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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
30章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、やっと王都に行く。

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魔王ちゃんと女神様と計画

「いっぐ、えぐ……うぇ、ぴょぅ――」



「へへへ、女神様2柱目の泣き顔ゲットだぜ」



「アリシアの泣き顔をお前は見てないでしょう。というかお前の女神の泣かせ方は怖いのよ」



 たっぷりと着せ替えられたヒナリア様が、えんえんと泣きながらクレインくんに抱き着いており、頭を撫でられていた。

 あんなにおしゃべり好きな女神様も僕にかかればあら不思議、喋ることも忘れて可愛いだけの女神様へと早変わり。



「……これがミルドに女神を泣かせたかと問うていた魔王の姿かよ」



「でもあの泣き顔見てくださいよ、可愛いでしょう?」



「やっぱ歪んでるわお前」



 呆れるアヤメちゃんとは打って変わり、感心したようにヒナリア様を見ているルナちゃんとテルネちゃん。



「なるほど、強敵には強敵をぶつけるように、あの子の対応はあの子以上の非常識というわけですか」



「女神で出来るのは……駄目ですね、呼んでも来ないような子たちばかりです」



「アンディルースなら一矢報いえるのでは?」



「あ~、確かに彼女なら黙らせるくらいは出来そうですね」



「……お前ら止めてやれ」



 対処が出来るっぽい女神様がいるようで何よりです。

 僕はトイボックスから持って来ていた菓子を取り出すと、喫茶店の店主に断りを入れ、テルネちゃんとヒナリア様の前にお菓子を置いた。



 ヒナリア様が警戒心マックスな表情で、僕を見上げてきているけれど、涙目と相まって今すぐに抱き着きに行きたいほどだ。



 しかしヒナリア様はクレインくんから離れる気がないのか、ずっとくっ付いている。

 そんな彼女にクレインくんも苦笑いしながらずっと撫でており、背中をポンポンとさすっていて、それを受けている神鳥様は甘えた顔で頬を撫でる手に顔を擦りつけていた。



 僕は今日、彼女に謝りに来たのだ、怖がらせることを目的としていない。

 ヒナリア様の隣に足を進ませると、彼女はびくりと肩を跳ねさせたから、僕はどこか慈愛を含ませた笑顔で彼女を見つめる。



「ぴよぅ?」



「――ピヨちゃん人間の僕が制空権とってごめんねぇ」



「ぴよぉぉぉ!」



 僕の笑顔に、どこか緊張しながらも聞き入る姿勢をとってくれたヒナリア様――改めピヨちゃんだったけれど、後腐れないように軽い感じで謝罪したところ、額に青筋浮かべて叫びだしてしまった。



「お前本当にいい性格しているわね。煽り力半端なさ過ぎるでしょう」



「あのヒナリアがここまで何も出来ないとは。リョカさんは本当にやりますね、今度そういう口撃(こうげき)方法を伝授してもらいましょうか」



「ふふん、わたくしの信徒ですから、今さら女神の1人だろうがどうってことないのです」



「……いやルナ、女神的に魔王がその立場だとマズいってこと自覚してくれよな」



「まあまあ、とにかくお茶にしましょう。ピヨちゃん、これたまご使った甘いお菓子ですよ」



「ぴよぅ……」



 柔らかそうな頬を膨らませているピヨちゃんだけれど、クレインくんが彼女を軽くゆすり、僕の作ったエッグタルトを1つ手に取った。



「ヒナリア様、リョカ様のお菓子は本当に美味しいですから、ここは素直に受け取っておきましょう」



「ぴ~……だんな様が言うなら――あ~ん」



 ひな鳥のように口を開けて待機するヒナリア様に、クラインくんは肩を竦め、その口の中に半分に割ったエッグタルトを運んだ。



「ぴぃ、ぴよ? ぴっ――たまご味です!」



「気に入ってもらえたようで何よりです。テルネちゃんもどうぞ、お茶に合うと思いますよ。一口サイズにしたので手軽ですし」



「ありがとうございます。それではいただきます」



 僕の作ったカスタードプリンとエッグタルトを女神さまたちが嬉しそうに頬張っており、その姿だけでもう、僕はご飯何杯もいけるほどだった。



 するとクレインくんが苦笑いで僕を見ており、視線を返す。



「ああすみません。ただリョカ様、その、俺にはああやってヒナリア様を脅かすような真似は出来そうもないので」



「1つの答えってだけだから真似する必要はないよ。ただああいう方法は所謂ショック療法みたいなものでね、相手が思いつかないような衝撃を与えるからこそ意味があるんだ。もし困ったことがあったのならまったく相手が想像できないようなことをしてみるのもいいんじゃないってこと」



