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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
3章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園でエキサイトする。

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魔王ちゃん、可憐な月に出会う

「あ~疲れた」



「変な気なんて回すからそんなことになるのよ。ああいうことはあたしを最初から混ぜなさい」



「その結果が丸まる僕の疲労になるんだけれど」



 勇者であるセルネ=ルーデルくんを打ち倒した僕は、怪我人の治療に奔走したりクラスメートの友人たちに化粧を教えたりと動きっぱなし喋りっぱなしだった。

 そしてやっと帰路につくことができ、こうしてミーシャと寮へと帰っているのだけれど、やはり疲れた。



「僕1人で良い感じに締めようと思ってたのにさぁ」



「無理よ。どうせあたしが乱入するんだから良い感じになるわけないじゃない」



「僕はミーシャに自重しろって言ってるんだけれどなぁ」



 勝気に胸を張る幼馴染に僕はため息を溢す。

 まあそもそもの原因が自分にあるのも理解しているし、今日は強く言わないでおこうと決める。



 そうしてなんでもない会話を続けていると、ふと噴水前に差し掛かったことに気が付き、足を止める。



「どうかした?」



「あ~、ううんなんでも」



「ふ~ん」



 ミーシャも足を止めてくれ、僕の顔をジッと見ている。興味なさそうな言動をするのなら態度にも示してほしいけれど、そうもいかないのだろう。



「……ねえミーシャ、僕ってさ友だち作るの下手?」



「何を今さら、下手くそすぎる部類でしょう」



「もうちょっとオブラートにだね」



「オブラートって何よ。まあけど、別にいいんじゃない? あんた器用だけれど、真面目になると不器用だし、そんなのいつものバカみたいに可愛いかそうじゃないかで計れば良いでしょう」



