃんと繋がりの記憶

「クレイン大丈夫かなぁ」



「ヒナリア様も女神様ですし、クレインが本当に嫌がることはしないでしょう」



「……」



「ソフィア良い殺気ね、ちょっと店に行く前にあたしと戦う?」



 リョカがピヨ子に会いに行く話していたが、多分あたしはあの女神を視界に入れた瞬間殴ってしまい、話がややこしくなりそうだったから断ったところ、リョカにおばさんへの伝言を頼まれた。

 別に1人でもよかったのだけれど、たまたま通りかかったソフィアとセルネ、ランファにリョカが伝言の内容を伝え、あたしについて行ってほしいと頼んだ。

 子どもでもないのだから伝言くらいこなせるのだけれど、どうにもそこは疑われているらしかった。



「止めなさい。あなたたち2人に暴れられたらここにいるわたくしとセルネでは止めきれませんわ」



「混ざればいいじゃない」



「誰が事態を悪化させろと言いましたか」



「いやぁ、ランファがいると話が滞りなく進むよ。その調子でリーンさんへの伝言も宜しく」



「……ミーシャさん、この勇者なら殴っても良いですわよ」



「よしきた」



「ちょいちょいちょいっ! 待って待って! 俺が悪かったからごめんって!」



 ちょっとした冗談のつもりだったけれど、セルネの奴は本気で怯えているわね。それならいっそ本気で殴った方がいい気がしてきた。怯え損は可哀想だもの。

 あたしが拳に力を込めていると、先ほどまで殺気を漏らしていたソフィアが口を手で覆い笑い始めた。



「なんだか、こうしていると私たち学生みたいですね」



「ソフィア、ミーシャはともかく俺たちはれっきとした学生ですよ――いだだだだっ!」



「あたしも学生よ。まあソフィアが言わんとしていることはわかる気がするわ」



「1期生では似つかわしくないことばかり起きていますものね。でもソフィア、あなたもその中心にいる自覚はあって?」



「私なんてまだまだです。でも中心に近いところでその物語を指でなぞっている自覚はありますよ」



「……あなたテルネ様の信徒になって、また一層と小難しくなりましたわね」



 微笑みを返すソフィアだけれど、確かに雰囲気が落ち着いた。元々どんな場面でも落ち着ける子ではあったけれど、初めて依頼に行った時の押されただけで気絶するようなか弱い子ではなくなったのは確かで、どうにも頼もしくなった。



「で、そのテルネ様は今絶賛ヒナリア様のお世話中なんだね」



「テルネ、一日中ピヨ子の囀りを聞いていなきゃいけないとか、それはもう拷問じゃない」



「ミーシャさん、女神様相手ですわよ」



「そんなに喧しいの?」



「何はともあれウザいわ、放っておけばずっと喋っているもの。1人でくっちゃべっているならそれほど気にならないけれど、あの子こっちに同意や反応を求めてくるから本当に始末に負えないわ」



「……それ、リョカ大丈夫なの? 可愛い女神様ではあるけれど、流石に参っちゃうんじゃない?」



「リョカは大丈夫よ。どうせあの子なら、非常識には非常識をぶつけるとかなんとか言って、ピヨ子を剥ぐくらいするでしょう」



「女神様相手にそんなことするわけないでしょうに」



「ふふ、でもピヨ子さま、リョカさんと仲良くできると良いですね」



「ピヨ子さま……」



「あなたやっぱり根に持っているじゃないですの」



 そんなことを話しながら、あたしたちはジブリッド商会に辿り着いた。

 店先では店員が掃き掃除をしており、こちらに気が付くと、愛想よくお辞儀してくれ、店員におばさんがいるかを尋ねる。

 すると今は奥にいるとのことで、店員が掃除の手を止めてあたしたちを案内してくれた。



 おばさんがいるだろう部屋の前に辿り着くと、その扉を前にしてセルネの耳と尻尾がピンと立ち始めた。

 抑えきれていない戦闘圧に、どうにも獣部分が反応しているようだ。



「あのミーシャさん、この先にいらっしゃるのは商人の方ですよね?」



「リョカの母親よ」



「なんだかもうそれだけで警戒に値する人物だと言うのがわかってしまいますわね」



「リーン=ジブリッド様、お父様、それどころか国王陛下からも一目置かれている正体不明の大商家の奥さま……実は私もお会いするのは初めてです」



 あたしが扉を数かい叩くと、中からおばさんが「どうぞ」と言ってくれ、あたしたちは揃って部屋に足を踏み入れた。



「あらミーシャ、おかえりなさい」



「はい、ただ今戻りました」



「お、おじゃましま~す」



 セルネを先頭に、ランファ、ソフィアと入ってきて、3人がそれぞれにおばさんに目をやった。

 そんな3人をおばさんはジッと見つめ、少しの後頷いた。



「ああ、ベルギンドのところの1人娘とそっちは……ラスターのクソジジイのところの勇者の坊や。それと――」



 おばさんがランファで目を止め、考え込むような動作をした後、彼女の傍に近寄り、その頭を撫でた。



「うぇ? あ、え? その?」



「ランバートと、ファルのところの子ね。そう、随分と大きくなったのですね」



「……お父様とお母様のことを?」



「ええ、知っていますよ。もちろんあなたのことも――あれはリョカが生まれたばかりの頃だったかしら? あなたを身ごもったファルがお見舞いにやってきて、その場で陣痛が起きてジブリッドの家で出産していったんだもの」



「わたくしジブリッドの家で産まれたんですの!」



「ちなみにそれを聞きつけたシャーラ……つまりミーシャの母親があなたを引っ張りだそうとしている時に産気づいてそのままあなたの隣で出産したわよ。あの時の男衆の役に立たなさといったらなかったですけれど、今でも鮮明に覚えています」



「お騒がせして申し訳ありませんでしたわぁ!」



 随分と愉快は出生を持っていたのね。

 けれどそんなに近しい仲だったのに、どうしてあたしはランファのことを知らなかったのかしら?



「ん? どうかしたのかしらミーシャ」



「いえ、それならあたしがランファのことを知らなかったのはなぜかと思いまして」



「それはあなたの体が弱かったからなのと、リョカがその4年後くらいに王宮を出禁になったからよ。あたしとジークはそれなりに交流があったけれど、あなたたちは連れていけなかったから。ほら、あの頃のあなたはリョカにべったりだったでしょう?」



「あの魔王様なにやったんですの!」



「ヒゲの生誕祭の時、王宮でパーティーがあって連れて行ったのだけれど、あの子ヒゲの銅像砕いてその上で歌って踊りだしたのですよ」



「ああ、あたしが高熱出して寝込んでいた時でしたっけ?」



「ええ、ミーシャに届けこの偉業。とかって歌いだしたわね」



 あの時のことはどうしてかよく覚えている。

 あたしの前で歌うのはうるさくて駄目だろうから、王宮から声を届かせるとかって言って、本当は欠席するつもりだったおじさんとおばさんを無理に連れ出したのよね。



「あの、リョカさんって実は昔に比べて今の方が落ち着いているのですか?」



「ええ、昔は本当にひどかったです。言うことは聞かないし、やりたい放題だし、殴ってもケロッとしているしで手を焼きましたよ」



「魔王になってからの方が大人しいって、本当に読めない人ですわね」



 おばさんがランファの呟きに、かすかだが微笑み、そしてさらに奥に行き、あたしたちにお茶を淹れてくれた。



「用事があってきたのでしょう? ゆっくりしていきなさい」



 そうしてあたしたちはテーブルに案内され、ゆっくりとおばさんと談笑を始めるのだった。

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