「なるほど。勉強になります」



「その結果服を引き裂くって、お前の頭どうなっているのよ」



「でもピヨちゃん大人しくなったじゃないですか」



 膨れているピヨちゃんの頬をつついていると、アヤメちゃんが呆れたようにため息をついていた。

 けれどこうして女神特権も阻止して、会話を出来る程度には落ち着かせている。実績が出来てしまったのである。文句など言わせない。



 そう僕が胸を張っていると、テルネちゃんが思い出したかのように手を叩いた。



「そういえばリョカさん、王都に行くんですよね?」



「ああうん、お母様のせいで断ることも出来ませんでした」



「ふむ……でしたら今回はソフィアも同行させてはいかがです?」



「う~ん、それはいいですけれど、どうしてまた」



「あの子、リョカさんたちとどこかに行きたがっていましたから、この機会にと思いまして」



 そういえば最初の依頼の時以来、あの子とお出かけなんてしていなかったな。

 周りの人たちが僕とミーシャとソフィアの三強みたいな扱いをするから、あんまり一緒にいると周りが警戒しちゃうからって、ちょっと距離を開けていたんだよね。

 でもよくよく考えればそんなこと今さら気にするものでもなし、女子高生らしく楽しく過ごすのも良いかもしれない。



「そういうことなら喜んで。良かったらテルネちゃんも一緒します?」



「いえ、私は――」



 テルネちゃんが断ろうとしているのがわかり、残念に思っていると最高神の月神様が叡智神様のお腹をつまんだ。



「デブりましたねテルネ」



「……」



「ソフィアさんと一緒に外にも出ずにお菓子ばかり食べているからこんなことになるんですよ」



 顔をヒクつかせているテルネちゃんだったけれど、女神様って太るんだという衝撃に、僕はそっと顔を逸らした。



「いや本来は太らないわよ。ただこっちに長くいると、女神の体がこっちの世界の体に適応し始めて人と同じような体の働きを始めるのよ。だからって死んだり病気になったりするわけではないけれどね」



「ということはルナちゃんとアヤメちゃんも?」



「俺たちはお前が食生活完全に管理しているし、定期的にお前たちと運動しているから太らないけれど、それを知らないソフィアはテルネにあげてばかりだから」



「テルネ、どれだけ上に帰っていないのですか? というか仕事してください」



「ルナに言われたくはないですが、私は女神です、信者からの貢物を無碍にするわけにはいきません。それに信仰を集めることも大事な仕事です」



「頑張ってテルネちゃん人形作れるようにしましょうか?」



「……まあ出来るのなら是非に」



「リョカさん甘やかしちゃ駄目ですよ」



「お前が言うなお前が」



 テルネちゃんが自分のお腹をプニプニしている様を瞳から心の奥底に保存しながら、僕はそれならと提案する。



「やっぱり一緒しましょう? もしよかったらカロリー少なめのお菓子のレシピをソフィアに渡しますし、その味見もかねて、ね?」



「……そうですね、そういうことなら私も付き合います」



「決まりですね、予定が決まったらソフィアに――」



「俺が伝えるからいいわよ。ったく、またお前らの面倒を見なければならないのね」



 ルナちゃんとテルネちゃんを見て、アヤメちゃんが肩を竦ませた。

 そういえば神獣様は2人よりお姉さんの女神様だったんだっけ? 普段の行動では幼いところも目立つけれど、それはどちらかといえばわざとやっているっぽいからなぁ。

 テッドちゃんの時といい、フィムちゃんの時といい、度々お姉さんの顔を覗かせるアヤメちゃんにとって、ルナちゃんもテルネちゃんも手のかかる妹というところなのだろうか。



 そんな風に感心していると、月神様も叡智神様も苦虫をかんだような顔をして神獣様を見ていた。



「誰がいつ面倒をかけましたか」



「本当、獣の脳は当てになりませんよね」



「……お前らそう言うところだからな?」



 首を傾げる長女め神様~ずに、親戚の叔父さん叔母さんムーブで頭を抱える神獣様に、僕はつい微笑んでしまうのだった。

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