「さては可愛いを馬鹿にしてるな」



「してないわよ。あんたそれに関しては真剣だし、馬鹿にするわけないじゃない」



 中々に素直な言葉が僕の心に刺さる。ミーシャはこういうところがある。令嬢なのに突っかかりやすいのはこの性格が影響している。



 だからこそ、つい言葉にしてしまう。



「ごめんねミーシャ」



「ええ、今日の晩御飯お肉増し増しで許してあげるわ。他の子にもあたしみたいに接してあげなさいな」



「うん、ありがとう」



 どうにもくすぐったい会話に多少照れてしまうけれど、まだまだミーシャには甘えていこうと決める。

 随分と軽くなった心と足、変なことなんて考えなくていいんだと確信した。



 この結末も、女神さまは見てくれているだろうかと噴水に目を向けると、それは突然世界から音が消えたかのような静寂が訪れる。



「わ――」



「う~ん?」



 まるで世界が灰色になったかのような空間で、動いている影は僕とミーシャだけだった。



「これは」



「とても良いものを見ることができました」



 玉のような可愛らしい声色、その少女が歩く度に玲瓏な音が耳に届くという不思議な感覚。

 戦闘狂なミーシャでさえ、息を呑んで彼女を見ていた。



「セルネ=ルーデル、悪い子ではないのですけれど、お家柄とても大きなプレッシャーを抱える子でした。リョカさん、彼を導いてくれてありがとうございます」



「……いいえ、あの子。セルネくんは僕がいなくてもちゃんと立派な勇者になっていたと思いますよ」



「そうかもですね。でもあなたと関わったことでもっと素敵な勇者になれるはずです」



「そんなに褒めても焼き菓子くらいしか出ませんよ」



 僕は彼女、女神さまに焼き菓子の入った袋を手渡すと、とても嬉しそうな顔で焼き菓子を頬張った。



「ね、ねえリョカ、この人って」



「初めまして、ミーシャ=グリムガントさん、わたくしは……そうですね、ルナとお呼びください」



「ルナちゃんって呼んでいいですか?」



「ええ、構いませんよ」



 クスクスと声を漏らす女神さま、改めルナちゃんが可憐に笑った。

 驚いていたミーシャだったけれど、諦めたようにため息を吐くとすぐに勝気さを取り戻したように腕を組んだ。



「ええルナ、よろしく」



「ミーシャさんも結構図太いですよね。わたくしは大歓迎ですけれど」



「まあミーシャですから。それでルナちゃんはなにか用があってここに?」



「まあ酷いですわリョカさん、わたくしはただ、お友だちに会いに来ただけなのに」



 スンスンと声に出しながら鳴き真似をするルナちゃんがとても可愛らしく、僕は彼女を抱き上げる。



「光栄ですよ~」



「きゃぁ~」



 嬉しそうな声を上げながら抱き着いてくるルナちゃんにミーシャが訝しんでおり、僕は幼馴染の手を取ってルナちゃんを撫でさせる。



「もうあんたのことで驚きはしないわよ」



「どっちかっていうと僕の方が驚いていること多いからね」



「聖女パンチは初めて見ました、ああいう使い方も出来るんですね。ミーシャさん、わたくしの同僚の間でも大人気ですよ。わたくし、ちゃんとわたくしの信者でいてもらえるようにいつも守っていますから」



「神々から大人気なのかミーシャって」



 見ていて飽きないと評判です。と、言い放つルナちゃんの喉元を撫で、僕は相変わらず末恐ろしい幼馴染に目を向ける。



「まあこれから先、そう言う類からちょっかいをかけられるかもしれませんけれど、受け入れてしまっても大丈夫ですよ。管轄はわたくしなので」



「ええ、これからも精進するわ」



 ミーシャの言葉に満足したのか、ルナちゃんが僕の腕から降り、そして噴水の方に歩んでいく。



「もう帰っちゃうんですか?」



「はい、これでも色々と忙しいので」



「そっか。また焼き菓子を食べてもらいたい時はここに置いておけばいいんですか?」



「う~んと、ミーシャさんの部屋にわたくしの祭壇を作っていただければいつでも」



 そう言ってルナちゃんが僕とミーシャにそれぞれペンダントをくれた。

 僕に渡されたそれは三日月のような形がチェーンの先についており、ミーシャのペンダントには何もついていなかった。



「リョカさんにはわたくしの加護を、ミーシャさんには神々の加護を。これはぜひ2人が身に付けてください。きっと役に立ちますから」



「おおぅ、これって凄いものでは? でもありがとうございます」



「ん、ありがとう」



 相変わらず可憐に微笑むルナちゃんだけれど、体が蜃気楼のようにゆらゆらとし始めた。



「ああそうだリョカさん、もう自分で結論を得たかもしれませんけれど、あなたは女神すらもお友だちにしてしまう魅力的な人です。あなたが誰かに対してどう思おうとも、きっとあなたのことを見ている人はこの世界にはいます。ですから、胸を張ってください。わたくしはいつでもあなたの幸せを願っていますから」



 そう言ってルナちゃんは風に吹かれて掻き消えてしまった。

 それと同時に世界に色が戻り、制止していた時が産声を上げるかのように動き出した。



「……本当に優しい女神さまが治める世界だよね」



「これ、教会に報告したら阿鼻叫喚になるわね」



「だねぇ、身近な人以外には黙っておこうね」



「そうね」



 思いがけない神託に、僕たちはただ呆けることしか出来なかった。

 女神さまに友だちだと言われたこと、意外にも甘えん坊オーラ増し増しのルナちゃんの笑顔を思い出しては和み、僕たちは夢うつつなまま帰路へと着いたのだった。

登場人物


     ヘリオス=ベントラー  イケオジ教員で、生徒のことを色々考えてく

                 れる。

                 ギフトは『万物を抽出し創る者(マルティエーター)



     オルタリヴァ=ヴァイス 宝石オタクで、オタク3連星の1人。



     タクト=ヤッファ    魔物オタクで、オタク3連星の1人。



     クレイン=デルマ    健康オタクで、オタク3連星の1人。



     ソフィア=カルタス   最近やっとリョカの顔色が窺えるようになっ

                 た。

                 ミーシャが最強だと思っている。



     カナデ=シラヌイ    2人とは中等部からの友人。

                 なんちゃって淑女でミーシャの次に口が悪

                 い。

                 ギフトは精霊使い。



     ランファ=イルミーゼ  勇者に仕える家系の娘。癖の強い淑女。

                 ギフトは『光を従え歩む者(プリンシパルルミナ)



     ジンギ=セブンスター  ヤンキー、セルネと一緒に行動している。

                 ギフトは『未熟者の金属片(ナイトマイトメタル)



     セルネ=ルーデル    勇者のギフトを持つリョカたちの同級生。

                 最初は敵対していたが、元々小動物気質なと

                 ころがあり、すぐにリョカに懐いた。

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