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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
4章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、初めてのダンジョン。

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魔王ちゃん、パーティーを組む。

「リョカちゃん、ミーシャちゃん、いらっしゃい」



「こんにちはマナさん、やっと僕をちゃん付けでよんでくれるようになったね」



「ごめんね、最初は魔王って聞いて怖かったけれど、リョカちゃん可愛いし、お話楽しいしでお姉さん気に入っちゃったの」



 勇者騒動から数週間が経ち、僕とミーシャはヘリオス先生からもっとスキルの扱いを磨くように言われた。さらに先生風に言うなら、今の段階では2人に教えられることもなく、クラスメートとの足並みが揃わないから、依頼でも受けて気晴らしにでも行ってこい。とのことだった。



 僕たちは定期的に学園に戻って報告をしてはいるけれど、ここ何日かはゼプテンを活動拠点としていて、前に来た時よりここのギルドの人々とは仲良くなり、受付のマナさんはすでに敬語を使わなくなった。



「馴れ馴れしくなった代わりにマナのお腹はどんどん丸くなっていくわね」



「リョカちゃんが美味しいお菓子毎回持って来てくれるからよぅ」



「いやみんなに持ってきてるのに、いつの間にかマナさんが1人で食べちゃうからでしょう」



「駄目なお姉さんね」



 ミーシャの鋭い一言にマナさんが肩を落とした。

 そしてふとギルド入り口から気配を感じているけれど、そっちは後にして僕はマナさんに依頼について聞く。



「マナさん、ガイルたちはまだ帰って来ないの?」



「うん、ギルドマスターも同伴の結構大きな仕事みたいで、まだちょっとかかるみたい。2人と戦いたいとガイルさんが五月蠅いってギルドマスターから手紙で愚痴を言われちゃった」



「僕、ギルドマスターにまだ会ったこともないし、挨拶もしていないから、早く会ってみたいんだよね」



「マスターもリョカちゃんとミーシャちゃんに会いたいって言っていたよ。2人とも大分期待されているね」



「まずはパンチからかしら?」



「出会う人にいきなりパンチかますのは止めてって言ってるでしょう。ミーシャ、依頼受けるようになってから初対面の人はとりあえず殴っておけば良いみたいに思い始めているでしょ?」



 それが何か? みたいな顔で首を傾げるミーシャに、周りの冒険者たちがげんなりと苦笑いを浮かべていた。



「ミーシャちゃんは本当ガイルさん寄りだよね。戦えば何とかく全貌がわかると思っている節があるというか」



「わかるでしょう?」



 僕はマナさんと顔を見合わせ、頭を抱えてため息を吐く。



 このギルドにはガイルを中心とした脳筋派閥があるのだけれど、ガイル不在の今、ミーシャが率先して脳筋どもと喧しく騒いでいる光景を毎晩見ている。

 教育に悪かったかと、彼女のお父さんに何と言えばいいのかが最近の僕の悩みだ。



「えっと、それでマナさん、何か良い依頼ないですか? 最近は採取ばかりだったからミーシャが微妙に苛立っていて。出来ればミーシャが殴っても大丈夫な敵がたくさん出て、それなりに僕が楽しい依頼があると良いんですけれど」



「結構贅沢な依頼だね。うん、でもあるよ。今日リョカちゃんたちに薦めようと思っていたんだけれど、これなんてどうかな?」



 マナさんから渡された依頼書をミーシャと2人で見る。



「遺跡探索? 結構珍しいですね」



「そうなの?」



「そうだよ、だってこの手の遺跡って見つけた者勝ち。こんな美味しい話をわざわざギルドを通して、しかも大事な情報を冒険者にタダで渡すなんてありえないでしょ」



 図鑑などを相変わらず作ることのない文明だけれど、冒険者への依頼は情報ではなく、ただのSOSであるために、紙に書いて提出している。

 けれどそれはやはり助けてほしいために仕方なくやっていることで、自分の利益になることならばわざわざ冒険者には頼まない。



 遺跡の発見というのはそれほどに利益を生む可能性のある物で、例え見つけたとしても最初に発見者が身近な者を使って探索し、宝などを掘り起こしてから、ギルドに内情や魔物の種類、その魔物の持つ何かが利益になるようならその情報を売りつつ、別の採取依頼で役立てるように商売がされる。



