魔王ちゃんと鋼鉄を宿す者
「あぁぁぁっ! とんでもない可愛いを察知したような気がする! その場に、いられなかった……」
「……なんつうか、定期的に情緒不安定になるなぁリョカは」
「ジンギくん! 可愛いは、一期一会」
「すまんちょっとよくわからん」
ロイさんとエレノーラとラムダ様に学園を案内している途中、ジンギくんと出会ったのだけれど、ふと僕はどこかからとんでもない可愛いを察知してしまい、その場でひざを折り、OTLの形で床を叩いた。
「あ~テッドだね~。あの子フィムかアリシアがいないと人見知りがすごいから」
「あのボーイッシュな見た目で! 人見知りでオドオドするテッドちゃん! 可愛いが呼んでる!」
「呼んでない呼んでない。ロイさんとエレの案内してんだろうが、せめて役目は果たせ」
エレノーラを高い高いしながら、人の心が見えない言葉を放つジンギくんに、僕は頬を膨らませた。
「ジンギくんだけじゃなくてランファちゃんもなんだけれどさぁ、僕に対するツッコみ技術上がってない?」
「ツッコませるようなことばっか言ってるから悪いだろうが。エレはリョカのいいところだけ真似ろよ」
「は~い」
随分とまとも路線を進みおって。もっとこう、最初に会った時のようにイキり散らしても僕は全然いいと思うけれどね。
しかしテッドちゃん見たかったなぁ。
というか彼女は一体何をしに……ああ、タクトくんかな? ギフトと加護でも与えに来たのだろう。
『大地の魂の極光』はジュウモンジからしか受けたことがないけれど……あれ『魔と歩む者』を使っていると、どういう風に作用するんだろう? 2つとも体を変化させる作用だけれど。
う~ん、まあ後の楽しみにしておこう。
そんなことを考えていると、終始微笑んでいたロイさんが、ジンギくんと目を合わせた。
「ああそうだジンギくん、お礼が遅くなってしまったけれど、ダンジョンではエレノーラと一緒にいてくれてありがとう」
「うぇ? いやいや、たまたまパーティーになっただけで」
「この子がズルをした時もしっかり叱ってくれて、君が一緒で良かった。だからこそのお礼です。今度、私に出来ることがあれば頼ってください、力になりますよ」
ジンギくんが照れたように頭を掻いたが、すぐに首を横に振った。
「いや、礼でいうのなら、エレとロイさんにはお嬢様を助けてもらいましたから。むしろ返しきれないほどの恩があるのは俺の方ですよ」
ジンギくんの言葉に、ロイさんが首を振ろうとしているところで、僕はストップをかける。
この2人、中々に人が出来ていて謙虚すぎるから、この手の話はぶった切るに限る。
「はいストップ。2人とも、謙虚は美徳だけれど、お礼合戦は際限ないんだからそこまでにしておこうね」
ロイさんもジンギくんも苦笑いを浮かべている。
人が良すぎるのも考え物だ。
「2人とも根が真面目みたいだからねぇ。あたし的にはそう言う人は好ましくていいけれどね」
「お父様もジンギお兄ちゃんも、優しくて大好きです」
照れる2人に和んでいると、そういえばと僕はジンギくんに尋ねる。
「そういえばジンギくん、欲しいものは決まった? こう見えて最近では巷を賑わせている魔王の1人なんだ、大抵のものは用意できると思うよ」
「う、う~ん、いや……まだ、な」
おや、この反応。
頼みにくいことだろうか? でも今さら水臭い。
それとも僕に知られると恥ずかしいことだろうか。
「はっ! い、いやぁジンギくん、いくら僕が可愛いからってそういうお願いはちょっと――」
「何を勘違いしているのかは知らないが、セルネの色ボケと一緒にすんなよ」
「なんだ違ったか。それじゃあ僕のちょっとエッチな秘蔵写真――」
「いらねぇよ。お前俺をなんだと思ってるんだ」
「む~……」
エレノーラが自身の体をペタペタ触っているのは見なかったことにして、僕は思案顔をわざとらしく浮かべて、考えているようにジンギくんに見せる。
ここまでしているんだ、いい加減話してくれると嬉しいんだけれどなぁ。
ロイさんも口を挟まずに、僕たちを大人らしい微笑みで見守ってくれている。きっと何かあっても手を貸してくれるだろう。
「――だぁわかったわかった。えっとだな……」
「うん?」
「――げきりょく」
「う~ん? ちょっと聞こえない」
「だあもう! 攻撃力! こんなことお前に頼んでもしょうがねえだろう」
なるほど。あのダンジョンでの戦いで、攻撃が通らないことが相当キているみたいだ。
でも心外だなぁ。これでも僕はあの金色炎の勇者様に、圧倒的な火力を授けたんだぞ。
「ふむ……まあ知恵を授けられないわけではない」
「は? 俺には新しいギフトもないぞ」
「ギフトだけが火力を生むものでもないでしょ。いやね、ナイトマイトメタルを見た時から、ちょっとやれそうだなぁって考案していたものがあるんだけれど……ジンギくん、試してみる?」
「……」
ジンギくんが考え込んでいる間に、僕はこそとラムダ様に耳打ちをする。
「ラムダ様、僕の記憶ってジンギくんに見せられますか?」
「え? それってあっちのこと? う~ん、そういうのはルナが得意だからなぁ」
「それじゃあルナちゃんを――」
「リョ、カ、さ~ん!」
「おっと」
突然飛びついてきた月神様をしっかりと抱きとめ、その場で彼女を抱っこしたままクルクルと回る。
そして足を止めて、ルナちゃんをぎゅっと抱きしめ、最高に可愛い女神様を僕は満面の笑みで迎えた。
「なんだか求められている気がしたので、走ってきちゃいました」
「ルナちゃん最カワだよぅ。あ、でもあとでテッドちゃんの可愛いシーンも見たいのでお願いします!」
「ばっちり録画済みです!」
離れたところで、ミーシャとアヤメちゃん、タクトくんとクレインくん、テッドちゃんと後ろから隠れるようについてきているヒナリア様。
そこでテッド様が顔を赤らめて、何か言いたげにルナちゃんを見ていた。
「それでどうかしましたか?」
「ああうん、実はジンギくんに見せたい記憶があるんだけれど、それだけをピックアップすることは出来ますか?」
「う~んと……」
ルナちゃんが僕の頭に触れて目をつぶった。
そして目を開いて頷くと、エレノーラを手招きした。
「エレノーラさん、ちょっと協力してもらっていいですか?」
「うぃ? エレで役に立つことなら喜んでっ」
ルナちゃんが準備している間に、僕は奥で待っているミーシャに声を上げた。
あのメンバー構成、多分戦う気なのだろう。
「ミーシャ! 戦うんなら昨日のダンジョンが残っているからそこでやりな! 校内なんかでやったら色々とぶっ壊れるでしょ!」
一緒にいたタクトくんとクレインくんもそれに思い至ったのか、ハッとなって僕に頭を下げた。
あいつらまったく考えてなかったな。
ミーシャが片手を上げて承諾したのを見届けると、ルナちゃんの準備ができたらしい。
「それじゃあジンギくん、君を強化するための上映会だ。しっかりとその目に焼き付けな」
「お、おう?」
そしてルナちゃんがミーシャたちの方に戻ると同時に、エレノーラの『偶像神話妄想世界』による編集済みの記憶の放映。
ジンギくんも男の子だし、きっと気に入るはずだ。
というか僕が見たい。
そうして、ジンギくんのための上映会は、ロイさんとエレノーラ、ラムダ様と僕を観客に、その目に映し出されるのだった。