 つまり遺跡――ダンジョンは宝目当てのものではなく、そこに生息する魔物や素材を採取するための施設でしかなくなる。



「探索を僕たちがやって良いんですか?」



「う~ん、私もそこは気になっていたんだけれど、ギルドマスターがそれならリョカちゃんたちにって」



 ギルマス直々の依頼か。少し嫌な予感がするけれど、隣のミーシャはすでにヤル気満々で、断るという選択肢はなさそうである。



「受けるわよね?」



「ん、何か思惑がありそうだけれど、ギルマスのお墨付きなら断るわけにもいかないよね。ねえマナさん、そのダンジョンって初心者がいても大丈夫かな?」



「ダンジョン? まあ2人はすでにそれなりの冒険者ですし、下手をうつことはないと思うよ」



「うんにゃ、あっちの子たちがいても大丈夫かってこと」



 僕はギルド入り口でさっきからこちらを窺っている2つの影を指差した。



「カナデじゃない。それと……またあたしに殴られたいのかしら?」



「ミーシャ、セルネくん悪い子じゃないってルナちゃんも言ってたでしょう。少しは優しくしてあげて」



 そこにはカナデ=シラヌイとセルネ=ルーデルがいた。



「やっぱりバレていますわ。セルネ、だからさっさと突っ込みましょうって言ったじゃないですの」



「あなたはどうしてそう血気が盛んなんだい? 学園はギルドに嫌われているんだから少しは慎重にならないと」



「本当に勇者ですの? 絡まれたら先手必勝ですわ。あ、リョカ、ミーシャ、わたくし来ちゃいましたわ」



 元気よく手を振るカナデに僕も手を振り返す。その際、セルネくんが控えめに手を振っていたのを見逃しはしなかったけれど、やはり小動物だなと確信する。



「喧しいのが来たわね。というかあいつらいたら邪魔でしょ」



「そんなことないよ。誰だって初めてはあるんだ、ミーシャだって最近やっと周りを見られるようになったでしょ。それでマナさん、あの2人を連れて行くことは可能ですか?」



「え~っと、リョカちゃんが言うなら良いって言いたいけれど、さすがに初心者過ぎない? あの2人は強いの?」



「片方は勇者で、片方はテッカと同郷の精霊と契約した精霊使いだよ。実力はそれなり。というか僕とミーシャって性能が極端でしょ? だからあの手のギフトを持っている子たちと一緒に行きたかったの。だめ?」



 マナさんが考え込んでおり、少し時間がかかるかなと身構えているとセルネくんが幼子のように袖を引っ張ってきて彼に振り返る。



「すみませんリョカさん、カナデがヘリオス先生からそれなりの評価を貰えたことで、2人と一緒に依頼を受けると暴れ出してしまって。それでたまたま近くにいた俺と一緒ならという条件で、学園から出してもらったんです」



「なるほどね。あ、セルネくん僕にそんな言葉使いしなくていいよ。同い年なんだからもっと楽にしようよ」



「ん……えっと、うん、ありがとうリョカ」



 控えめな名前呼びに、僕は彼の頭を撫でた。すると唸っていたマナさんが顔を上げたためにそちらに視線を向ける。



「うん、わかりました。2人の登録書は今回の依頼で発行できるか決めましょう。リョカちゃんとミーシャちゃん、ちゃんと2人の面倒を見てくださいね」



「いやよ面倒くさい」



「3人とも僕が引率するから任せてください」



 嬉しそうに飛び跳ねるカナデを横目に、拳を握って圧を向けてくるミーシャを無視して、僕たちは依頼を受理した。

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